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空の彼方に  作者: しまねこ


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小さな浮島での昼食と水石集め

「こんなものしか手持ちがなくて申し訳ないが、昼食代わりにどうぞ」

 淹れてもらった紅茶を飲み終えた頃に、苦笑いしたグレイさんが何かを取り出して渡してくれた。

 確かにもうお昼を過ぎている時間で、ちょっとお腹が空いている事にここでようやく気がついたわ。

「何ですか、これ?」

 渡されたそれは、乾燥した葉に包まれたタバコの箱くらいの大きさだけど、軽い。

「何って、これは携帯食だよ。そうか、採取に行く子供達は普段の食事と変わらない弁当を持っていくから、まれびとのルリは知らなくても当然だな」

「へえ、そんなものがあるんですね。あ! 私、ベリーの実を持っていますよ。これもよかったらどうぞ」

 手持ちにベリーの実があったのを思い出して、そう言いながら慌ててベリーの実を幾つか取り出す。

「ああ、これは良い。じゃあ、それも遠慮なくもらおう」

 笑ったグレイさんが、そう言って木製のお皿も出してくれたので取り出したベリーの実はそこに並べておく。

「ちなみに、この携帯食は口の中の水分を思いっきり持っていかれるから、水石を用意しておくといいぞ」

 紅茶を飲んでいたカップを指差しながら、そう教えてくれる。

 包みの中から出てきたのはグラノーラバーみたいなもので、確かにこれは水分が必要そう。

 笑って頷き、カップに少しだけ残っていた紅茶を飲み干してからそこに水石を使って水を落とした。



「ちなみに、この水石から水を落とすのって、右手が使えなかった時にすっごく苦労したんですよ」

 不自由だった入院生活を思い出して、思わずそう言いながら右手で持った自分の水石を見せる。

「ああ、確かに片手だと色々と不自由が多いよな。片手で水石から水を出す時は、こうするといいぞ」

 笑ったグレイさんがそう言って私が使っているのよりもかなり大きな水石を取り出す。

 そして、親指と中指で水石を掴み、人差し指の爪を立てるようにして水石の上から指先で強く叩いた。

 いつものように水石が震えて水が染み出してくるのを見て、思わず無言になる私。

 手にしていたカップに入った水を無言で見て、それを半分ほど飲んでから私も水石をもう一度取り出す。

 そしてさっきのグレイさんがやっていた時のように、親指と中指で水石を掴んでから、人差し指の指先で上から水石を叩いてみた。

 両手でする時よりも少ないけれど、普通に水石が震えて水が染み出してくるのを見た私は、もう堪えきれずに吹き出したわ。

「ええ、こんなに簡単に水石を片手で使えたなんて! このやり方は入院中に教えて欲しかったわ!」

 思わずそう叫ぶと、グレイさんも吹き出していた。

「まあ、これは器用な奴は出来るが、たまに出来ない奴もいるからな。看護師さん達も、ルリは不器用な人なんだと思っていたんじゃあないか? まさか、このやり方を知らないとは思っていなかったんだろうな」

「とりあえず、ダブってもいいから何でも教えてくださ〜〜い!」

 水石を収納してからそう叫ぶ私を見て、もう一回グレイさんが吹き出していたわ。



「確かに、これを食べると口の中の水分全部持っていかれますね。水は必須だわ」

 おかわりの水を出しながら、思わず笑ってしまった。

 ついでに言うとこの携帯食、甘みはあるんだけど雑穀の食感がかなりあるのでしっかり噛まないと駄目。もう顎が疲れるレベルで噛まないと駄目だわ。

 グレイさんと顔を見合わせて笑い合い、時折ベリーの実をつまみつつ、黙々と携帯食をいただいたわ。



「狩りに出ている時って、いつもこれなんですか?」

 半分ほどを食べたところで、ふと思いついてそう尋ねてみる。

 一度くらいなら、まあこれもアリかなって思えるけど、毎回これはちょっと悲しいかも。

「そうだな。大抵これだな。野営をする時には干し肉と乾燥野菜でスープを作る事もあるが、それほど手の込んだ事はしないよ」

「ええ、それは辛いかも」

 思わずそう言うと、逆にグレイさんは驚いたように私を見た。

「そうかな。俺達は慣れているし、ホームに戻ったら温かい食事があるとわかっているから、別にそれほど苦ではないぞ」

「ご、ご苦労様です!」

 真顔でそう言う私を見て、グレイさんは面白そうに笑っていた。



 食事を終えてから一休みして、グレイさんと一緒に泉の方へ行ってみた。

 確かに、よく見ると泉の中には水石がぎっしりと積み上がっている。

「じゃあ取るよ」

 笑ったグレイさんがそう言い濡れるのも構わず泉の中に入っていく。慌てて私もその後を追った。

 膝上くらいまで私が泉に入ったところで、前にいたグレイさんが泉に手を突っ込んで水石を取り出しどんどん私に渡してくれた。

 慌てて受け取り、次々に収納していく。

「大容量の収納持ちは羨ましいな。ああ、これは良い水石だ」

 少し深いところから取り出したそれは、グレイさんの握り拳よりも大きいくらいの水石。これはいつも行っている普段の採取では見ないくらいの大きさだわ。

「水石って、やっぱり大きい方が評価は高いんですか?」

 それを受け取って収納しつつ、ふと疑問に思ってそう聞いてみる。

「そうだな。水石は時間と共にどんどん成長して大きくなるが、泉の大きさと同調していて、ある程度の大きさになるとそれ以上は大きくならないんだ。だから、ここのように大きな泉だと、当然そこにある水石も大きくなる。こんな風にな」

 笑ってそう言ったグレイさんは、ざぶざぶと泉の中に入っていく。

 でも、当然中には透明な水石がぎっしり積み上がっているので、その上に乗ったグレイさんはまるで水中に浮かんでいるみたいに見えて、ちょっと不思議な光景だったわ。



 そのあとも、どんどん渡してくれる初めて見るような大きさの水石を受け取っては収納するのを繰り返した。

 最初のうちは、渡される水石を岸に近い場所で受け取っていたんだけど、いちいち戻ってきてもらうのも何だか申し訳なくてついつい私も前に進み出てしまい、気が付いた時には私も腰まで水に浸かって水石を受け取っていたわ。

 時々水の中に潜って大きな水石を集めてくれるグレイさんは、もう頭の先までびしょ濡れ。

 文字通り、水も滴るいい男になっていて、ちょっと笑ったのは内緒ね。

 結局、グレイさんがもういいと言うまで水石を集めては収納するのを繰り返して、ようやく終わった頃には私も全身びしょ濡れになっていて、顔を見合わせて揃って吹き出したのでした。

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