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第十九話

すっごーく、お久しぶりです。


生きてます(聞いてない)





御前試合はヒロイン率いる権力者軍団の敗北で終わった。


それは、見事な負けっぷりだった。

魅了チャームを使っていた事に対戦相手の生徒達の怒りを買ったのだ。


その試合中トニコア嬢は何度もこちらを見上げては何か言っている様子だったが、俺は気付かない振りを貫いた。

王子の手を振り払い、宰相の息子を突き飛ばしヒロインは暴走していた。


『アル様!!』と呼んでいた様だったが、知らないったら知らないのだ。

ヒロインがこちらに意識を向ける度、その魅了の支配下にある彼らの殺気の籠もった視線を送られ…泣きそうなくらい怖かった。


泣かないけど。







俺は逃げるように表彰式の参列を辞退して父様と二人目立たないように会場を後にし、祖父達の家に帰ってくると俺は部屋に籠もり精霊達を呼び出した。



俺が契約している精霊達は四体。

地水火風ちすいかふうの自然界を司る上位精霊達だ。



幼い頃に契約して、名付けた彼らは俺にとって家族と同じ大切な存在だ。


俺の呼び出しに応えた四体は不思議そうにお互いの顔を見合わせた後、俺を見た。


『何なんですの、このように契約した者を全て呼び出すなんて』


水の精霊は自分の他にも呼び出された精霊を見て不機嫌そうに唇を尖らせた。

素直じゃないなぁと思いながら謝ると、ツンッとそっぽを向いた。今日も相変わらずですね。


『それで、何か聞きたいことがあるの~?』


土の精霊がのんびり言うと、風の精霊が首を傾げた。


『さっき、王様がゆうてたこと聞きたいんちゃうん?』

『王様~?』


土の精霊が首を傾げる。

それを聞き、黙っていた火の精霊が口を開いた。


『権力者に何か言われ、不都合ならば消すが…』

「ストップ、物騒なこと言わないように」

『ぬ…わかった』



水の精霊は深い青の髪に空色の瞳を持つ20代に見える女性の姿。

土の精霊は茶色の髪に薄い金茶の瞳を持つ10代前半の少女の姿。

風の精霊は深緑の髪に黄緑の瞳を持つ10代後半の青年の姿。

火の精霊は深紅の髪に金色の瞳を持つ30代の男性の姿。



精霊には基本的に実体は無いが、それぞれが人の姿をしていて俺にとって親しみやすい姿をしていた。



「ルルフィ、本当に精霊術師が少なくなってるのは本当なのかい?」

『せや、精霊を見れる人も年々減っとるし。契約まで出来るお人はもっと減っとる』

「何で…?」

『保有しとる魔力マナの量が減っとるんが原因やと思う』

『確かに、契約したいと思える人間は減りましたわね…』

『アルの魔力マナは沢山ある上に、美味しいしねぇ』

『主以外の人間はどれも魔力マナ保有量が少なすぎる』



精霊達は口々にそう言い、俺は眉を寄せた。



確かに、領地内でも俺以外に精霊と契約したという人はほとんど居なかった。



魔の森周辺に昔から住んでいる人の中には先祖に森人エルフが居たということで魔力マナ保有量が俺と同じくらいのじい様なら居たし、そのじい様は土の精霊と契約していた。



『あんな、ご主人。今は魔核コアが出回っとるやろ? そのおかげで昔ほど自分の魔力マナを使わんでもようなった。せやから自分の魔力マナを増やそうとせえへんねん』

「…増やそうとしなくなったから、保有する魔力マナが減った?」

『そういうことね。貴方みたいに生まれつき保有量の多い子は、これから減る一方でしょうね』

『使わなくなった筋肉が衰えていくように』

魔力マナを保有する力も衰えていくんだよ~』



精霊達の言葉に俺は頭を抱える。

精霊術師が減るということは、精霊術自体が衰退していくということ。

精霊と対話する者がいなくなるということ。

今は彼らの姿を見ることは出来ても、言葉を交わす事が出来なくなる。

そしてこのままでは…その内、見ることも出来なくなる。



「…どう考えても、俺一人でどうにか出来る問題じゃない」

『そうやろな…このままじゃウチら精霊も人間界に居れんようなるわ』



精霊は魔力マナを糧として生きている。

大気中の魔力マナでも代用出来るが、一番は人の保有する魔力だ。

力の弱い下位精霊であれば、大気中の魔力でも十分だが、俺と契約している精霊達の様に上位の精霊には大気中の魔力では足りないのだ。

あまりそちらを摂取してしまうと下位精霊達が生きられなくなってしまう。

なので、普段上位精霊達は精霊界へと戻っている。



『ご主人だけで解決出来る問題やないと思うで』

「だよね…」



幸い、と言って良いのか俺は臨時講師として同じ年頃の子達に精霊術とは何かを教えるように王様から依頼されている。

子供達の認識を少しでも変えられればと思うが…



「まずは、この話を王様にする所からだよな」

『ここが気張りどころや、頑張ってや!』

『お手伝いが必要なら、言ってね~?』

『力になろう』

『貴方が、どうしてもというなら手伝うのもやぶさかではありませんわ』



精霊達に励まされ、俺は頷くと彼らに魔力を分け与えた。

嬉しそうに俺の魔力を受け取った彼らを精霊界へと送還して、一人天を仰いだ。



「億劫すぎる…」



この話を王様にすることによって、俺が注目される予感しか無い。

俺は静かに平穏に暮らしていたいだけなんだけどなぁ…明日には母様と妹達が来る事だし、妹達に癒してもらおう。


その為には、嫌な事はサッサと済ませるに限る!!


俺は部屋を出ると父様の事を探した。

廊下にいたメイドの人に聞くと父様は談話室にいるらしい。

お礼を言って談話室に向かうと俺の足音に気が付いたらしく父様が中から顔を出して俺を見た。



「その様子だと、精霊様達に話を聞けたんだね?」

「はい、父様に聞いてもらいたいことがありますのでお時間よろしいですか?」

「いいよ、おいで」


父様に手招きされ談話室に入ると祖母おばあちゃま伯母マリーカおばさまもいた。

三人でお茶をしていたらしくテーブルには紅茶の入ったカップに焼き菓子が置かれていた。


「アル、お帰りなさい。大変だったわねぇ」

魅了チャームを使う生徒がいたんですってね?」

「ただいま。祖母おばあちゃま伯母様マリーカおばさま


俺が挨拶をして手招きされたソファに座ると父様が促した。


「それで、精霊様は何て?」

「精霊術師が減っているのは、魔力マナの体内保有量に関わってくるそうです」


俺は先程聞いた内容を三人に伝えると三人は顔を見合わせ嘆息した。


「確かに、魔核を利用することが多くなってきている事は知っていたが、それが精霊術に関わってくるとはね…」

「確かに、昔はもっと自分達の魔力マナを使うことが多かったから保有量を増やす為に訓練を積んだものだけど…」


父様がそう言い、首を振り祖母は昔を懐かしむように言った。


「保有量を増やす訓練は学園では行なわないのでしょうか?」

「僕らが居た頃に、確か廃止されたはずだよ。訓練中の事故も少なくなかったらしいから」

「…今、その訓練を復活させることは出来るでしょうか?」

「当時の教師方が残っていればわかるだろうけど…どうだろうね」


少なくとも、父が生徒だった頃の教師の何人かはもう亡くなっているらしい。

俺は父様を見て言った。


「王様にも、お話したほうがいいですよね…?」

「そうだね、これはアル一人で解決出来るものでも無い。あの馬鹿を存分にこき使いましょう」



父様は満面の笑みを浮かべて言った。







その後ろに黒い炎が見えるのは、気のせいだよね…?









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