グレイさんと私
「ああ、起きたか?」
ぼんやりしていた意識がふいに鮮明になり、目を開いたところですぐ目の前にグレイさんの顔があってそう言われて、我に返った私は唐突に真っ赤になったわ。
何しろ今の私は、砂浜に敷かれた敷布の上でグレイさんと向かい合うようにして横になっていたんだもの。
しかも、私の体はサラサラで新しい乾いた服を着ている。だけど、髪はまだ少し濡れているみたい。
「あれ? この服って……?」
しかも、今着ているこの新しい服には見覚えが無い。
「少し無理をさせたようだったからね。ルリが眠っている間に、失礼して泉で体を清めさせてもらった。その服は、その……姉さんから、何かあった時の為に持っていろと言われて少し前に押し付けられたんだ」
少し恥ずかしそうに告げられたその言葉に、もう一回真っ赤になる私。
それって、その服を着て帰ったら、そういう事しましたって言っているのと同じよね!
脳内で力一杯叫ぶと、満面の笑みでサムズアップするリッティの姿がめっちゃリアルに見えた気がして、もう笑うしかない私だったわ。
そうよね、もう今更よね。
「そうだったんですね。ありがとうございます。ああ、もう日が暮れますね。そろそろ戻りますか?」
空は真っ赤になっているから、すぐに周囲は暗くなるだろう。
そう思って言ったんだけど、グレイさんは困ったように笑って真っ赤な空を見上げた。
「俺はもう少しルリと一緒にいたいが、まあ、確かにそろそろ戻ったほうがいいかな」
体を起こしたグレイさんも、防具こそ身につけていないけれども普段通りに服を着ている。
「立てるか?」
苦笑いしたグレイさんにそう言われて、恐る恐る私も体を起こしてみる。
「痛っ!」
なんというか、立ちあがろうとした瞬間に、腰の辺りから全身に痛みが走って思わずそう叫ぶ。
でもその瞬間に、何故か傷んだ腰の辺りから一気に痛みが消えて思わず目を見開く。
「だ、大丈夫か!」
慌てたグレイさんがそう言って、私を覗き込んでくる。
「ええと……はい、大丈夫です。でも、ちょっと自力では立てないっぽいので手を引いてもらえますか」
座った体勢のまま、半ば呆然としつつそう言って左手を差し出す。
「あ、ああ。どこか痛かったら言ってくれ」
そう言ったグレイさんが私の左手を握り、これ以上ないくらいにそっと優しく手を引いて立たせてくれる。
そのまま立ち上がったけど、どういう訳か、さっきの痛みはどこにいったのかと思うくらいに体はいつも通り。全然、どこも痛くない。
その時、優しくも暖かな風が私の方に吹き寄せてきて、まだ濡れて湿っていた髪が一気に乾く。
「ええ、何これ! 濡れていた髪が一瞬で乾いたわ!」
思わず自分の髪を引っ張りつつそう叫ぶと、納得したようにグレイさんが笑った。
「ああ、もしかしてシルフ達かな。タルカムが、シルフ達がルリの事を気に入ってくれていると言っていたから、もしかして手伝ってくれたのかもな」
姿こそ見えないけれども、確かに私の周囲にまた暖かな風が吹くのが分かって思わず笑顔になる。
「そうなのね。シルフの皆さん、体の痛みを癒してくれた上に、髪まで乾かしてくれてありがとうね」
とりあえず、上空に向かってそう言っておく。
シルフは風の精霊なんだから、なんとなく空を飛んでいるイメージだったから上にいるのかと思っただけなんだけれどね。
もう一度暖かな風が吹き寄せてきて、なんだか嬉しくなったわ。
「じゃあ、ルリも大丈夫そうだし戻るか」
笑ってそう言ったグレイさんが一旦手を離して、敷いてあった敷布を持ち上げて何度か叩いて砂を落としてから畳んで収納した。
「グレイさんも、結構収納力あるんですね」
間違い無く武器も複数収納しているだろうし、さっき湯を沸かす時に使った道具や、二人で横になっても余裕なくらいに大きなこの敷布、それから私の着替えだけでなく、今彼が着ている服も新しいものだから自分の着替えだって複数収納しているのだろうから、かなりの収納力だと思う。
そう思って密かに感心しながらそう言うと、グレイさんは笑って一瞬で剣を取り出して見せてくれた。
私がお借りしていたあの短剣と違って、私の腕よりも長いくらいの大きな剣。
「まあ、ルリほどでは無いけれど俺も割と収納力は多い方だな。おかげで予備の武器や防具だけでなく、仲間で使う野営の道具なんかもまとめて持たされているよ。ああ、そうだ。これ、手入れが終わったので渡しておくよ」
大きな剣を一瞬で収納したグレイさんは、今度は見覚えのある短剣を取り出して私に渡してくれた。
「ああ、手入れしてくださったんですね。ありがとうございます。またお借りしますね」
私とチムニーを守ってくれた、頼もしい短剣。
怖いくらいに鋭い光をもつその切先を見て、一つ深呼吸をしてから受け取ったそれをすぐに収納した。
あんな短剣、持っているだけでも怖いもんね。
「まあ、そんなものは使わないに越した事はないが、念の為に持っていてくれ。それに、ルリはいざとなったら腹を括って強くなるみたいだから、武器は必要だな」
「うう、あの時は本当に夢中だったんです。後で思い出して、本気で怖くてブルブル震えていたんですから!」
そう言って、右手首を押さえつつわざとらしく震えて見せる。
「そうだな。あんな経験は一度で充分だよ。でもまあ、採取に出ているとジェムモンスターに出会す可能性は高い。大丈夫だとは思うが、充分気をつけるようにな」
「そうですね。色々と分かった気がするので、次はもっと上手く逃げます」
「ああ、是非そうしてくれ。じゃあ帰ろうか」
笑った翼を広げたグレイさんがそう言って右手を差し出してくれたので、握り返した私も大きく翼を広げる。
「飛ぶよ」
そう言って予備動作もなしに大きく羽ばたいて一気に上空へ上がる。
当然、手を引かれた私も一緒に空へと上がり、遅れた私も慌てて羽ばたく。
そのままグレイさんと手を繋いで、一気に降下していった私達だったわ。




