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空の彼方に  作者: しまねこ


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二人の名前

「ああ、なんて可愛いのかしら」

 産着に包まれた赤ちゃんを抱いて、もうさっきからそれ以外の言葉が出てこない。

 男の子の方を抱いたグレイさんも、もうさっきから私の横で笑み崩れているわ。いつもの男前はどこへ行ったのかしらね?

「本当におめでとう。それで名前は? もう考えているの?」

 笑顔のリッティがそう言って私が抱いている赤ちゃんを覗き込む。

「一応、候補はあるんだけどね。どうする?」

 最後は、隣にいるグレイさんへの言葉よ。

「そうだな。せっかくだし、ルリが言っていた双子の神様の名前で良いんじゃあないか? 確か、男の子がフレイ、フレイヤ、だったよな」

「でもそれだと、似たような名前になるから、ちょっとね」

 叱る事だってあるだろうから、あまり似た名前だと子供達も混乱しそう。

 グレイさんと顔を見合わせて、揃って困ったように考え込む。

 実を言うと名前については、卵のお世話をしながら何度も話していたんだけど、その度にグレイさんは全然思いつかないと言って頭を抱えていた。

 聞けば、こっちの世界では名前自体にはあまりこだわりはないみたいで、たとえば祖父母や親戚の人の名前をそのまま貰ったり、お世話になった人の名前をそのまま貰ったりする事も多いんだって。

「あ、じゃあ女の子の方はフレイヤの別名の、ヴァナディスでどう?」

 これは、元いた世界で読んだ北欧神話に出てきた双子神の名前よ。

 本当はヴァナディースなんだけど、言いにくいからちょっと短くしてヴァナディスにしてみた。

 読んだ物語の詳しい内容はあまり覚えていないけど、何故か名前はしっかりだけ覚えていたのよね。

「フレイとヴァナディス。うん、素敵な名前ね!」

「なんか格好良い! フレイとヴァナディス!」

 横で目を輝かせて聞いていたチムタムとチムニーも、満面の笑みで拍手をしてくれている。

「じゃあ、それでいこう。お前の名前はフレイだよ。よろしくな、フレイ」

 笑ったグレイさんが、抱いていた男の子の額にキスをしてから優しい声でそう話しかける。

「貴女の名前は、ヴァナディスよ。よろしくね、ヴァナディス」

 それを見て笑った私も、そう言ってヴァナディスの額にそっとキスを贈った。

 しばしの沈黙の後、部屋は拍手と歓声に包まれたのでした。



「おめでとう、ルリさん、グレイさん。新しく増えた二人の子達を、我々は心から歓迎するわ。フレイ、ヴァナディス、これからよろしくね」

「「はい、よろしくお願いします!」」

 笑顔のパムの言葉に、私とグレイさんの返事が重なる。

 双子の卵が生まれて大喜びの私達のところへ、知らせを聞きつけた知り合いの方達が次々にお祝いに駆けつけてきてくれて、もう本当に大騒ぎだったわ。

 そして、お祝いに来てくれたパムが、その場で子供達の住民登録をしてくれた。

 ここのコロニーでは、正式にコロニーの一員になった時点で住民登録がされるんだって。

 この辺りは適当にしているコロニーも多いらしいんだけど、様々な種族の人達が一緒に暮らす集合体コロニーでそれをすると、人の出入りが把握出来なくなるから住民登録は必須なんだって。

 ちなみに私も、初めてここにグレイさんに連れてこられた後、滞在許可をもらった際にちゃんとパムが住民登録を済ませてくれているんだって。

 知らないところで、本当に色んな人に助けられているんだなって思い知った私だったわ。



「本当に可愛いなあ」

 ようやくお祝いの嵐も収まり、部屋にいるのはリッティと私達だけになったところで、またフレイを抱いていたグレイさんがしみじみとそう呟いていたわ。

「本当に可愛いわよね。ああ、もう食べちゃいたいくらい!」

 そして、ヴァナディスを抱いてくれていたリッティが、辛抱たまらん! って感じにそう叫んでヴァナディスに頬擦りした。

「大変だ〜〜ヴァナディスが食べられちゃうぞ〜〜誰か助けて〜〜」

 棒読みの私のセリフに、グレイさんとリッティが揃って吹き出す。

 言うと二人揃って必死になって否定するから言わないけど、ああやって笑っているところを見ると、グレイさんとリッティってそっくりだと思う。さすがは双子よね。

「この子達も、二人みたいになるのかなあ……」

 思わず小さくそう呟いて、リッティが抱いてくれているヴァナディスをそっと撫でてやる。

「そうね、二人の子供なんだから、美男美女なのは間違いないわね!」

 満面の笑みで断言されて、私とグレイさんは揃って吹き出したのでした。

 ああ、こんな幸せな時が来るなんて夢みたい。

 リッティからヴァナディスを渡されて抱き上げた私は、感極まって出そうになった涙をグッと堪えて彼女の頬にそっとキスを贈ったのでした。


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