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空の彼方に  作者: しまねこ


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近づくその日

「話には聞いていたけど、本当にここまで大きくなるなんて驚きだわ。生まれた時はあんなに小さかったのにね」

 その朝、いつものようにグレイさんが卵に水をあげてくれて、少し乾いたところでカゴに戻した私は、両手で直径10センチくらいの輪っかを作りつつ思わずそう呟いていたわ。

 それを見て、同じ事を考えていたらしいグレイさんも笑って頷いている。



 もうそろそろ生まれて半年になる卵達は、どちらも驚くほどに大きく成長しているわ。

 確かに、これなら中に人の赤ちゃんが入っていると言われて納得する大きさだわ。

 そして二つの卵の大きさの違いは、もう誰が見ても明らかな程になっている。

「もう、いつ生まれてもおかしくないくらいだな。なあ、頼むから俺がいない間に生まれないでくれよ。生まれるなら明日以降で頼むぞ」

 苦笑いしたグレイさんの言葉に、私もちょっと笑っちゃったわ。

 ほぼ引きこもって卵のお世話だけをしている私と違い、まだ通常の仕事についているグレイさん。

 でも、そろそろ生まれそうだという事で、明日から一年、いわゆる育休を取らせてもらえるらしい。

 余程の事が起こらない限り、緊急出動の呼び出しも無し。

 なんというか、全面的な子育て支援の体制が頼もしすぎるわ。

 しかも、頼れる身内がいない私と両親のいないグレイさんを心配してくれた有志の方々による自称保護者の会が発足していて、赤ちゃんが生まれた後は、全面的に育児をサポートしてくれるんだって。

 皆様方曰く、赤ちゃん達にミルクをあげるのは私にしか出来ない事なのでここは任せるしかないけれど、それ以外は全部お助けしますって。

 すでに毎日の子守当番まで決まっていると聞き、頼もしすぎるその言葉に、嬉し涙を堪えつつお礼を言った私だったわ。



 聞くところによるとこの子守り当番には、経験豊富なお姉様と一緒に未婚でそれなりの年齢の子達が男女を問わず来てくれて、子守りを手伝ってくれるらしい。

 要するに、ここで若い子達は子育ての実習をするんだって。

 本来なら私もそれに参加すべきだったんだけど、まれびとである私がここに来て最初の頃は、まずはここに慣れるのが最優先だったので免除されていて、そろそろと思った頃に、私の怪我とか色々あって参加する機会を逃したままグレイさんと結婚する事になってしまったんだって。

 それを聞いて、割と本気で残念に思った私だったわ。

 実を言うと、以前の世界でも当然子育ての経験なんて無いし、近しい友人に結婚した子はいたけれども、出産した人はまだいなかった。

 親戚付き合いもほとんど無かったから、リアル子育てに接した経験がほぼ無いのよ。

 おむつの変え方なんかも、なんとなくしか知らなかった。

 まあこの辺りについては、卵のお世話をしながらお姉様方に詳しく教えてもらったので、私もグレイさんも、一応知識としては一通り知る事が出来たんだけどね。でも。それを実際に出来るかどうかはまた別の問題。

 すっかり大きくなった卵を見て、これはもうやるしかないんだと、ある意味覚悟を決めている私とグレイさんだったわ。



「早く生まれておいで。待ってるからな」

 笑顔のチムニーがそう言って、すっかり大きくなった手で卵を撫でてくれている。

 昼食前に、食堂からお弁当を人数分以上に貰って来てくれたチムタムとチムニー。でも、その後すぐに自称保護者の会のメンバーで、ハイタカのミンティさんとオオワシのシンシアさん、それからタイハクオウムのサーシャさんが来てくれて、こちらも食堂から人数分以上のお弁当を貰って来てくれて、ずらっと並んだお弁当を見て、皆で揃って笑い転げたのでした。

「まあ、余った分はルリが収納しておいてくれればいいわ。お腹が空いたらいつでも食べていいからね」

 笑ったミンティさんの言葉に、有り難く余ったお弁当は収納させていただいたわ。

 卵を前にのんびりと話をしながらお弁当をいただき、食後のお茶を飲んでいた時にそれは起こった。

 カタカタと揺れるみたいに動いていた大きい方の卵が、不意に止まったかと思うとピシリと音を立てて殻にヒビが入ったのよ。

 それを見た瞬間、ほぼ全員の口から悲鳴のような歓声が上がった。

「待って待って! グレイを呼んでくるわ!」

 それを見て叫ぶみたいな声でそう言いながら即座に立ち上がったシンシアさんが、そのまま本当に部屋を走って出て行き飛んで行ってしまった。

「ええと……」

 何をどうしたらいいのか分からず、頭が真っ白になる私。

「ほら、ルリはここに座って。卵達を見ていてちょうだい!」

 当然のようにチムタムにそう言われて、いつもの座椅子に座る私。

 ヒビが入った卵は、そのあとは特に動きは無くじっとしている。

 逆に一回り小さい方の卵は、さっきからカタカタと左右に小さく震えるみたいに動いている。

「ねえ、もしかしてこっちも?」

 思わず、側にいたミンティさんにそう尋ねると、彼女はこれ以上ないくらいの満面の笑みで卵をそっと撫でてくれた。

「もちろん、双子の場合はほぼ同時に生まれる事が多いからね。さあ、グレイさんは間に合うかしらね?」

 笑ったその言葉に、今朝のグレイさんの言葉を思い出して、ちょっと笑っちゃった私だったわ。

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