卵と暮らす日々
卵を産んで以降、毎日が本当にあっという間に過ぎていくわ。
退院して家族棟にある家へ戻った私の元には、本当に毎日のように様々な人達が来てくれて、皆、それはそれは優しく卵を撫でていってくれる。
もちろん、私とグレイさんも毎日何度も卵を撫でては水をあげているわ。
ずっと見ているとそれほど思わなかったけれど、改めて見ると卵は確実に大きくなっている。
それに産んですぐの頃は、卵の殻も薄くて今にも割れそうで水をあげるときにカゴを移動させるのすら怖かったんだけど、確実に卵の殻は硬く強くなっている。
でも、触った感触は最初の頃とそれほど変わりがなくて、ちょっとふわっとしていてなんとも不思議な感じ。
「ねえ、早く出てきてね。待っているわよ」
その日、仕事に出かけたグレイさんを見送った私は、いつものように卵の横に座って卵に話しかけながら何度も撫でてあげていた。
「え?」
その時、不意に卵が動いたのよ。カタカタって感じに、震えるみたいに。
「ええ? 何これ!」
慌ててカゴを手で押さえて卵を覗き込む。動いたのは一瞬だけだったみたいで、今はもう動く様子はない。
「ええ、今のって気のせいじゃあないわよね……?」
若干不安になってそう呟くと、タイミングよくノックの音がした。
「は、はい!」
慌てて返事をして扉を開けに行く。
「おはようルリ! いつもの朝の挨拶で〜す!」
そこにいたのは、チムタムとチムニー、それから、いつも採取に行く時に一緒に行っていた子供達が全部で五人。揃って笑顔で手を振っていた。
そう、私が卵を産んで家に戻って以降、こうしてチムタムとチムニーが子供達を連れて採取の前に来てくれるようになったの。
もちろん子供達全員は、一度には来られないから順番に交代で来てくれている。
「ああ、いらっしゃい。どうぞ入って」
笑顔でそう言い、子供達を中に入れてやる。
「ねえ、チムタム。ちょっと教えて!」
慌ててチムタムの腕を掴まえて、小さな声でそう言う。
「え? 何かあった?」
慌てたように私に向き直ってくれるチムタムに、私はさっき卵が震えた話をした。
「ええ、見たかった〜〜〜!」
それを聞いてそう叫ぶチムタムを見て、どうやら問題があるわけではなさそうだと分かり安心する。
話を聞いたところ、卵が震えたり動いたりするのは、言ってみれば胎動みたいなもので順調に成長している証らしい。
安堵のため息を吐いて部屋に戻った私は、子供達に卵を紹介して撫でてくれるようにお願いした。
いつものヤンチャっぷりは何処へやら、目を輝かせてそれぞれにとても優しい手つきで卵を撫でてくれる子供達。皆、待っているから早く出ておいで、一緒に採取に行こうねと優しい口調で話しかけてくれて、それを見て、なんだか不意に胸がいっぱいになってしまい涙が出そうになってぐっと飲み込んだ私だったわ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「はあい、いってきま〜〜す!」
笑顔で手を振る子供達とチムタムとチムニーを見送った私は、一つ深呼吸をしてからまた卵の元へ戻って座椅子に座った。
「たくさん撫でてもらってよかったね。皆、ちょっと見ない間にあんなにしっかりして……きっとこの子達も、生まれてきたらあっという間に大きくなるんだろうなあ……」
卵に顔を寄せて思わずそう呟く。
すると、まるで返事をするかのようにカタカタと震える卵達。
「そっか、あなた達も楽しみなのね」
思わず小さく吹き出した私は、そう言ってもう一度両手で二つの卵をそっと撫でたわ。
午前中に、パムと大鷲の翼をもつお姉様方が何人も交代で来てくれて、卵を撫でてくれた。
彼女達は、私が初めてここへ来て水浴びをした時にご挨拶した方々。もう何度も来てくれていて、子育ての苦労話なんかもたくさん聞かせてもらった。
それに、ちょうどお姉様方がいた時に卵が動いて、皆で大感激で拍手大喝采になったのでした。
今日、初めて動いたんだって話をしたら、グレイさんは見られなくて残念だったねと言って笑われたわ。
確かに、彼が出て行ってからすぐだったからね。
それから、お姉さま達の体験談を聞いていて、私の子育てとはもう一つ大きな違いがある事が判明したわ。
それは赤ちゃんの食事について。
まあ当然、最初は母乳をあげるらしいんだけど、母乳だけで育てるのは、だいたいひと月ほど。
その頃になると、もう離乳食が始まるんだって。
どうやら赤ちゃんの成長の早さも、私の知るそれとはかなり違うみたい。
間もなく始まるであろう初めての子育てに、割と本気で戦々恐々としている私だったわ。




