浮島の砂浜にて
「ああ、すっかりびしょ濡れになってしまったな。ルリは、着替えを持っているか?」
濡れた前髪をかき上げながら苦笑いしたグレイさんにそう言われて、私もびしょ濡れになった自分の服を見てから頷いたわ。
「もちろん持っているわ、でも……」
そこまで言って我に返る。
この浮島はとても小さくて、林どころか大きな木すらない。
あるのは、私の腰くらいまでの高さの低木の茂みと、膝上くらいまでの雑草の茂みだけ。
つまり、着替えようにも隠れる場所が無い!
「じゃあ、俺はこっちを向いて着替えるから、ルリはそっちで着替えるといい」
そう言って少し離れたところで私に背を向けたグレイさんが、胸当てや籠手を外し始める。
それを見て、私も着替えをしようと収納していた服を取り出そうとしたところで、不意にある思いが湧き上がってきて手が止まった。
一応、この恋は成就したと思っていいのよね。でもって、将来の約束までしてもらえたんだから、そうなると、キスだけでいいのかしら? もしかして、これって次のステップに進む絶好の機会なのではなくて?
実を言うと、これに関しては私は全くの未経験。もちろんそれなりに知識はあるけれども、前の世界では、今のグレイさんほどに惹かれる人はいなかったのよね。
一応、学生時代にちょっとだけ付き合った子はいたけど、手を繋いだだけで終わったわよ。
ここでびしょ濡れな自分の姿をもう一度見る。
やや小さめの胸は、濡れた服が張り付いてはっきり言ってほぼ丸見えに近い状態。
この状態でグレイさんのすぐ横にいたのだと今更ながらに気づいて、唐突に真っ赤になった私だったわ。
でも、ここである疑問が不意に湧き上がった。
こんな絶好の機会なのに、グレイさんは私に手を出さないの?
胸当てを外し終えて服を脱いで、上半身裸になったグレイさんの背中を見る。
「え?」
翼に隠れているけれど、明らかに大きな怪我の跡がいくつも見えて思わず声を上げてしまう。
「どうかしたのか? ああ、すまない!」
驚いたグレイさんがこっちを振り返り、慌ててまた前を向く。
「いえ、構いません……」
そう言いながらグレイさんの元に駆け寄る。
「大きな傷がいっぱいある……」
近くで見ると、翼の根本部分にも大きな傷があるのが見えて胸の奥がギュッてなる。
「まあ、狩猟組の連中なら、皆それなりに怪我をしているからな。俺は前線で戦う事が多いから、それなりに怪我も多いよ」
前を向いたままこっちを見ずにそう言って笑うグレイさんに、私は気がついたら横から抱きついていた。
本当なら背中から抱きつきたかったんだけど、翼があってちょっと無理だったからね。
「ルリ、冗談はよしてくれ」
しばしの沈黙の後、ため息と共にグレイさんがそう言って私の手をそっと握って解こうとした。
「冗談じゃない」
そう言って、もっと力を込めてグレイさんに抱きつく。
濡れた服越しに、私のささやかな胸がグレイさんの左腕に当たっている。
「それはつまり、そういう意味だと受け取るぞ」
まだ前を向いたままのグレイさんの真顔になった真剣な言葉に、私はもう一度力一杯グレイさんに抱きつきつつ小さく頷く。
次の瞬間、私の体はグレイさんに抱きしめられていた。
そのまま噛み付くみたいなキスを交わす。さっきまでのような啄むキスではなく、かなり濃厚な恋人同士のキスを。
キスをしながら、砂の上にお互い向き合う形で座り込む。
そっか。背中に翼があるから、こういう事をする時には横になるんじゃあなくて座って向かい合ってするのね……待って、めっちゃ恥ずかしいんだけど!
キスを交わしつつも内心パニックになる私だったけど、そんな事は知らないグレイさんの手が私の体を優しく何度も撫でていく。
その手がとても気持ち良くて緊張して固くなっていた体から力が抜けていき、私の体はグレイさんにもたれかかる。
そして、そっと濡れた服が脱がされるのが分かって、私は恥ずかしさのあまり咄嗟に両手で胸を隠した。
「綺麗だ。とても綺麗だよ、ルリ。全部俺に見せてくれ」
またキスをされてからとろけるような甘い声でそう言われて、私はそっと腕を下ろしてグレイさんに抱きついた。
笑ったグレイさんがまたキスをくれて、それからそっと私の体に手を伸ばしてきた。
そして、私はグレイさんに導かれて人生初体験をする事になったのでした。
ええと、もちろんすっごく優しくしてくれたし最高に幸せだったんだけど、これだけ体格差があると色々と大変でした。とだけ言っておくわ。
うん、明日もお休みにしてもらって正解だったかも……。




