目覚めと出会い
「う、うん……」
不意に意識が戻り小さなうめき声を上げた私は、動く事すら出来ずに全身を襲う痛みに耐えていた。
痛い。とにかく全身が痛い。
膝を擦りむいて痛いと思っていたのが、冗談に思えるくらいにとにかく全身が痛い。
「う、うん……」
声を出す事すら痛くて、もうどうにかなりそう。
なんとか薄目を開けられたんだけど、視界一面が真っ暗で何も見えない。
自分の状態が全くわからずパニックになりかけて動こうとしたその時、胸から背中にかけて激痛が走った。
もうこれ、背骨が折れてるとかそんなレベルだと思う。
真っ暗で何も見えない中、とにかく助けを呼ぼうとして口を開くも声すら出せずに私の意識はそのままぷっつりとまた途切れてしまった。
「う、うん……」
次に意識が戻った時、私は誰かに抱き抱えられていた。しかも上向きのお姫様抱っこ状態で。
おそらく歩いているのだろうゆっくりとした一定の動きに、どうやら助かったらしいと分かり心の底から安堵したわ。
でも、さっきよりは幾分マシなものの、やっぱり全身が痛い。
とんでもなく痛い。
もう、全身を針でつっつかれているのかと思うくらいにとにかく痛い。
「い、痛い……」
なんと声が出たので、運ばれた先で痛み止めをもらえる事を願って痛みを訴えてみた。
「痛みがあるのか。シルフ、癒してやってくれるか」
しかし、それを聞いた男性の低い声の後に、何もされていないのに痛みがスウっと引いていった。
「え?」
驚きのあまり思わず声が出て、薄目を開ける事が出来た。
でも、何故か視界は真っ暗なまま。
これは周りが暗いのではなく、もしかして自分の目が見えなくなっているのかもしれない可能性が不意に思い浮かび、慌てて顔に手をやろうとしたところでまた全身に痛みが走って咄嗟に悲鳴のような声が出たわ。
「シルフ、もう一度癒してやってくれ」
声の後に、また何もされていないのに痛みがスウっと引いていく。
「光の精霊、明かりを頼む」
それから、その声の直後に幾つもの小さな光の珠が私の周囲に浮かんだ。
でも、その光の珠はそれほど明るいわけではなく人影がぼんやりと見える程度なので、私を抱いて運んでくれている人の顔はよく見えない。
「な、何これ! って、痛い!」
それでも私の知る常識ではあり得ないその光景に、驚いて周囲をよく見ようと体を起こしかけてまた全身に走る酷い痛みに悲鳴を上げる。
「お嬢さん。少しじっとしていてくれるか。ここは闇の精霊達のねぐらだからあまり彼らを刺激したくないんだよ。それよりもまだ痛みはあるようだな。シルフ達、もう一度癒してくれ。強めに頼む」
苦笑いしたようなその男性にそう言われたけど、言葉の意味が分からない。
闇の精霊のねぐらって何?
それにシルフって……でもその名前は、子供の頃に読んだファンタジー系の本で何度も見た覚えがある。
シルフって、確か風の精霊よね? 光の精霊と闇の精霊はそのままの意味よね?
ええ? 私は知らなかったし、聞いた事もないけど、この世界には精霊がいて見えるの?
しかもこの痛みがスウっと引いたのって、もしかして癒しの術的なアレ?
でも、ホームの人達はそんな事一言も……。
一気に引いていく痛みに首を傾げつつ、私はふとある事を思い出していた。
あれは確か、初めての採取の前に来てくれたグレイさんからお古の短剣を貰った時だったと思う。
生まれて初めて手にする本物の武器にビビりまくっている私を見て、カーク君とキース君が、逆に私が今まで武器も持たずにどうやって生き延びたのかって驚いたんだっけ。
それで確かその時に、私が伝説の精霊魔法使いなのかって聞かれた事を。
冗談半分の言葉だと思って聞き流していたけど、もしかして本当に目の前にいるのは伝説の精霊魔法使いなの?
その時、ふわりと動いた光の珠が私を抱いている人の顔のすぐ横に来て、薄明かりに照らされたその顔を見た私は目を見開いたわ。
その顔には見覚えがあった。
グレイさんが大怪我をしたあの時、ホームの庭で私を呼び止めて螺鈿細工のペンダントを交換した人。
名前は確か……?
「あ、タルカムさん!」
名前を思い出した時、思わず声が出てしまった。
「ああ、お久しぶりだね。改めて名乗らせてもらうよ。野良のタルカムだ。そして、ご覧の通りの精霊魔法使いだよ。まれびとのお嬢さん」
にっこり笑ってそう言われてしまい、私はもう驚きすぎて返事も出来ずに固まってしまったのでした。
っていうか、誰かこの状況を説明して。
私、確か流砂に飲み込まれて砂の中に落ちたのよね?
なのにどうして、こんな真っ暗な闇の中を野良のタルカムさんに抱かれて運ばれているの?
ってか、そもそもここは何処なの?
本当に、誰か私にこの状況を説明してください!
完全にパニックになった私が脳内で思い切り叫んでいると、固まった私を見たタルカムさんがフッと笑った。
眼光鋭くイケおじなタルカムさん。でも笑うとグレイさんが笑った時と同じくらいに優しい顔になる。
「精霊達が少し前から大騒ぎをしていてね。何事かと思い、普段は入らないこの暗闇の大穴に来てみたんだ。すると、山になった砂が大量に散らばっていて、その砂の上に貴女が倒れていた。流砂に巻き込まれたんだね」
ここでようやく状況説明をいただき、どうしてこんな事になっているのかを理解したわ。
「え、ええ……そうです。ああ、名乗りもせず失礼しました! ルリです。その、今日は午後から子供達と森で薬草を採取していたんです。それでその……偶然足を踏み入れたところの下草が枯れていて……気が付いた時にはもう遅かったんです。完全に足を流砂に捕らえられていて、護衛の子達が飛んで来てくれたんですが間に合わなくて、そのまま砂に飲み込まれました。それでここにいるという事は、もしかして私……その砂と一緒にここへ落ちてきたんですね」
まだ少し痛みがあるので小さめの声でゆっくり話すと、タルカムさんは困ったように頷いたわ。
「状況を見るに、おそらくそうだろうな。しかしよりにもよってこの大穴に落ちてくるとは、運がいいのか悪いのか。たまたま近くにいて精霊達の騒ぐ声に気が付いたが、俺でもこの辺りは滅多に来ない。一つ間違えれば真っ暗な大穴の奥で、誰にも気付かれずにせっかく助かった命が無駄に終わるところだったな」
からかうようにそう言われて、慌てて助けてくれたお礼を言った私だったわ。




