取引の終了とチムニー達の頑張り
「成る程。このコイン何枚って感じで値段が付いているわけね」
早速、リッティと一緒に屋台を見て回った私は、納得して小さくそう呟いたわ。
それぞれの屋台では、出来上がった料理がそれぞれ店頭に山盛りに用意されていて、料理ごとに数字が書かれている。あれが料理単品の値段みたい。
ちなみにこの世界の言葉や文字、数字などについては、何故か私の中にちゃんと知識があって、初対面の時のグレイさんやワルターさんの言葉だって普通に分かったし、コロニーに来てから過ごすうちに改めて分かったんだけど、文字だって何故か普通に書けたのよね。これはアルファベットっぽい表音文字だった。
何故解るのか本当に不思議だったんだけど、あの時の事を思い出した今となっては、これはドラゴン様方が、私に翼と一緒に授けてくださった知識だと分かっているので、そこはとても感謝しているわ。
知らない世界で言葉が通じないとか、もう絶対に無理ゲーよね。
ちなみに数字は、私のよく知るアラビア数字に酷似していてもちろん十進法だったから、何の躊躇いもなく使う事が出来たのよね。
「だけど、このコインに書かれている100ってどれくらいの価値なのかしら? そもそも百円と百ドルだったら全然値打ちが違うもの。この硬貨一枚の価値がどれくらいなのかがさっぱりだから、ここにあるのが高いのか安いのかがさっぱり分からないわね。ううん、串焼き一本が硬貨五枚。あっちのパスタみたいなのは硬貨二十枚。汁そばみたいなのも硬貨二十枚。お団子は一つ硬貨十枚。ううん、高いのか安いのか分からないわ」
しばし考えてみたけど、答えなんてそもそもここにあるはずがないんだから考えるだけ無駄。
でも、とりあえずお腹も空いているので色々食べてみたい。
ため息を吐いて考えるのを放棄した私は、周りを見てからリッティを見た。
もちろんリッティも目を輝かせて周りを見ていたので、私は、まずは串焼き肉を一本だけ買ってみる。
何の肉か店主さんにさりげなく聞いてみると、牛の肉だとあっさり教えてくれたわ。
うん、牛の肉なら安心して食べられるわね。
しっかりした塩味の串焼きは美味しかったので、ちょっとまとめて買わせてもらった。これは絶対にグレイさんも好きだと思うからね。
それからリッティと二人で味の違うパスタをそれぞれ購入して半分こしたわ。
どちらも美味しかったし、他もどれも美味しいとリッティが教えてくれたので、ここでも張り切ってまとめ買いさせてもらった。
その後も、リッティと半分こしながら色々と食べては買い込み、そのあともリッティおすすめの料理を順番に回って買いまくったわ。
これは以前のと同じように自分で硬貨を使って出来る買い物だから、サクサク進むし計算も楽。
ううん、やっぱりお買い物って楽しいわよね!
でも、大満足の食事とお買い物タイムを終えても両替してもらった硬貨はまだまだ残っている。
どうすべきかと困っていると、もちろん次に商人さん達が来た時にも使えるのだと聞き、安心して収納しておいた私だったわ。
「ルリ、買い物は順調か?」
その時、少し離れたところで何かを食べていたワルターさんや狩猟組の皆さんと一緒にいたグレイさんが、笑顔でそう言って手を振ってくれた。
「ええ、どれもとても美味しかったので、頑張って色々と買い込ませてもらいました!」
笑って胸を張る私を見て、ワルターさん達が笑って拍手をしている。
「結婚してすぐの頃は、そりゃあどこにも出かけず部屋で二人っきりになりたいだろうからな。食料はしっかり確保しておく事をお薦めするよ。まあ、二人とも大容量の収納持ちだからそこは安心だな」
狩猟組の人が、笑いながらそう言ってグレイさんの腕や背中をまたバンバンと叩いている。
痛いと大声で文句を言うグレイさんを見て、ワルターさんを含む全員が揃って大爆笑になっていたから、何と言うか……グレイさんが、おもちゃにされている感が半端ないんですけど。
でもまあ、独身組からの卒業なわけだから揶揄われたりおもちゃにされるのも当然なのかも。
文句を言いつつも楽しそうに笑うグレイさんを見て、男子の友情っていいなあ、なんて若干斜め上な感想を思っていた私でした。
それから、もう一度リッティと一緒に屋台を回ってもう少し気に入ったものを買い足し、その後はもうのんびりと外のお店を見て周って終了まで楽しく過ごさせてもらったわ。
取引終了を告げる鐘の音が響き渡ると一斉に拍手が沸き起こり、皆笑って拍手をしたり手を叩き合ったりしていた。
どうやら、皆も良い取引をする事が出来たみたい。
「ああ、ルリ発見! ねえ、初めての買い物はどうだった? 上手く交渉出来た?」
その時、チムタムの声が聞こえて振替えると、チムニーと、それから彼の友達なのだろう彼と同じくらいの歳の男の子達を引き連れたチムタムとロアが、揃って笑顔でこっちに手を振ってくれていた。
「もちろん、たくさん買わせてもらったわよ。服もいっぱい買ったし、屋台のお料理だって山ほど買ったわ」
「ええ、凄いね。自分で交渉したの?」
目を輝かせたチムニーが走ってきて、私の手を取ってそう言いながら飛び跳ねている。
「そんな訳ないでしょう? 欲しいものは自分で選んで、後はリッティとグレイさんに交渉してもらったわ」
「あはは、ルリずるい〜〜」
チムニーの笑う声に彼の友達も皆、口々にずるいずるいと言って笑っている。
「私は〜〜まれびとなのでそんな交渉はした事がないので、無理で〜〜す! 助けてもらって当然なんで〜〜す!」
「もちろん喜んで助けたわよ!」
笑った私の言葉に続き、これまた笑ったリッティがそう言って胸を張る。
「やっぱるずるい〜〜」
「俺達は必死になって、集めた昆虫を元手に大人の人達に教えてもらっていっぱい交渉したんだぞ〜〜」
「それでこれを手に入れたんだもんね!」
「これはみんなで使うんだ〜〜い!」
笑って見せてくれたのは、ボードゲームっぽいセットと、トランプみたいな絵の描かれたカードの束。
それから、何だかよく分からない調理道具みたいなものが一式入った大きな箱。その横には、中に謎の液体が入った何本ものガラス瓶や、塩やスパイスみたいないろんな色の粉が入った瓶も何本もある。
大きな箱の中には、何本ものナイフだけでなく、手術の時に使うメスみたいな先の細い小さなナイフとか、金属製のお箸みたいな長い棒の束や爪楊枝サイズのとても細い針の束も沢山あるみたい。それから、その横にはスクレーパーみたいな大小のヘラやピンセットみたいなものも何本もある。ナイフ以外は、何に使うものなのかがさっぱり分からない。
「ねえ、それは何に使うものなの? 調理道具にしては、お鍋がないわよね? でも針はあるけど糸はないからお裁縫セットってわけでもなさそうね?」
首を傾げながらそう尋ねると、男の子達が揃って吹き出す。
「ルリ姉ちゃん、食べちゃ駄目だよ。これは昆虫採集用の道具や薬品だよ。捕まえた昆虫を傷まないように処理するのは結構難しいし大変なんだよ。だからこれが絶対に欲しかったんだ」
「今使っているのは、もうかなり古くなっていて色々大変だったもんな」
「これがあれば、どんな昆虫だって完璧に処理出来るよ!」
嬉しそうにそう言って拍手をする彼らを見て、まだまだ小さいのに、何とも逞しいものねと感心する私だったわ。




