チムタムの説明と私の答えの意味
「きゃあ〜〜〜〜〜! 一緒に手を繋いで飛ぼうですって! 実際に聞いたのは初めてだわ! きゃあ〜〜〜素敵素敵! 全乙女の夢よ!」
入院棟の受付で書類を渡して指定された個室に案内されたんだけど、部屋に入るなり私の手を離したチムタムは、さっきよりもさらに高いテンションでそう叫ぶと左側から私に抱きついて来た。
そして抱きついたまま、まだテンション高く素敵素敵を連呼している。
「ええと、ちょっと落ち着いてよチムタム。それで、何がそんなに素敵なのか説明を求めてもいい?」
ちょっと貧血気味だった私は、とにかくベッドに座ってから同じく隣に座ったチムタムにそう尋ねた。
「え? 何言って……ああそっか! ルリはまれびとだから知らなかったの? もしかしてあんなに完璧な答えを返したのに、そもそも気付いてなかったりする?」
「ええと、その主語は、何?」
全く話が分からずそう尋ねると、私から離れたチムタムは両手で顔を覆ってベッドにパタリと倒れ込んだ。
「あはは……頑張れ、グレイさん」
「ねえ、ちょっと。自己完結してないで説明をお願いします!」
笑いながらそう言って上半身だけベッドに倒れ込んだチムタムの肩に左の手をやり、ゆさゆさと揺らしてやる。
「あはは、ごめんごめん。ちょっと待ってね。もうすっかりここの生活に馴染んでいるから、ルリがまれびとなんだって事をついつい忘れそうになるわ。そうよね。まれびとなんだから知らなくて当然よね」
ここでようやく笑いを止めたチムタムは、一つため息を吐いてからそう言って体を起こし、ベッドの横に置いてあった丸椅子に座り直した。
「じゃあ、説明するからよく聞いてね!」
キラッキラに目を輝かせたチムタムにそう言われて、思わず私も座り直す。
「お願いします」
居住まいを正した私の言葉に、満面の笑みで頷いたチムタムが左手を差し出してきたので、なんとなく左手で握り返す。
「怪我が治ったら、こんなふうに手を繋いで私とも飛ぼうね」
笑顔でそう言われて、もちろん私も笑顔で頷き返す。
「ええ、もちろん。楽しみにしているわ。一緒にたくさん飛ぼうね」
笑顔の私の言葉に、チムタムも笑顔で大きく頷く。
「それでね、さっきグレイさんが言った、一緒に手を繋いで飛ぼう。実は、この言葉には重要な意味が込められています!」
「重要な意味?」
首を傾げる私を見て、握ったままだった左手をブンブンと上下させるチムタム。
「私とルリは、同じ女性同士。これは分かるわよね?」
当たり前の事を言われて、当然なので頷く。
「今私が言ったように、同性同士で、手を繋いで飛ぼうって、この後の約束をしたとしても、そこにはそれ以外の意味はないわ。言葉通りのそのまま。今度、一緒に手を繋いで飛ぼうねって意味になる」
当然なので、もう一度頷く。
「それでさっきの話になるんだけど、グレイさんはルリとは性別が違う男性。このように、異性から今度手を繋いで一緒に飛ぼうと言われた場合……」
何故かここで言葉が途切れ、手を離したチムタムが、またしても両手で顔を覆って悶絶し始めた。
「だから、そんなところで説明を切らないで。異性から言われたら何が違うって言うの?」
肝心なところで説明が途切れてしまい、悶絶したまま何も言ってくれないチムタムを左手で突っつく。
「異性から〜〜手を繋いで一緒に飛ぼうって言われるのは〜〜!」
胸元で手を握りしめてキラッキラに目を輝かせて天井を見上げたチムタムは、歌うかのように調子をつけてそう言ってから私を見た。
「言われるのは?」
もう一度首を傾げる私を見たチムタムは、もうこれ以上ないくらいのいい笑顔になった。
「そう言われるのは〜〜〜〜貴女が好きです。一緒にいて欲しいですって、そういう意味なの!」
「え?」
チムタムの言葉は耳に入って来たんだけど、意味が頭まで届かない。
呆然とする私を見てまた悶絶したチムタムは、キャーと歓声を上げてからベッドに座った私の膝を叩いた。
「それで〜〜〜そう言われた相手がそれに同意すれば、はい、今度一緒に飛びましょうって返事をするわけ。ね! それでさっきのルリは、何て言った?」
「ええと……確か、怪我が治るまでまだしばらくかかりそうだけど……元気になったら、一緒に、飛んでくださいって、そう答えたような気が……」
そう言ってから、ようやくチムタムがあれほど素敵素敵と連呼して、全乙女の夢だとも言っていたその意味に気づいた私は、唐突に真っ赤になった。
本当に、ボンって音がしたんじゃあないかと思うくらい唐突にね。
そしてそんな私を見て、またキャーと歓声を上げて私の膝をバンバンと叩くチムタム。
私も情けない悲鳴をあげて左手で顔を覆うと、さっきのチムタムみたいにやや横向きのままベッドに倒れ込んだ。
もう、恥ずかしすぎて穴があったら飛び込みたい気分よ!
咄嗟に引き寄せた上掛けに顔を隠して、さっきのチムタムとはまた違う意味で恥ずかしさのあまり悶絶していた私だったわ。




