子供達の帰還とグレイさんとの語らい
「皆は大丈夫かしら?」
ようやく落ち着いたところで、置いてあった椅子にとにかく並んで座った。
「一応、狩猟組の人にファングワームが複数出たって報告はしたわ。私が出てきた時点では、怪我人はオリーブとチムニーだけだったけど……あの後どうなっているかは分からないものね。心配だわ」
チムタムの言葉に、私も思わず胸元で拳をぎゅっと握りしめた。
顔を見合わせて同時に口を開こうとした時、何やら騒がしい声が聞こえて思わず揃って立ち上がったわ。
「おい! 怪我人が二名だ!」
大声が聞こえて、私達は慌てて廊下を走って外に飛び出した。
「ヴァッシュ君! それにアンジー君も!」
狩猟組の人達に両脇を抱えるようにして運ばれて来たのは、以前私がまだ飛べていた頃に、いつもパンの木の上側部分を一緒に採取していた薄い灰色でオカメインコの翼を持つヴァッシュ君と、いつも笑顔でちょっと太めな、フクロウの翼を持つアンジー君。
二人とも右腕が肘の辺りまで血まみれになっていて、背中の翼もあちこち羽がちぎれているし、風切り羽も噛みちぎられたのだろう、酷い有様になっている。
見たところ翼からの出血は無いみたいだけど、あれだけ風切り羽がちぎられていたら生え変わるまでは飛べないだろう。
「ちょっと大丈夫? ねえ、他の子供達は!」
駆け寄ったチムタムの言葉に、顔を上げたヴァッシュ君が泣きそうな顔で笑った。
「子供達のところに跳ね飛んできたファングワームが三匹いたんだけど、俺とアンジーで全部やっつけたよ。まあ、俺達はこんな有様になったけどさ」
「オリーブ以外、子供達に怪我はないはずだ。本当にすぐに狩猟組の人達が来てくれて、残っていたのがまだ五匹もいたのに、あっという間に片付けてくれたんだ。やっぱ格好良いよなあ……」
こちらも顔を上げたアンジー君が、泣きそうになりながらも笑ってそう言ってくれた。
「そうだったのね。子供達を守ってくれてありがとう。ごめんなさい。手当をお願いします!」
担架が運ばれてきたのを見て、慌てて下がった私達だったわ。
「ルリ! 大丈夫か!」
その時、叫ぶ声と共に子供達を三人腕に抱えたグレイさんがこっちに向かって飛んでくるのが見えた。
「大丈夫です! ちょっと怪我をしただけです!」
三角巾で固定されている時点でちょっとではないだろうけれど、そう言うより他はない。
「それはちょっとの怪我ではないと思うぞ。ほら、降りなさい。もう大丈夫だ」
真顔で私にそう言ったグレイさんは、後半は優しい声でそう言い抱いていた子供達をそっと地面に下ろした。
「お父さん!」
「お母さん!」
「お母さん!」
三人は、降ろされた時は呆然としていたんだけど、こっちに向かって飛んでくる人を見るなりそう叫んでその場に座り込んで泣き出した。
「良かった! 怪我は無いか!」
「ああ、無事でよかった!」
「無事だったのね!」
私達のすぐ横に舞い降りてきたのは、地上との取引をした時に大きな荷物を軽々と運んでくれた鷹族の翼を持つ男性と、赤から緑に青とグラデーションのように色が変わっている、何とも華やかな色の翼を持った女性が二人だった。
あ、あの翼はベニコンゴウインコね。以前教えてもらったから覚えているわ。
三人はそれぞれ泣き出した子供達を抱き上げると、安堵のため息と共にそう言ってぎゅっと抱きしめていた。
確かに、採取に出た先でファングワームが出たと聞けば心配もするだろう。
見ると、ホームの庭には狩猟組の人達を中心にカーク君やキース君も次々に飛んで戻ってきていた。
皆、両手に子供達を抱えているから、今回はホームへ歩いて戻るのではなく飛んで連れてきたみたい。確かに怖い思いをしただろうから、一刻も早く連れて帰ってあげるべきよね。
次々に出迎えに駆け出してきた父親や母親に飛びつき泣き出す子供達を見て、私達もちょっと涙目になっていたわ。
「ルリ、本当に怪我は大丈夫か? それで、何があったか聞いていいか?」
親に縋り付いて泣き出す子供達を見ていると、横からグレイさんが遠慮がちにそう尋ねてきた。
「はい。ええと、私達が森で採取をしていたら、奥の茂みから急にファングワームが飛び出してきたんです。私は全然気付けなくて、近くにいたチムニーが気づいて咄嗟に私を押し退けて守ってくれたの。出てきたファングワームはもの凄く大きかったわ。以前、短剣の訓練をした時に見せてもらった模型の倍くらいはあった。それで、チムニーがそいつと戦っていると、また茂みからもう一匹あの模型くらいの大きさのが飛び出してきて、チムニーの羽に齧り付いたの。風切り羽が噛みちぎられて血飛沫が上がったわ。それで咄嗟に私もあの短剣を取り出して、こんな感じで剣を突き出したまま飛び込んでいったの。そうしたら……勢い余って剣ごと口の中へ手首の辺りまで突っ込んじゃって、その時に口の周りにあった短い歯に引っ掛けたというか当たったというか、そんな感じで右腕の手首の下あたりに怪我しました。そのファングワームは一瞬でジェムになって転がって、もう一匹はチムニーと一緒に剣を頭に突き刺して倒しました……ああ! 剣を放り出してきちゃった! ごめんなさい。せっかく貸してもらったのに!」
完全に慌てていたので、あの場に剣を放り出したまま帰ってきてしまった。
今更ながらそれに気付いて我に返って慌てていると、私を見て吹き出したグレイさんが一瞬であの短剣を取り出して見せてくれた。
「警戒しながら周囲を確認していたら、地面にこれが落ちていたから本気で驚いたよ。それで慌ててルリを探したんだが何処にもいなくて、カークに聞いたらチムタムと一緒に怪我をしたチムニーとオリーブをホームへ運んだと聞いてね。その……飛べるようになったというのは本当なのか?」
私を見つめるグレイさんの言葉に、笑顔で頷いた私は精一杯翼を広げてみせた。
「チムニーが怪我をして、でも周囲からも悲鳴や叫ぶ声が聞こえていたから、ファングワームが出たのがここだけじゃあないと気が付いて、私が飛べればいいのにって心から思ったの。それで、思いっきり走りながら飛び上がって、一度目はそのまま落ちたんだけど、あ、その時にも出てきたファングワームを咄嗟に踏んづけたわ。妙な弾力があってすごく気持ち悪かったわ。それでそのままもう一回力一杯飛び上がって羽ばたいたら……」
「飛べたのか?」
「ええ。飛べました。あとはもう、今まで飛べなかった事が嘘みたいに普通に飛べたわ。それでここまでチムタムと一緒に怪我をしたチムニーとオリーブを運んできたの。実を言うと、看護師さんに言われるまで自分が怪我をしていた事に気付いていなかったのよね」
誤魔化すようにそう言って右腕を軽く叩いてみせると、真顔になったグレイさんは包帯でガチガチになった私の右腕をそっと撫でてくれた。
「現場では、必死になって戦っていて怪我に気付かない事は俺達でもあるからな。それにしても無茶をする。ファングワームの口の中に手を突っ込む奴がいるか。噛みつかれたら手首ごと持っていかれるぞ」
「ごめんなさい。私もそれは思いました」
全く同意見だったので素直に謝ると、大きなため息を吐いたグレイさんはもう一度私の右腕をそっと撫でてくれた。
「しかも、あの模型の倍ほどもあったファングワームだと?」
真顔でそう言われて、その通りだったのでコクコクと頷く。
「それは間違いなく最大サイズだ。それをチムニーとルリだけで倒した? それ以外にもあの模型くらいのファングワームと、もう一匹は踏んづけて一人でやっつけたわけか。ルリは凄いな。いつでも狩猟組に編入出来るぞ」
最後は笑いながらそう言われて、チムタムと顔を見合わせて思わず吹き出した私だったわ。




