怪我の治療とその意味
「あらあら、膝の擦り傷はちょっとかなり痛そうね。せっかく診療所にいるんだし、行って手当てをしてもらいましょう。ついでに着替えるといいわ。何か持ってる? 無ければ服を借りるわ」
なんとか立ち上がれたところで苦笑いしたリッティにそう言われて、慌てて自分の膝を覗き込んだ。
確かにさっきからかなりズキズキしていたそこは大きくえぐれていて、そこからにじみ出してきた血が垂れていてむこう脛全体にまで真っ赤になってしまっている。
真っ赤な血の色と相まって見た目にもかなりのインパクトがあるので、このまま戻ったら間違いなく大騒ぎになるだろう。
「うわあ、これは酷い。それにさすがにこれは放置したらあとで膿みそうね。もちろん着替えは何着か収納してあるから大丈夫よ。ええと、でもこっちって入院棟よね? 手当してもらうなら、表の診療所の方へ行くべき?」
自分が怪我をしたのはこの世界にきて初めてなので、どうしたらいいか分からない。
とりあえず、リッティの指示に従うつもりでそう言うと、入院棟を見たリッティは笑って首を振った。
「この格好で表へ出ると、間違いなく大騒ぎになるわね。二人して誰に乱暴されたんだ! ってね」
私ほどではないけれど、確かにリッティの服も汚れている。
「私のせいでごめんなさい。じゃあ、どうしたらいいの?」
謝ってからそう尋ねると、苦笑いしたリッティは入院棟を指差した。
「このまま入院棟へ戻りましょう。もちろんあっちにも処置室はあるからね。それで、先生に正直に言えばいいわ。飛ぶ練習をしていて転んだんだってね。私はその巻き添えね」
笑ってなんでもない事みたいに言われて、そういうものかと納得した。
顔を見合わせて笑い合った私達は、置きっぱなしだったカゴを抱えて入院棟へ戻っていった。
ちなみに入院棟に入った途端、血まみれになった私を見た看護師さん達が大慌てで何人も駆け寄ってきてくれて、事情を説明したところなんと担架で運ばれたのでした。
大丈夫です。そんな重症じゃあないから歩きます! って必死に大丈夫アピールをしたんだけど、全然聞いてもらえなくて、そのまま廊下にいた入院患者やお見舞いの皆様達からの無言の大注目を集めつつ処置室へ担ぎ込まれてしまい、もう穴があったら入りたいくらいにマジで恥ずかしい思いをしたのでした。
結果として、一番重傷で流血の大惨事になっていた右の膝は、しっかりと洗ってから消毒した後に、血止め草と化膿止めなど数種類の薬草をすりつぶしてペースト状にした湿布薬をたっぷりと塗られて当て布をした上から包帯をぐるぐる巻きにされ、やや軽症だった左の膝には、乾燥させた血止め草と化膿止めの薬草をそれぞれ水で戻したものが複数枚貼り付けられ簡単に包帯を巻かれる事となった。
それから、気が付いていなかったんだけど右の肘にも大きな擦り傷があって、こっちもかなりの出血があったせいでここも同じように湿布薬で処置されて包帯をぐるぐる巻きにされてしまった。
他にもいくつか軽傷の擦り傷があり、ここには血止め草がベタベタと貼り付けられて治療は終わった。
治療の前には大きなタライにたっぷりのお湯を用意してくれたので、泥と砂に汚れた手足や顔もしっかり拭いて綺麗にさせてもらっていたから、着替えを終えればすっかり快適になったわ。
でもまあ、知り合いに会えば間違いなく真顔で何かあったか聞かれるだろうレベルの分厚く巻かれた包帯の数と何枚もの血止め草を見て、諦めのため息を吐いた私だったわ。
でも、先生や看護師の方達からは、この怪我は頑張って練習した証なんだって言ってもの凄く褒めてもらった。
どうやら飛ぶ練習をしている初期の状態の時って、こんな風に転んだり落っこちたりして擦り傷や引っ掻き傷を作る確率が高いんだって。
特に体が小さくて軽い子供達と違い、大人の場合は転けた時のダメージが大きいので怪我をする確率は更に上がるらしい。
まあ、確かに小柄とは言え一応成人している私と、例えばまさに飛ぶ練習をしている真っ最中のチムニーとなら、体重は明らかに違う。
特に体が柔らかい子供の場合、転んだ程度ではそれほどダメージはないものね。
食堂を走り回り、時には転んで、それでも平気そうに笑っているやんちゃな子供達を思い出して、思わず小さく吹き出した私だったわ。
「そう。わずかだけど体が浮くようになったのね。それはおめでとう。大丈夫よ、すぐにまた飛べるようになるわ。でも、練習は無理のない範囲でお願いね」
手当てをしてくれたのは、以前初めて飛べなくなっている事が判明した際にも診てくれた、真っ白な大白鳥の翼を持つミルキー先生だった。
どうやら、あれ以来全く飛べずにいた私の事をかなり心配してくれていたらしく、目にうっすら涙を浮かべたミルキー先生は、大丈夫。良かったわねと何度も何度もそう言って私の背中にある翼を優しく撫でてくれた。
先生にそうまで言われて、私もここでようやくまた飛べるようになれるんだと少しは実感を持って思えてきて、密かに安堵のため息を吐いたのでした。




