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空の彼方に  作者: しまねこ


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出産と帰宅

「うわあ、私……本当に卵を産んじゃったわ」

 ベッドに座った私は、膝の上に置かれた大きなカゴとその中を見て、もう私の知る常識とのあまりの違いに笑いそうになるのを必死で堪えていたのでした。

 そう、目の前のカゴの中には柔らかな分厚い布が敷かれ、なんとその布に包まれるようにして二つの真っ白な卵が並んでいるんだもん。そう言いたくなるのは仕方ないわよね。

 そしてベッドの横に付き添ってくれているグレイさんは、もう、いつものイケメンはどこにいったのよと真顔で突っ込みたくなるくらいに笑み崩れていて、ずっと卵を撫で続けてくれているわ。



 早朝、お腹と腰の痛みに目を覚ましてグレイさんに施療院に運ばれた私は、そのまま分娩室に運ばれ人生初の出産を経験しました。

 でも、私が持っていた以前の世界での出産の知識とは全く違い、出産自体はもう本当にあっけなく終わったわ。

 まあ確かに、言われるままに大きく深呼吸しながら踏ん張る程度の事はしたけれど、ただそれだけ。言い方悪いけど、便秘の時の方がもっと必死に踏ん張っていた気がするわ。

 本当にちょっと踏ん張っただけでコロって感じに出てきてくれて、え? これで終わりなの? と割と本気で驚いたわ。でもその後に、もう一つあるから頑張ってねとミルキー先生に言われて、思わず「何がもう一つなんですか?」と聞き返してしまい呆れられたのは内緒ね。

 そんな感じで、二つ目の卵もあっけなく出てきてくれて、これにて出産は終了。

 どうやら私の子供は、グレイさんとリッティみたいに、双子だったみたい。

 冗談抜きで、もう驚いたなんてもんじゃあなかったわね。

 この世界に来て、浮き島や水石など、私の知る常識と違う事がある度に驚いてきたけれど、これはもう驚いたなんて簡単な言葉で言い表せるものではないわ。

 本当に、違う世界に来たのだと思い知らされ、それに伴い私の体も、単に翼があったというだけでなく、本当に丸ごと変わっていたんだと思い知らされる事になったのでした。



 そして、大事をとって一日入院しただけであっけなく帰宅が許され、翌日の夕方にはカゴを抱えてくれたグレイさんと一緒に家へ戻る事が出来たのでした。

 ちなみに、私の体調は驚くくらいにいつも通り。

 そりゃあ、以前の世界みたいにそれなりの大きさの赤ちゃんを産むのと違って、直径10センチくらいの卵を二つ産んだだけだから、体へのダメージが違うのは分かる。

 でも、ここまで元気だと何というか、以前の世界では、出産に際する女性への負担が大きすぎるんじゃあないかと割と真顔で文句を言いたくなった私だったわ。



「じゃあ、カゴはここに置くよ。ほら、ルリも撫でてやってくれないと」

 家に戻ったところでもうこれ以上ないくらいに丁寧にカゴを置いたグレイさんの言葉に、私も笑顔で頷きそっと腕を伸ばす。そして、真っ白な卵を交互に何度も撫でてあげたわ。

 退院に際してミルキー先生から教えられたのが、この卵のお世話について。

 別に、普通の鳥達がしているようにずっと温め続ける必要はなく、普段はカゴの中へ入れておけばいいんだって。

 まず日常のお世話としては、時間の許す限り卵に寄り添い、素手で撫でてあげる事。

 これは、私達だけでなく他の人にも撫でてもらった方がいいらしいので、リッティやチムタム達もやる気満々になってくれているわ。

 そしてもう一つ大事なのが、一日一回以上、卵に水を与える事。卵のお世話といってもそれだけ。

 一応、卵に水をあげる時には、下に敷いている布が濡れないように卵を取り出してからするんだって。

 これまたチムタム達が用意してくれた、卵用のカゴよりももっと細いツルで編まれたやや小さめのカゴに入れてから水をあげる。

 水をあげるといっても水にどっぷり沈めるわけではなく、新しく汲んだ水を霧吹きで卵に吹きかけてあげるだけ。

 しかも、別に卵全体を濡らすくらいにたくさんする必要はなく、上から霧吹きでかけてあげて卵の表面がある程度濡れればそれでいいみたい。

 その辺りの加減は、グレイさんが知っているらしいので実際にやりながら教えてもらいなさいと言われた。

 もちろん、それ専用の霧吹きもグレイさんが用意してくれているので、それを使うわ。

 瑠璃色の綺麗なガラス製の霧吹きを手にした私を見て、グレイさんも嬉しそうに頷く。

「水を汲んでくるよ」

 そう言ってグレイさんが立ち上がり、キッチンの水道から水を汲んできてくれた。

 教えてもらった通りに、床に置いた水やり用のカゴに卵を両手で持って移動させる。

 万一にも落としたりしないように慎重にね。

「どうぞ」

 水の入った霧吹きを渡してくれたので、慎重に卵に向かって霧を噴く。

 数回やって片方の卵の表面がしっかり濡れたところで、グレイさんに霧吹きを渡してもう一つの卵もしっかり濡らしてやる。

 水滴だらけになった卵を見て、不思議だけど、ちゃんとこの卵達を愛おしいと思える自分に密かに安堵した私だったわ。

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