流砂とは
「ええと、その流砂ってなんですか?」
分からない事は聞くに限る。
とりあえずそう考えた私は、素直にそう聞いてみた。
「何って……ああそっか。もしかしてルリのいた世界には、流砂は無かった?」
ケイレスさんと話をしていたリッティが、私の質問に驚いたように振り返った後、質問に質問を返してきた。
「ええと、もちろん言葉としてはあったしどういう現象なのかも知ってるわ。要するに砂が流れて動く現象よね? だけど砂なんて無いこの場所で、どうやったら流砂が起こるのかが分からないんだけど……」
まあ、この世界では流砂の現象自体、元いた私の世界とは違うって可能性もあるので、少し考えてからそう答えてみた。
「ルリさんはまれびとだからな。まあ知らなくても当然だ。意味としてはそれであっているし、現象としてもその通りだ。この世界で起こる流砂とは、土が砂化して文字通り流れ落ちてしまう現象の事を言うんだ。そのほとんどが、こう言った畑や草原のような広い場所で起こる」
説明してくれるケイレスさんの言葉を、私は真剣に聞く。
わざわざ迎えに来て避難させてくれたくらいだから、おそらくだけどこれも危険な事象なんだろうと想像がついたからね。
「それが何故起こるのかは俺達には分からない。流砂とは、何故か土の一部が砂化して下に落ちる現象の事を言う。ここは浮島だ。だが実はその浮島自体、中は穴ボコだらけなんだよ」
足元を指差しながらそう言われて、驚きのあまり目を見開いた私は、まじまじと自分の足元を見てしまった。
「ええ、浮島で穴ボコだらけって……それって大丈夫なんですか?」
自分の立っている地面に、突然落とし穴みたいに穴が空いてそのまま落下するところを想像してしまい、一気に真っ青になる。
「ああ、大丈夫だから落ち着いて。穴と言っても、下まで真っ直ぐな訳はないから安心していいぞ。何しろこの浮島は大きい。なので、まあ島の端で流砂が発生すれば浮島の下にまで穴が空いて地上まで落ちる事もあるだろうが、大抵の場合は島の中にある幾つかの空洞に落ちてそこで止まるんだ。だから畑で流砂が発生したら、ああやって埋めてしまうんだよ」
苦笑いしたケイレスさんの言葉に、さっき私達がいた畑の方を見ると、さらに奥の畑に何人かの人達が飛んで行くのが見えた。
「彼らが運んでいるのは穴埋め用の大きめの石と固まる土だよ。流砂の中にまずはああやって石を入れる。それで流砂が止まれば固まる土で砂だった部分を覆って固めるんだ。数日もすれば固まった部分が少し沈んで、その上にはまた新たな柔らかい土が出来るわけだ」
にっこり笑って説明された内容に、もうどこから突っ込んだらいいのか分からなくて乾いた笑いが出たわ。
私の常識とはかなり違う。そもそも固めた土が沈んで、その上に柔らかな土が出来るってどういう事?
うん、全く理解出来ないけど、これも水石と同じでこういうものだと思っておけばいいのよね。
そう考えて何とか納得した私は、小さく笑って地面を指差した。
「分かりました。じゃあ、もしも流砂の発生を確認したら、とにかく離れればいいですね」
「そうだな。それでいい。特に今のルリさんは飛べないから流砂は危険だ。ちなみに、これには前兆があって、例えば黒っぽい土が急に白くなってきたり、草が急に一部分だけ枯れ始めたりしたら、流砂が発生する可能性が高い。これらを見たら絶対に近寄らないようにな」
真顔で注意されて、素直に頷く。
「ええと、一つ質問なんですけど、さっき流砂が発生するのは畑や草原だと聞きました。森の中では発生しないんですか?」
子供達と一緒に行く採取は、ほとんどが森の中。でも時々草原や岩場の横の土の場合もあるので、この流砂が万一にも発生したら子供達には危険が及ぶと思う。
私の質問に、ケイレスさんだけでなくもう一人のさっき一緒に私を運んでくれた男性とリッティも一緒になって、揃って首を振った。
「全く無いわけではないが、森の中で流砂が発生する事はほぼ無いと思っていい。森の土の下には、木が根を張り巡らせているからね。まあ、森の中でもポッカリと空間が開いて木が無い箇所があったりすると流砂が発生する事も有り得るが、少なくとも、そんな事例は俺の知る限り聞いた事が無いよ」
苦笑いしたケイレスさんにそう言われて、納得したところで一安心した私も笑顔で頷いたわ。
流砂を処置した場所は、周囲を含めてかなりの範囲が安全を確認するまでは立ち入り禁止になるとの事で、その後は、私達はまた違う場所での雑草引きをお手伝いしたのでした。
日が暮れる前にホームへ戻り、夕食を頂くために食堂へ行ったらまた皆から怪我の心配をされてしまったので、ここでも私は笑顔で体が少しだけど浮くようになった事を報告して、子供達から拍手喝采をもらったのでした。
そして、チムニー以外にも飛ぶ練習をしている子達から、どちらが早く飛べるようになれるか競争だと言われてしまい、皆で笑い合って頑張ろうねと手を叩き合ったのでした。




