卵の成長とチムニーの進路について
「おお、前回見た時よりもまた大きくなったな。これ、もうそろそろ産まれても良いんじゃあないか?」
「確かにデカくなったな」
「いやいや、無茶言うなって。確かに大きくはなっているけど、まだ産まれるまでしばらくかかるって」
久しぶりに来てくれたワルターさん達狩猟組の人達が、今日はお休みのグレイさんと一緒に卵を撫でてくれながら楽しそうにそう言って笑っている。
確かに卵は大きくなっているけど、卵から子供が産まれるまでは半年くらいだって聞いた覚えがあるので、この卵の場合だと二ヶ月を超えたところだから、まだ産まれるまで三ヶ月以上はあるって事よね。
「卵って、子供が生まれるまでずっと大きくなり続けるんですか? それとも、ある程度の大きさになったら成長は止まるんですか?」
三人の子供がいるのだと言う狩猟組の大先輩のクストーさんに、思わず小さな声でそう尋ねる。
「ああ、ルリさんはまれびとだからその辺りの経験はないんだな。卵は、産まれる前までずっと大きくなるよ。男女で卵の大きさに差が出る事が多いな。大きければ大抵は男の子が、やや小さめの卵からは女の子が生まれる事が多い。まあ、必ずってわけではないけれどな」
「へえ、卵の大きさで男女がわかるんですか。それは初めて聞きました」
施療院のミルキー先生から聞いた出産に関する説明に、それは無かった気がする。
「ああ、これはあくまでそういう場合が多いってだけで、必ずではないからな。だから施療院の先生方は、あえて言わないんだと思うぞ」
慌てたようなその説明に、それもそうかと納得した私だったわ。
ちなみに、私が産んだ二つの卵はなんとなくだけどちょっと大きさに差が出ている気がする。
定期的に様子を見に来てくれるミルキー先生によると、特に問題はないとの事で安心はしているんだけどね。
もしかして、グレイさんとリッティみたいに男女の双子なのかもしれない。
「ああ、水をあげる時間か。じゃあ俺達は下がらせてもらうよ」
グレイさんが霧吹きに水を入れて持ってきたのを見て、卵を撫でてくれていたワルターさん達がそう言って卵から離れる。
卵に定期的に水をあげるのは、基本的にグレイさんか私の役目。
グレイさんが家にいる時は、ほぼグレイさんが、彼が仕事に出掛けていていない時は、私が担当している。
他の人達は、卵を撫でてはくれるけれど、なんらかの緊急事態でも起こらない限りそれ以外の目的で卵に触れる事は絶対にない。
この辺りは、なんと言うか暗黙の了解的に役割が決まっているみたい。
「その霧吹き、使ってくれているんだな」
クストーさんがグレイさんが使っている霧吹きを見て嬉しそうにそう言って笑っている。
そっか、あの霧吹きの前の持ち主はクストーさんだったのね。
「ああ、とても使い心地のいい霧吹きだよ。有り難く使わせてもらっているよ」
振り返ったグレイさんの言葉にクストーさんは嬉しそうに頷き、ワルターさん達独身組は、次は誰が引き継ぐんだ? なんて顔を寄せてコソコソと話をしていた。
確かに、卵から産まれてしまえばもう霧吹きは必要ないからね。
いつでも喜んで引き継ぎさせていただきますので、どうぞ頑張ってください。
なんんだかおかしくなって、心の中でエールを送った私だったわ。
「そう言えば、チムニーが狩猟組にはいるんだって?」
その時、クストーさんが不意にそう言ってワルターさんの腕を軽く叩いた。
「ああ、それな。一応、まだ正式な申請はされていないけど、本人は狩猟組に入りたいと言ってくれているらしい。チムタムは応援すると言ってくれているらしいが、ご両親がどう思っているかはまだ聞いていないから、あくまで、まだ希望の段階だよ」
予想外の言葉に、思わず目を見開く私。
毎日みたいに卵を撫でに来てくれるチムニーとチムタムだけど、そんな事、今初めて聞いたわ。
確かに、チムニーも上手に飛べるようになったとは聞いているけど、もう進路を決めるの?
でもまあ、チムニーの成長っぷりは確かに早いから、そろそろ成人扱いなのかもしれない。
何しろ、私があの流砂に流された事件の前はまだ飛ぶ事すら出来ず、体格も小学校高学年くらいだったのに、私が流砂の後遺症でひと月ほど入院している間に背は伸びていたし体格もかなりしっかりしていた。
そして、ファングワームに襲われて入院している間は訓練が出来なかった事もあって、退院後もしばらくは苦労したみたいだけど、気付けばあっという間に飛べるようになっていたのよね。
まあ、その頃って私の方はグレイさんとのあれやこれやで色々と忙しかったから、実際に彼が飛ぶところをみたのは、飛べるようになってからしばらくしての事だったんだけどね。
「もしかして、チムニーが狩猟組に入るのを、ご両親は反対する可能性もあるの?」
思わずワルターさんにそう尋ねてしまった。
「ご両親は、どちらも留守番組だからなあ。チムニーにも、そっちへ行って欲しかったって考えておられたら……狩猟組は、反対される可能性もあるよ」
苦笑いしながらそう言われて、思わず考える。
「狩猟組は、危険だから?」
グレイさんから、何度も聞かされた事。
狩猟組は、怪我も多いし最悪死ぬ事だってある。
実際、グレイさんの体には、幾つもの酷い傷跡がある。
翼を脱臼して入院した時は、回復して飛べるようになるまでかなりの時間がかかっていたもんね。
それに、施療院にいたグレイさんのお友達。片翼を失い飛べなくなったあの姿は、正直に言うと衝撃だった。
グレイさんだって、一つ間違えばああなっていたかもしれないんだから、自分の息子がそんな危険な仕事をしたいと言い出せば、反対される可能性は大いにあるだろう。
「まあ、狩猟組の仕事が危険である事は否定しないよ。でも、だからこそやり甲斐があるとも言えるんだ。俺は、狩猟組に入った事を後悔した事はないよ。今度、改めてご両親ともちゃんと話をする予定だよ。まあ、そっちは俺達に任せてくれていい。ルリさんとグレイは、この子達の事を第一に考えて。な」
笑ったワルターさんの頼もしい言葉に、笑顔でお礼を言った私とグレイさんだったわ。




