81.事後なわけがない
「無理!もう今日は閉店まで出られない。私、なんか色々間違った!!なんでルカを引っ張ってこんなとこに入っちゃったんだろう!?」
「大丈夫だよ。誰も気にしてないから」
「そんなわけないじゃない!ルカは見られることに慣れてるから、そんなのん気なことが言えるのよ!」
「別に慣れてないよ?」
「嘘!昔っから注目されてる側の人でしょ?私みたいに普通の人間とは違うから、平気だなんて言えるのよ」
調剤室からわーわーと聞こえてきたやり取りに、大人二人は顔を見合わせる。
「色気のねぇ会話だな」
「健全でいいじゃないですか」
あきれ顔のオーウェンと、にこにこ笑う薬局長。
「そろそろ業務に支障も出ますし、何もないことがわかったので、安心して迎えに行ってみましょうか」
そう言って調剤室の扉をノックすると、薬局長は遠慮も何もなく、ガチャリとドアをあけ放った。
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「さて、クレアさん。お話も終わったようですし、仕事に戻りましょうね」
「薬局長!!」
笑顔の薬局長が、この時ほど救世主に見えたことはなかった。
呼びに来てもらえた方がよっぽど外へ出やすい。
「すみません!私、ほんと自分でもなにしてるんだろって感じで……もうお客さんって帰ってます?」
「そうですね、みなさん調剤室をチラチラ見つつも、薬を受け取って帰って行かれましたよ」
そう言いつつ、彼が私から視線をなんとなく外していることに気づいた。
「……なんですか?」
「いえ、別に。というか開けない方が良かったですかね?」
その言葉に首をかしげていると、薬局長の背後から、調剤室を覗き込んだオーウェン様と目が合った。
「……事後?」
は?
その瞬間はっとして、自分の肩にかかる髪の毛が目に映る。
「ち、違います!これは別にっ……」
慌てて白衣からヘアゴムを取り出して一つに結ぶけれど、弁解のしようがない、というか何て言っていいのかわからない。
「あ、ごめん。俺が持ってた」
そう言ってバレッタを、彼らの前で堂々と渡してくるルカ。
「ちょ、ちょっとなんで今!?」
「え?」
空気をまるで読もうとしないルカに、私はかーっと血が上る。
オーウェン様がゲラゲラ笑っているのが見えて、余計にパニックになった。
「もうやだ!」
ルカの手からバレッタをひったくるように掴むと、男ども三人を押し出して、今度は一人で調剤室に立てこもるのだった。
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「あ。怒らせちゃった」
「自業自得だろ」
「オーウェン様もからかいすぎでしたよ」
じろりと隣の魔術師をにらみつけるフランツ。
ルカはルカで、考え込むようにあごに手をあてる。
「でも、髪降ろしている方がかわいいなと思ってつい……」
その言葉にオーウェンが顔を引きつらせ、フランツが深ーいため息をつく。
「ルカ君。黒ルカ君の時も思ったんですけど、あなた両極端すぎるんですよ。いいですか?そう簡単に女性の髪に触れてはいけません」
「……髪の毛くらいなら良いかなって……」
「それ、一番エロい気がするぞ」
「そんなつもり全然なかったんですけど……まずかったかな」
オーウェンの言葉に、初めて気づいたというように口元に手を当てるルカ。
「なんにせよ、行動が幼馴染ってのを越えてるだろ。それともお前ら、昔っからそういう距離感なわけ?」
呆れたように言うオーウェンに、ルカは大真面目な顔をする。
「全然そんなことないです。クレアは、昔っから俺のことを『安心できる幼馴染』としか見てくれてないから、変に警戒されないようにしてました。今のこの姿だって、子供の頃のイメージのままで『弟扱い』される始末ですし」
「意外と不憫なんだな、お前」
「意外とクレアさんが手ごわいのでは?」
それぞれの思いを口にする二人に、ルカは不満そうに肩をすくめる。
「その国宝級の容姿を生かせば、もっと思い通りにあれこれできる人生送れるんじゃねえか?あいつにこだわらなくてもさ」
オーウェンの言葉に、一気に不機嫌な顔になるルカ。
「思い通りになったことなんて一度もないです。クレア以外どうでもいいんで」
「うわ、重い重い。一途な男って重すぎて怖い」
シッシッと追い払うように手を振って、顔をしかめるオーウェン。
「ルカ君。とりあえず魔力を測定させてください。これは異常事態ですよ」
フランツの言葉に、オーウェンも頬杖をつきながら頷いた。
「新月じゃないもんな。五日もフライングしてるんだし」
「そうですよね。わかりました。ここで数値が落ち着いていたら、接近禁止を解いてもらえますか?」
「どんな結果であれ、引き続き接近禁止です」
「……この姿なら大丈夫だと思うんですけど、ダメですか?」
「何があるかわからないでしょう? 金ルカ君はクレアさんの前だと、何をしでかすかわからないですからねぇ」
「……そうかもしれません」
「ははっ!手の早い男は嫌がられるしな~」
「心外ですね。俺は手なんて出してませんよ!出せるわけない」
むっとしてして言い返すルカを、フランツが「まぁまぁ」となだめる。
「すぐに終わらせますから、測定しに行きましょう」
フランツに背中を押され、薬局長室へと連れていかれるルカだった。
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再び調剤室に立てこもった私は、ふかーいため息をついた。
「はぁーーーーー。もう無理」
思わず顔を両手で覆ってしまう。
あの可愛い幼馴染が大きくなったなぁという感覚でいたら、思いっきり「大人の男」になっていた。
人との関わりが久しぶりで距離感がバグってる、と前回は思おうとしていたけれど、さすがに今回は無理がある。
思いっきりストレートに想いをぶつけてきた。
あれは、どう考えたって私への好意だ。
そうでなければ、最悪の女たらしに成長してしまったということになる。
「……どういう態度で臨むのが正解なの?」
これ、全部を真正面から受けてたら身が持たない。
自分の身を守るためにも、適度な距離感というものを訴えなければ!
呪いの反動もあると思うし、私がうまく距離をとらないと。
「そう言えば、なんで金髪に戻ったんだろう?」
今すぐ黒髪になるってこともありえるのかな?
だとしたら、ちょっと申し訳ない気もする。
月に一度のタイミングの金髪ルカに怒ってしまった。
どうしようかな。
ちゃんと謝ったほうがいいかな?
外の様子を伺おうかと思っていると、トントンと調剤室がノックされた。
びくっと体が跳ねる。
薬局長かもしれない。
というか、そろそろ薬作りたいよね?
早くどきなさいって言われちゃうだろうなぁ。
仕方ない。外に出よう。
そう心に決めた時だった。
「クレア」
ドア越しに聞こえたのはルカの声だった。
「困らせてごめん。俺、今日はもう帰る」
「え……」
なぜか『帰る』という言葉に胸がずきりとする。
「明日、もしも黒髪に戻ってたら、俺のこと見ないふりしてくれる?たぶん恥ずかしすぎて死にたくなってると思うから」
「……うん」
「でも、もしも明日も金髪のままだったら、見ないふりしないでほしいんだ。クレアを困らせるようなことはしないから」
「……うん。わかった」
ドア越しにほっとしたようなため息が聞こえてくる。
なんだか申し訳なくて、私は慌てて立ち上がるとドア越しに声をかけた。
「ルカ。怒ってごめんね」
「クレアは悪くないから謝る必要ないよ。それじゃあまたね」
気配とともに靴音が遠ざかっていくのが分かった。
「はぁ~~」
ドアを背に、ため息とともにずるずると座りこむ。
なんだかもう訳が分からな過ぎて、頭も感情もめちゃくちゃだ。
両手で顔を押さえた私は、しばらく動くことができなかった。
お読みいただきありがとうございます。
全然事後じゃないので誤解なきよう(笑)
もう少し隔日更新で進みますが、そろそろ毎日更新に戻れそうな予感がしてます。
引き続き見に来てくださると嬉しいです。




