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81.事後なわけがない

「無理!もう今日は閉店まで出られない。私、なんか色々間違った!!なんでルカを引っ張ってこんなとこに入っちゃったんだろう!?」


「大丈夫だよ。誰も気にしてないから」


「そんなわけないじゃない!ルカは見られることに慣れてるから、そんなのん気なことが言えるのよ!」


「別に慣れてないよ?」


「嘘!昔っから注目されてる側の人でしょ?私みたいに普通の人間とは違うから、平気だなんて言えるのよ」



 調剤室からわーわーと聞こえてきたやり取りに、大人二人は顔を見合わせる。


「色気のねぇ会話だな」


「健全でいいじゃないですか」


 あきれ顔のオーウェンと、にこにこ笑う薬局長。


「そろそろ業務に支障も出ますし、何もないことがわかったので、安心して迎えに行ってみましょうか」


 そう言って調剤室の扉をノックすると、薬局長は遠慮も何もなく、ガチャリとドアをあけ放った。



 ***********



「さて、クレアさん。お話も終わったようですし、仕事に戻りましょうね」


「薬局長!!」


 笑顔の薬局長が、この時ほど救世主に見えたことはなかった。

 呼びに来てもらえた方がよっぽど外へ出やすい。


「すみません!私、ほんと自分でもなにしてるんだろって感じで……もうお客さんって帰ってます?」


「そうですね、みなさん調剤室をチラチラ見つつも、薬を受け取って帰って行かれましたよ」


 そう言いつつ、彼が私から視線をなんとなく外していることに気づいた。


「……なんですか?」


「いえ、別に。というか開けない方が良かったですかね?」


 その言葉に首をかしげていると、薬局長の背後から、調剤室を覗き込んだオーウェン様と目が合った。


「……事後?」


 は?

 その瞬間はっとして、自分の肩にかかる髪の毛が目に映る。


「ち、違います!これは別にっ……」


 慌てて白衣からヘアゴムを取り出して一つに結ぶけれど、弁解のしようがない、というか何て言っていいのかわからない。


「あ、ごめん。俺が持ってた」


 そう言ってバレッタを、彼らの前で堂々と渡してくるルカ。


「ちょ、ちょっとなんで今!?」


「え?」


 空気をまるで読もうとしないルカに、私はかーっと血が上る。

 オーウェン様がゲラゲラ笑っているのが見えて、余計にパニックになった。


「もうやだ!」


 ルカの手からバレッタをひったくるように掴むと、男ども三人を押し出して、今度は一人で調剤室に立てこもるのだった。




 ***********




「あ。怒らせちゃった」


「自業自得だろ」


「オーウェン様もからかいすぎでしたよ」


 じろりと隣の魔術師をにらみつけるフランツ。

 ルカはルカで、考え込むようにあごに手をあてる。 


「でも、髪降ろしている方がかわいいなと思ってつい……」


 その言葉にオーウェンが顔を引きつらせ、フランツが深ーいため息をつく。


「ルカ君。黒ルカ君の時も思ったんですけど、あなた両極端すぎるんですよ。いいですか?そう簡単に女性の髪に触れてはいけません」


「……髪の毛くらいなら良いかなって……」


「それ、一番エロい気がするぞ」


「そんなつもり全然なかったんですけど……まずかったかな」


 オーウェンの言葉に、初めて気づいたというように口元に手を当てるルカ。


「なんにせよ、行動が幼馴染ってのを越えてるだろ。それともお前ら、昔っからそういう距離感なわけ?」


 呆れたように言うオーウェンに、ルカは大真面目な顔をする。


「全然そんなことないです。クレアは、昔っから俺のことを『安心できる幼馴染』としか見てくれてないから、変に警戒されないようにしてました。今のこの姿だって、子供の頃のイメージのままで『弟扱い』される始末ですし」


「意外と不憫なんだな、お前」

「意外とクレアさんが手ごわいのでは?」


 それぞれの思いを口にする二人に、ルカは不満そうに肩をすくめる。



「その国宝級の容姿を生かせば、もっと思い通りにあれこれできる人生送れるんじゃねえか?あいつにこだわらなくてもさ」


 オーウェンの言葉に、一気に不機嫌な顔になるルカ。


「思い通りになったことなんて一度もないです。クレア以外どうでもいいんで」


「うわ、重い重い。一途な男って重すぎて怖い」


 シッシッと追い払うように手を振って、顔をしかめるオーウェン。


「ルカ君。とりあえず魔力を測定させてください。これは異常事態ですよ」


 フランツの言葉に、オーウェンも頬杖をつきながら頷いた。


「新月じゃないもんな。五日もフライングしてるんだし」


「そうですよね。わかりました。ここで数値が落ち着いていたら、接近禁止を解いてもらえますか?」


「どんな結果であれ、引き続き接近禁止です」


「……この姿なら大丈夫だと思うんですけど、ダメですか?」


「何があるかわからないでしょう? 金ルカ君はクレアさんの前だと、何をしでかすかわからないですからねぇ」


「……そうかもしれません」


「ははっ!手の早い男は嫌がられるしな~」


「心外ですね。俺は手なんて出してませんよ!出せるわけない」


 むっとしてして言い返すルカを、フランツが「まぁまぁ」となだめる。


「すぐに終わらせますから、測定しに行きましょう」


 フランツに背中を押され、薬局長室へと連れていかれるルカだった。



 ****************



 再び調剤室に立てこもった私は、ふかーいため息をついた。


「はぁーーーーー。もう無理」


 思わず顔を両手で覆ってしまう。


 あの可愛い幼馴染が大きくなったなぁという感覚でいたら、思いっきり「大人の男」になっていた。


 人との関わりが久しぶりで距離感がバグってる、と前回は思おうとしていたけれど、さすがに今回は無理がある。


 思いっきりストレートに想いをぶつけてきた。

 あれは、どう考えたって私への好意だ。


 そうでなければ、最悪の女たらしに成長してしまったということになる。


「……どういう態度で臨むのが正解なの?」


 これ、全部を真正面から受けてたら身が持たない。


 自分の身を守るためにも、適度な距離感というものを訴えなければ!

 呪いの反動もあると思うし、私がうまく距離をとらないと。


「そう言えば、なんで金髪に戻ったんだろう?」


 今すぐ黒髪になるってこともありえるのかな?

 だとしたら、ちょっと申し訳ない気もする。


 月に一度のタイミングの金髪ルカに怒ってしまった。


 どうしようかな。

 ちゃんと謝ったほうがいいかな?


 外の様子を伺おうかと思っていると、トントンと調剤室がノックされた。

 びくっと体が跳ねる。


 薬局長かもしれない。

 というか、そろそろ薬作りたいよね?

 早くどきなさいって言われちゃうだろうなぁ。


 仕方ない。外に出よう。

 そう心に決めた時だった。


「クレア」


 ドア越しに聞こえたのはルカの声だった。


「困らせてごめん。俺、今日はもう帰る」

「え……」


 なぜか『帰る』という言葉に胸がずきりとする。


「明日、もしも黒髪に戻ってたら、俺のこと見ないふりしてくれる?たぶん恥ずかしすぎて死にたくなってると思うから」


「……うん」


「でも、もしも明日も金髪のままだったら、見ないふりしないでほしいんだ。クレアを困らせるようなことはしないから」


「……うん。わかった」


 ドア越しにほっとしたようなため息が聞こえてくる。

 なんだか申し訳なくて、私は慌てて立ち上がるとドア越しに声をかけた。


「ルカ。怒ってごめんね」


「クレアは悪くないから謝る必要ないよ。それじゃあまたね」


 気配とともに靴音が遠ざかっていくのが分かった。


「はぁ~~」


 ドアを背に、ため息とともにずるずると座りこむ。


 なんだかもう訳が分からな過ぎて、頭も感情もめちゃくちゃだ。

 両手で顔を押さえた私は、しばらく動くことができなかった。



お読みいただきありがとうございます。

全然事後じゃないので誤解なきよう(笑)


もう少し隔日更新で進みますが、そろそろ毎日更新に戻れそうな予感がしてます。

引き続き見に来てくださると嬉しいです。

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