浮島の泉のほとりにて
「わあ、綺麗な泉ですね。周囲が砂浜みたいになってる」
到着したその浮島はかなり小さな浮島で、ぐるっと見回すと周囲の縁が全部見えるくらいだったんだけれど、その中心部分には直径十メートルくらいはありそうな大きな泉があり、そこから流れ出した小川がそのまま浮島の縁から流れ落ちていた。
しかも、その泉の周囲は綺麗で真っ白な砂浜が広がっていて、時折その砂の間からもポコポコと水が湧き出していた。
「ここは、泉があるだけの浮島だよ。でも、ご覧の通り砂が綺麗でね。休憩するにはもってこいの場所なんだよ」
笑ったグレイさんがそう言い、泉から少し離れたところに何やら道具を取り出し始めた。
取り出したのはカップが二つ、それから幾つもののレンガのような四角い石と小さめのヤカンだった。
「もしかして、これでお湯を沸かすんですか?」
四角い石を組み合わせているグレイさんを見て、ようやくこれが何か分かって思わず笑顔になる。
ちょっと体が冷えていたので、暖かいお茶は嬉しいかも。
「ああ、そうだよ。俺達は別の浮島へ狩りに出たらそのまま野営する事もあるからな。これは狩猟組の奴ならほぼ全員が持っている、湯を沸かす道具だよ」
笑ってそう言い小さなかまどを組み立てたグレイさんは、細かく刻んだ茶葉が入っている小さな小瓶も取り出して見せてくれた。
「これは、地上との取引で手に入れたお茶の木から採取した葉を使って作ったもので、地上では紅茶と呼ばれているらしい。少し前から作り始めたらしく、留守番組の友人から飲んだら感想を聞かせてくれと言われて貰ったんだよ。何度か飲んでみたがなかなかに美味しいぞ」
「紅茶なら、私の元いた世界にもありましたね。同じかどうかは、飲んでみないとわかりませんけれどね」
ここでのお茶といえばハーブティーしか飲んだ事が無かったので、紅茶があると聞いて嬉しくなったわ。
「それと、あっちの泉には水石が大量にあるぞ。ここまで来れた者は好きに取っても良い事になっているから、後で集めておこう。近々商人が来ると聞いているから、取引の材料にするといい」
笑ったその言葉に、泉を見て私も笑顔になる。
「そういえば、勝負はグレイさんの勝ちでしたね。約束ですから、なんでも好きなものを買いますよ。何が良いですか?」
どっちが先に飛べるようになるか勝負をしていたのを思い出してそう言うと、グレイさんは驚いたように目を見開き、少し考えてから吹き出した。
「確かにそんな事を言っていたな。そうか。確かに俺の方が飛べるようになるのは早かったな。じゃあ、何を買ってもらおうかなあ」
笑ってそう言ったグレイさんは、組み立てたかまどの中に初めてみる小さなサイコロ状のものをいくつも取り出してそこに入れた。
それから、小さな石を二つ取り出して軽く打ち合わせた。
火花が飛び散り、さっきの小さなサイコロ状のそれに火がつく。
「ええ、凄い。そんな簡単に火がつくんですね」
驚いてそう言うと、笑ったグレイさんが一瞬であの小さなサイコロ状のそれを取り出して見せてくれた。
「これは、留守番組の連中が作ってくれているものの一つで、細かくすり潰したした木にいくつかの薬剤を混ぜて固形化したものだよ。俺達は、そのまま火付け石と呼んでいる。見たように、火打ち石の火花で簡単に火がつくので野営の時に重宝するんだ」
「この世界にも、そんな便利な道具があるんですね。初めて見ました」
「そうだな。便利で有り難いよ」
手元の火付け石をのぞき込みながらそう言うとグレイさんは笑って頷き、置いてあったポットに取り出した水石から水を出してそこに入れてから、火のついたかまどの上にそっとポットを乗せた。
しばらく待ってお湯が沸いたところで火からおろし、ポットの中に茶葉を入れる。
でも茶漉しは無いみたいで、しばらく蒸らしてからゆっくりとそのままカップに注いでくれた。少し茶葉が入ったけど、これくらいなら避けて飲める程度。
「ありがとうございます。うん、香りは私の知る紅茶とほぼ変わらないですね」
ゆっくりと深呼吸して久し振りな紅茶の香りを楽しんでから、飲んでみる。
思っていたよりも体が冷えていたみたいで、暖かい紅茶はとても美味しかった。
グレイさんと並んで座って暖かい紅茶をいただきながら、私は幸せな満足感と安心感に包まれていたのだった。




