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空の彼方に  作者: しまねこ


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流砂の発生!

 翌日、午前中はいつものようにまず羽ばたきの練習に向かう。

 先生役のターシャさんにも、まだ飛べはしないけれど少しだけ体が浮くようになった事を報告すると、我が事のように喜んでくれた。

 そして落っこちたら絶対に助けてあげるから少しだけやって見せてと言われ、それどこころか一緒に羽ばたきの練習をしている子供達やチムニーからもやって見せてと目を輝かせて言われてしまい、苦笑いして頷いた私は彼らから少し離れたところに立って空を見上げた。

 初めて見た空と変わらない、綺麗な瑠璃色の空が広がっている。今日はよく晴れているようで、見える範囲には雲一つ無い。

「じゃあ行くわね。でも本当にちょっとだけなのよ」

 なんだか少し恥ずかしくなってそう言い、一つ深呼吸をしてから大きく上に向かって飛び跳ねた、

 それに合わせて広げた翼が大きく羽ばたく。

「あ、昨日よりもちょっと高くまで飛べた!」

 グッと体が上がる感覚があり、必死になって羽ばたく。

 だけど残念ながら飛ぶ事は出来ずに、そのまま地面に落ちてしまった。

 でも、落ちる事は分かっていたので、なんとか転ばずに立つ事が出来た。

 ターシャさんが横から抱きついてきて、顔を見合わせて揃って吹き出したわ。

「確かに浮いたわね。これは期待出来るわ。大丈夫。きっとすぐにまた飛べるようになるからね」

 目に涙まで浮かべたターシャさんにそう言われて、私までなんだか感極まってちょっとだけ泣いちゃったわ。

 見たら、子供達まで目を潤ませながらすごいすごいとべた褒めしてくれて、嬉しくなった私は皆の前でその後も何度も飛び跳ねては、歓声と拍手をもらったのでした。



 食事の後は、近場への採取。

 いつものように子供達の手を引いて歌を歌いながら、今日の採取場所へ向かう。

「じゃあ、まずはパンの実の採取からね。踏み台を使う子達は、充分気をつけるのよ」

「はあい、ルリ姉さんも気をつけてね」

「ええ、もちろんよ。落っこちると痛いものね」

 カゴを抱えた子供達の言葉に笑顔で頷いてからそう言った私は、こっちを見ている子供達に手を振ってから一番高い踏み台の最上段まで手ぶらのまま上がった。

 以前なら、パンの実を採取する時には飛んで木の上側部分のパンの実を集めていたけど、残念ながら今の飛べない私にそれは出来ない。

 なので、小さな子達と一緒に下側の採取を踏み台に上がって手伝っている。

 私は収納の能力があるので、取ったパンの実はすぐに収納しておけるから、入れておくカゴは必要ないのよね。



 手の届く範囲を全部採取した後は、一旦踏み台から降りてまた別の場所に設置してはせっせと木の下側にあるパンの実を採取していった。

 それが終われば、子供達の間を回ってそれぞれ採取した分を集めて回るのは以前と同じ。

 パンの実の採取が終わったら、また子供達と手を繋いで歌を歌いながら別の場所へ移動する。

 今日は、森の中にあるいくつかの採取場所を回っては、子供達と手分けしながら血止め草や痛み止め、化膿止めなどの定番の薬草を集めて回った。

「ルリ〜〜! これ、俺とオリーブが取った分な。あっちで今、何人かの分をまとめてくれてるから、後で受け取っておいてくれよな!」

 両手にカゴを持ったチムニーが、そう言いながら満面の笑みで走ってくる。

「はいはい、危ないから走らないでね。根っこにつまずいて転んでも知らないから」

 笑ってカゴを受け取り、中身だけ収納してカゴを返す。

 それから、嬉しそうに片手にカゴを二個持ったチムニーは、空いた手で私の右手を握って元来た方へ引っ張る。

「待って待って、引っ張らないの」

 笑いながら、それでも引っ張るチムニーに手を引かれて、カゴを集めてくれているチムタム達の方へ向かった。

「この後、もう一ヶ所行ったら今日のお仕事は終わりだよ! それで今日の晩飯は、久し振りにワイバーンのハムが出るって聞いたよ。だから早く採取してから帰ろうぜ!」

 チムニーの沢山いる友達の中に、留守番組で料理担当のお母さんを持つ子がいるらしく、時々チムニーは、その友達経由で知ったらしい今日の献立を私にこうして教えてくれる。

 特に人気なワイバーンの燻製肉やハムが出る日は、嬉しそうに報告してくれる。

 まあ、確かにあれは美味しいから私も一緒になって喜んでいるんだけどね。

「そうなのね。じゃあ早く採取して帰らないとね」

 笑顔でそう言い、チムタム達と合流して集めてくれた分をせっせと収納していったわ。

 全員集合したところで、また手を繋いで歌いながら移動して森の中へ入る。

 時々虫取りする子達を見ては足を止めつつ、今日の最後の採取場所に到着した。

 そこは、森の中だけどまばらに木が生えている場所で、いつもの血止め草と一緒に、ここを含めて数箇所しか生えていないのだという下痢止めのお薬を作る材料になる薬草を採取していった。

 これは薬草と言っても地面に生える短い草ではなく、私の背丈に近いくらいの大きな茂みになっている低木樹だから屈まなくてもいい。

 しかもお薬にするのは、その中の新芽の部分だけ。なので作業は立ったままだからそこは楽なんだけど、採取をするのは新芽を探しながらなので結構面倒くさいのよね。

 まあ、貴重なお薬の材料だから頑張って集めているわよ。



「それでさ! 俺は言ってやったんだよ。絶対に飛べるようになるから、そんなに怖がるんじゃあないって!」

 チムニーと一緒に手分けして、私は主に上側部分の新芽を採取をしながら、友達でチムニーより少し年上の子が、体は浮くものの怖くてまだ一度も飛べていないんだって話を聞いていたわ。

 同い年の他の子達はもう皆飛べるようになっているらしく、本人もかなり悩んでいるみたい。

「チムニー、そんな簡単に言わないでよ。飛べない本人が一番傷ついているだろうからさ」

 思わずその子を庇うようにそう言ってチムニーの額を突っつく。

「ええ、俺には単に臆病なだけに見えるけどなあ」

 口を尖らせつつもせっせと薬草を採取しているチムニーを見て、苦笑いした私は彼から少し離れた箇所の採取を始めた。

 ここだけ他と違って周囲に木が生えていない小さな草地になっているので、ちょっとだけ見晴らしがいいし明るい。

 よく晴れた瑠璃色の空を見上げて笑顔になった私は、近くの茂みの新芽を採取していったわ。



「あら? 何これ?」

 しかし、そこでいくつかの新芽を回収したところで足元の異変に気がついた。

 何故か、この辺り一体だけ下草が枯れている。

 しかもよく見れば、この下痢止めのお薬の茂みも、他よりも全体にしんなりしていて元気がないみたいに見える。

「水切れかしら。でもこの浮島では雨が降らない代わりに、深夜から夜明け前に霧が出て夜露が大量発生するんだって聞いていたから、ここだけ水不足で枯れるなんておかしいわよね……え、待って。これってもしかして!」

 ここまで考えて、昨日畑でケイレスさんから聞いた言葉を思い出した。

「確か、流砂の前兆は草が急に枯れ始めている事で、しかもここは木が生えていない空間にある草地! 発生条件ぴったりだわ!」

 血の気が引いて慌てて下がろうとした時、すぐ後ろで声がした。

「はいこれ。かなり集まったからこれも収納をお願いするよ」

 笑顔でカゴを差し出すチムニーの足元にある草も枯れているのが見えて、私は咄嗟にチムニーを力一杯突き飛ばした。

 悲鳴を上げる間もなく後ろへ吹っ飛ぶチムニー。

「な、何するんだよ! せっかく集めた薬草を落っことしちまったじゃないか……」

 口を尖らせて文句を言いつつ起き上がったチムニーも、足元の枯れ草に気がついたらしくそれを見て真っ青になった。

 でも、その時私は恐怖のあまりもう声も出せなくなっていたわ。

 だって、チムニーを突き飛ばす時に踏ん張った私の足は、突然脛の辺りまで枯れた草の下にあった砂の中に埋もれていたんだもの。

「お願い! 誰か呼んできて! 早く!」

 こっちに走ってきそうなチムニーに向かって手を上げて止めながら、必死になってそう叫ぶ。

 飛べない彼がここへきたら、一緒に流砂に飲み込まれて流されてしまう。

「わ、分かった!」

 真っ青な顔でそう言ったチムニーがカゴを放り出して走り去るのを見て、私は恐怖に震える体を叱咤しつつ、必死になって砂から足を抜こうと暴れ始めたのだった。

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