大切な仲間とこの世界の事
「はあ、冗談抜きで現実に頭がついていかないわ」
顔を上げた私の呟きを聞いて、チムタムがまたキャーと歓声を上げて隣に座ったロアと手を取り合って笑っている。
「その、ルリの意見も聞かずに勝手な事を言ってすまん。もちろん急がないので、引っ越しについてはルリの都合に合わせるよ」
慌てて謝るグレイさんの言葉に、私は笑って首を振る。
「いえ、構いません。早く一緒に暮らしたいのは私も同じですから。でも、正直に言うと、展開の早すぎる現実に、ちょっと頭がついてこないです」
しみじみとした私の言葉にチムタムとロアだけでなく、リッティやパムまでは揃ってもう一回キャーを歓声を上げて笑いながら手を叩き合っている。
そしてチムニーとワルターさんやカーク君にキース君達、それから狩猟組の皆様の笑う声までが聞こえて、私とグレイさんは揃って真っ赤になってもう一回テーブルに突っ伏す事になったわ。
もうその後は、入れ替わり立ち替わりやってくる人達に散々揶揄われてはおめでとうを言われ、私とグレイさんは揃って真っ赤になりつつもお礼を言っては、改めてよろしくお願いしますと頭を何度も下げる事になったのでした。
結局、かなり遅い時間になってようやくBBQパーティーはお開きになったんだけど、残ったワイバーンの焼いた肉をまとめて山ほど貰ったので、お礼を言って有り難く収納させていただいたわ。
夫婦棟にも食堂はあるので、無理に自炊する必要は無いんだって。
でも、たまにはお酒を片手に部屋でのんびり二人きりで食事するのもいいかもしれない。
山のようなお肉を収納しながらグレイさんとのその光景を思い描いてしまい、恥ずかしさのあまり一人で悶絶して、もう一回密かに赤くなった私だったわ。
しかもチムタムが教えてくれたんだけど、結婚が決まったカップルがいるといつもこうやってお祝いを兼ねてワイバーンのお肉でBBQパーティーをして、わざと残したお肉をそのカップルにあげるんだって。
新婚さんには、そんな感じで周りの人達からの助けを色々と貰いながら、ここでの二人での生活を作っていく事になるらしい。
どうやらここでも、相互扶助の精神がしっかり浸透しているみたい。
私とグレイさんの場合は……どうなるのかしらね?
うん、水石はたくさん集めてきたから、とりあえず商人さんが来たら新居で必要なものをグレイさんと相談しながら揃えようと思う。
でも、この世界って物々交換が基本なのよね……うん。必要なものを購入する際の交渉は、グレイさんにお任せしようっと。
そのあと、皆と一緒に女性棟に戻った私は、枕を抱えて私の部屋にやってきたリッティとチムタムと、一晩中語り合ったわ。
改めてここでの生活を一から思い出し、グレイさん達と出会った時の事を詳しく話して、リッティは割と本気で怒っていたわ。か弱い女性に、あいつはなんて無茶をするんだってね。チムタムまでが怒り始めてしまい、私は慌ててグレイさんを擁護する事になったのでした。
でも、改めてこのコロニーでの数々の出来事を思い出してみて、本当にこのコロニーに来られて良かったなあと、密かに感動していた私だったわ。
噂に聞く鷹族のコロニーになんかにもしも最初に転がり込んでいたとしたら、間違いなく今頃は野良になって野垂れ死していたと思うわ。いや、冗談抜きで、本当にそう思うわ。
ちなみに、この時にリッティの年齢を初めて聞き、その結果実年齢では、三人の中では私が一番上だった事が判明してリッティと顔を見合わせて笑い転げたわ。
だって、どこからどう見ても小柄な体と童顔のせいで、間違いなく私の方が年下に見えるんだもの。自分でもそう思うわ。
ここで、いきなり我に返る私。
「待って。って事は……当然、彼女と双子なグレイさんも、私よりも年下って事よね!」
思わずそう叫んで頭を抱える。
「ううん、でも私の場合は本当に、単に歳くっているだけで全然頼りないから、グレイさんやリッティよりも優れている事って何か一つでもあるかしらね」
思わずそう呟くと、チムタムだけでなく笑っていたリッティまでが揃って真顔になる。
「ルリは、心が強い。何があっても絶対に諦めない強さがあるわ。飛べなかった間もずっと真面目に羽ばたきの練習をして、いつだって笑顔で子供達の面倒を見てくれた」
「そうよ。どれだけ大変でも、どれだけ辛くても、あんな怖い目に遭って大怪我をして、それでもいつだって笑顔で前を向いていた。私には、そんな事絶対に出来ないと思う。それは尊敬に値する強さよ」
真顔の二人にそう言われて、慌てて首を振る。
「それは違うわ。私は諦め慣れているだけ。どんなに辛くても、どんなに大変でも生きていく以上は前を向かないといけないでしょう。だから私は、今までずっと一番の願いを諦めてきたの。単に空元気が強さに見えただけよ。自分は飛べないんだって……」
そこまで言った時、文字通り血相を変えた二人に両腕を掴まれた。
「ルリ、駄目よ! 飛ぶ事を、飛べるようになる事をそんな簡単に諦めたりしないで!」
「そうよ。ちゃんと飛べるようになったでしょう! これからもルリさんはここで、ずっとずっとグレイさんや私達と一緒に飛びながら暮らすのよ!」
飛ぶ事が当たり前な彼女達の言葉に、ちょっと涙ぐみつつ私も出来るだけ笑顔で何度も頷く。
そう、ここは飛ぶ事が、飛べる事が当たり前な世界。
ずっとずっと、飛ぶ事を諦め続けていた私にとって、何よりも欲しかった世界が目の前にある。
そして、私はここで多くの翼を持つ仲間達と、グレイさんという生涯の伴侶まで得た。
ここに来られて本当に良かったと思う。
一つため息を吐いて、大切な仲間であり友達でもある二人を見る。
頼もしいリッティの大きな翼。そして出会った時よりも一回り以上は確実に大きくなっているチムタムの翼。
彼女達の翼に比べれば遥かに小さい私の翼。それでも、これで私は空を飛べるようになった。
喉から手が出るほどに欲しかった空を飛ぶ為の翼が、今、私の背中に当たり前にある。
確かにここでも色々あったけど、飛べなくて辛い時期もあったけど、それでもちゃんとまた飛ぶ事が出来るようになった頼もしい私の相棒を改めて見つめる。
「うん、そうだね。ありがとうね。改めてよろしくね」
感極まって出た涙を隠そうともせずにそう言って笑うと、リッティとチムタムは私を左右からしっかりと抱きしめてくれた。
「改めてよろしくね。我が妹! ルリの方が年上でも、私が姉なんだからね!」
「そうね。お姉様! よろしくお願いしま〜〜す!
笑いながら胸を張るリッティの言葉に笑いながら頷き、そう言いながら横から彼女に抱きついた私だったわ。




