最悪の事態と不思議な声
「ど、どうして抜けないのよ!」
必死になって暴れても、足元がどんどん枯れた草の中へと引き込まれていく。
しかも、暴れた方が沈み込むのが早い。
まるで、地面の下から誰かに足を掴んで引っ張られているみたいに、どんどん沈んでいく私の両足。
必死になって抵抗しようとしても、全く掴まる所が無いせいでそのままズルズルと抵抗も出来ずに体が沈み込んでいく。
「だ、誰か! 誰か助けて!」
必死になって叫ぶも、まだ誰も来てくれる気配はない。
もしかして、他にも流砂が発生している可能性に気が付き、血の気が引くのが分かった。
採取に来ている子達は、まだそのほとんどが飛べない子供達。
ああ、もしそうならどうすればいいんだろう。パニックになりつつも、大好きな子供達の顔を思い出して泣きそうになった。
うん、私は大人なんだから何とかして自力でここから脱出しないと!
だけど、気付けばもう私の下半身は抵抗虚しく完全に地面の下に埋もれてしまっている。そして、下半身全体に感じるもの凄い砂の圧力。
押し付けられているなんてもんじゃあない。ぎゅうぎゅうに全体を圧迫されて、もう砂の中にある足を動かす事すら出来なくなっていたわ。
それなのに、さらにどんどんと体が引き込まれて沈んでいく。
そして、今更ながら翼を広げて抵抗しようとして気がついた。
翼の下半分も完全に埋もれてしまって砂に捕らわれているので、もう翼を広げる事すら出来なくなっている。
ここでまた一気に体が砂に引き込まれてしまい、もう私の胸の上辺りまで完全に砂の中に沈み込んでしまっていて、ほとんど動く事も出来なくなってしまった。
そして全身を締め付ける、息が止まりそうなくらいの凄い砂の圧力。
何とか腕だけは上げていたので、私は必死になって両腕を広げて地面全体を押さえるようにして、何とか踏ん張ろうとした。
しかし広げた腕がそのまま引き摺り込まれそうになって、咄嗟に右手を必死になって上に挙げた。
「ルリさん!」
その時、私を呼ぶ頼もしい声が聞こえた。だけどもう、私の視界ギリギリに枯れた草が見える。って事は……。
「ルリさん! 手を!」
大きく羽ばたきながらそう叫んだキース君とカーク君が、もの凄い勢いでこっちへ向かって飛んで来てくれるのが見えた。
だけど、彼らの手が届く寸前にまた私の体はググッと砂の中へ引き込まれてしまった。
目の前が真っ暗になり、わずかに砂の上に出ていた私の手を二人のどちらかが掴んでくれたのが分かった。
だけど、その直後にまたしてもググッと引き込まれてしまい、もう私の体は頭の先まで完全に砂の中へ引き込まれてしまった。
掴んでくれた手までが一気に砂の中へ引き込まれるのが分かって、私は咄嗟にその握ってくれた手を離して振り払った。
このままだと、私の手を握ってくれたカーク君かキース君までが、私と一緒に砂の中へ引き込まれてしまう。
それは駄目。
砂に落ちたのは完全に私の状況判断ミスなのに、助けに来てくれた彼らを巻き込むなんて絶対に駄目。
「ルリさん!」
悲鳴のような声が聞こえたけど、もう返事も出来ない。
砂の中に完全に取り込まれてしまった私の全身を襲うもの凄い砂の圧力。ついには息すらも出来なくなってしまった私の意識も、ここで完全にブラックアウトしてしまった。
ああ、短い異世界人生だったわ……せっかく素敵な翼をもらえたのに、出来ればもう少し空を飛びたかったわ……。
そしてこんな事になるのなら、グレイさんにちゃんと好きだって伝えればよかった。
遠くなる意識の中でそんな事を不意に考えた私が最後に思い出したのは、私を連れて地上から浮島まで飛んでくれた時にごく間近で見た、グレイさんの優しい笑顔とその背景に広がる綺麗な瑠璃色の空だった。
『おやおやこれは大変だ』
『しっかりしなさい。我らが吾子よ』
遠くから聞こえる不思議な声に、途切れていた私の意識がわずかに目を覚ます。
この声、どこかで聞いた記憶が……?
かすかに戻ってきた意識の中で、不意にそんな考えが湧き起こって密かに首を傾げていると、また声が聞こえた。
『本来の其方がいるべき世界でも』
『元の世界と同じように』
『どうやら飛ぶための試練があったようだ』
『しかも地上の者から贈られた』
『妄執の依代を持たされるとは』
『あれは良くないものであったな』
『だが彼が上手く引き受けてくれた』
『確かに上手く引き受けてくれたな』
『なのでもう障害はない』
『後はもう其方次第だよ』
『心から飛びたいと願えば』
『その望みは叶うだろう』
『その時が来るのを我らも楽しみに待つとしよう』
『願いが叶えばいずれ我らとも会えよう』
『その時が来るのを楽しみに待つとしよう』
『愛しき我らの吾子よ』
『この地でのこれからが良きものとなるよう』
『我ら一同心より願っておるぞ』
『空と風は常に其方と共にある』
『良き風が常に其方の翼に吹くよう』
『改めて我らより祝福を授けようぞ』
『彼から祝福を贈られたようだな』
『ではそれに重ねてかけておくとしよう』
『良き風が常に其方と共にありますよう』
『祝福を贈ろうぞ』
『祝福を贈ろうぞ』
次第に遠ざかっていく懐かしくも優しい不思議な声。
何か言おうとしたんだけど、またしてもここで私の意識はぷっつりと途切れて真っ暗になってしまったのだった。
あれ? これもやっぱり同じ事が以前あった気がするんだけど、いつの事だっけ……?




