午後からの予定
「ええ! 怪我してる! どうしたんだよルリ!」
リッティと一緒にホームの建物まで戻ってきたところで、私に気付いたチムニーが、そう叫びながらもの凄い勢いで走ってきた。
「ただいま。うん、ちゃんと手当してもらったから大丈夫よ」
笑ってそう言ったんだけど、私の前で止まったチムニーは、包帯を巻かれた私の足と腕を見てから真顔になった。
「ただの擦り傷でそれだけの包帯は巻かないよ。何があったの? もしかして、ジェムモンスターに襲われでもした?」
さっきのグレイさんみたいな事を言うチムニーに、思わず笑ってしまう。
「ルリ、笑い事じゃあないよ」
真顔で口を尖らせるチムニーの言葉に、笑って頷いた私はゆっくりと翼を広げてみせた。
「あのね、リッティと一緒に追いかけっこをして遊んでいたら、少しだけど体が浮いたの。それで、その後に彼女に守ってもらいつつ飛ぶ練習をしたの。この怪我は、その時のものよ。でも、飛ぶ事は出来なかったけど、少しだけ体が浮くようになったんだよ」
ちょっと得意そうにそう言うと、チムニーはポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「えっと、チムニー?」
戸惑いつつも顔の前で手を振ると、しばしの沈黙の後に復活したチムニーは、声を上げて抱きついてきた。
「すごいすごい! じゃあもうすぐ飛べるようになるね!」
目を輝かせるチムニーの言葉に、私も笑顔で頷く。
「そうね。そうであれば良いと思うわ」
「俺はまだまだ羽ばたいても浮かないけど、きっとすぐに出来るようになるよ。ねえ、競争しようよ! どっちが先に飛べるようになるかさ!」
その提案に、私とリッティが同時に吹き出す。
「良いわね。じゃあ、勝った方が次に商人が来た時に好きな物を買ってもらえる、ってのでどう?」
「その勝負乗った!」
にんまりと笑ったリッティの提案に即座にチムニーが答え、私の競争相手は二人になったのでした。
友達のところへ遊びに行くのだと言うチムニーと別れて建物の中に入ると、会う人会う人に怪我の心配をされてしまい、その度に私は体が浮くようになった事をちょっと得意げに報告して回ったわ。
皆、それを聞いて我が事のように喜んでくれたり、頑張ってねと励ましてくれたりした。
本当に、ここのコロニーの人達は、皆良い人達。嬉し涙を堪えつつ、頑張りますとその度に私も笑顔で答えていたのだった。
「はあ、夕食までまだ時間があるし、畑にお手伝いに行ってくるわ」
「ええ、怪我しているんだし、部屋で休んでいればいいのに」
リッティにそう言われたけど、何となく部屋でじっとしている気分じゃあなかったので笑って首を振った。
「何だかじっとしていられないの。外の空気を吸いたい気分だからね」
「それなら、私も行くわ。どうせ夕食まで暇だし」
笑ったリッティがそう言ってくれたので、そのままホームの建物の裏手にある畑へ向かった。
ドーンと遥か遠くまで綺麗に耕された畑が延々と広がっている。
ホームの周りに幾つかある畑の中でもここは最大クラスの広さを誇る。
それにここは主に地上との取引で手に入れた色んな種を植えている畑で、区分けされた畑には面ごとにレタスのような葉物の野菜や、豆類、それから根菜の葉っぽいものも見えている。
ここでも集まってきた皆に怪我の心配をされてしまい、私は笑いながら体が浮いた報告をして皆に褒めてもらったのだった。
「じゃあ、ルリさんとリッティは、そっちの雑草引きを頼むよ」
大柄なフクロウの翼を持つケイレスさんの指示に従い、私とリッティは言われた畑へ向かった。
「これは初めて見る苗だけど、何が植っているのかしらね?」
農業なんて、小学校の時の農業体験くらいしかない私の知識はこれに関しては限りなく浅い。多分、大きく育てばさすがに見分けはつくけれど、植えたばかりならニンジンと大根の苗の違いも分からないと思う。
「私もこれは初めて見るわね。でも、この前の取引の時に、新しい種をかなり仕入れたって聞いているから、きっとその時のものなんでしょうね。何が出来るのか楽しみだわ」
笑ったリッティの言葉に私も頷き、そこからは競争するようにして畑の畝の脇から生えてきている雑草をせっせと抜いて回った。
「おおい! ちょっとこっちへ来てくれ!」
しばらくして、突然ケイレスさんの大声が聞こえて私とリッティは驚いて立ち上がった。
大きな羽音がして、ケイレスさんと一緒に別の真っ白な羽をした男性が飛んできた。
「ルリさんを運ぶから、手を貸して」
驚く間も無く、私の両手はケイレスさんともう一人の男性に握られそのまま飛んで運ばれていった。
「何があったの?」
ホームに近い側の畑の端まで運ばれて下されたところで、後ろを一緒に飛んできていたリッティが真顔でケイモスさんに尋ねる。
「奥側の畑の端で流砂が確認されたんだ。今、担当者達が対応してくれている。ルリさんはまだ飛べないんだろう? だから念の為安全確保でここまで戻ってもらったんだ」
「ええ? 流砂が出たの? いつ以来かしらね」
驚くリッティの言葉に、私は流砂って何だろうとのんびりと考えながら首を傾げていたのだった。
まさか、あんな怖い事になるなんて、その時の私は知る由もなかったんだけれどね。




