表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/87

79.思わぬ来訪者

 花まつりに行ったあの日から、三日が過ぎた。


 あれから、ルカには全然会わない。

 たぶん今も続く花まつりのために、庭園やらあちこちの見回りをしているのだろう。


 私はというと、相変わらず調剤をし、カウンターで接客をし、在庫の管理などの仕事をしていた。

 その合間には、鏡で魔力の扱い方を練習するのも日課になっている。


 薬局の開店準備をしていると、薬局長がやってきた。


「クレアさん、最近ルカ君に会ってませんよね?」

「会ってないですけど……なにかありました?」


 ほんとは三日前に誘拐(?)されました。

「接近禁止令」を言い渡されている身としては、秘密にしておかなければ!


「様子がいよいよおかしいです」

「いよいよ?」


 すでに、だいぶおかしかった気がするんだけど。


「あなたの薬、本当にちゃんとポーションなんですよね? 強力な鎮静剤とか入れてません?」


「なんですかそれ? なにも入れてません!ちゃんとポーションですよ!?」


 なんで、いつも変なものを入れてると疑われるのかしら?


「ですよねぇ……。どうしようかなぁ」


 本当に珍しいことに、薬局長が悩んでいる。


「ルカ君、この三日間、怖いくらい大人しいんです」

「おとなしい?」


 思わぬ言葉に顔をしかめてしまう。


「あの満月を過ぎてからというもの、隙を見て脱走したり、あなたに執着するような言動をちらちら見せてましたよね? 薬が効きすぎてるんだなと思っていたんですけど、それがぱたりとなくなったんです。思いっきり仕事モードみたいで、寝る間も惜しんで働いてるらしいんですよね」


 仕事に打ち込むことは、別に悪いことじゃないんですけど……。

 そう言いながらも、困ったように考え込む薬局長。


「以前のルカ君に輪をかけて冷静で、必要最低限のやりとりしかしてくれません。……今度は一体なにがあったんでしょう?」


 三日前と言えば、庭園でルカと会った日だ。

 自分の行動を思いっきり反省していたし、もうあんなことしないようにって仕事に打ち込んでいるのかも?(元は真面目なタイプだし)


 冷や汗をかく私に気づく様子もなく、薬局長は続けた。


「数値はとても低めで落ち着いているので、もう少し様子を見てみますね。新月まで、まだ五日くらいあります。新月の金髪ルカ君に様子を聞いてみれば、何かわかるかもしれません。金髪ルカ君の方が、素直に気持ちを話してくれますからね」


「そうですね……」


 素直すぎて逆に怖いんですけど、と思っていると薬局長と目が合った。


「あ、もしかして素直すぎて大変だなって思ってます?」


 意味深な笑みを浮かべる薬局長に、私は苦笑いする。


「まぁ、一日だけですし普段我慢してる分、甘やかしてあげてもいいんじゃないですか?」


 答えに困る私を見て、薬局長はにこりと微笑むと「在庫管理おねがいしますねー」と行ってしまった。


 そうか、もうすぐ新月なんだ。

 一晩だけとはいえ、あの金髪ルカがまたやってくる……。


 見た目は子どもの頃と同じだから、懐かしさもあって安心できるんだけど、呪いのせいか距離感がちょっとバグってるんだよね。(最近の黒髪ルカもだいぶ心臓に悪いけど)


 ルカ本人もきっと大変だろうけど、私も覚悟しとかないと。

 そんなことをなんとなく思っていた。


 まさかこの後すぐに、その本人が乗り込んでくるなんて思いもせず……。





 その時、私はカウンターで接客をしていた。


 薬局長は、いつものようにスツールに座るオーウェン様と話をしていて、本当に『いつも通りの薬局』という感じの平和な日常風景だった。


 しかし、その平和が突然幕を下ろした。


 薬局のドアから一人の青年が入ってきたのだ。

 彼が入ってきた瞬間、店内にいたすべての人間が惹きつけられるように彼を見る。


 ざわつく店内の様子など気にした様子もなく、金髪に緑の瞳の彼は、すらりとのびた長い手足ですいすいとカウンターまでやってきた。


 ちょうど接客を終えた私は、注文書にチェックを入れた所で、彼がカウンターにやってきたことに気づいて、慌てて顔を上げた。


「すみません、お待たせしま……」


 言葉が詰まってしまった。


「……え」


「お疲れ様。クレア」


 目の前の状況がまるで信じられず、私は固まる。


 だって目の前にいたのは、にこにこと微笑む金髪のルカだったからだ。


「え……?」


 私は思わず、ちらりと隣にいる大人二人を見る。

 彼らも目を丸くしているところを見ると、この状況は完全に予想外、という感じだ。


「る、ルカ?……なんで?」


「会いに来ちゃった」


「いや、そうじゃなくて……」


 なんで金髪なのってことなんだけど。


 驚きもあるけれど、幼いころのあのイメージのままニコニコしている彼を見ると、なんとなく嬉しくなる。


「えーと、元気?」

「元気だよ。ってなにその質問」


 なぜか変な問いをしてしまい、ルカにくすくすと笑われた。


 あ、ちょっとほんと待って。

 それ、完全に子どもの頃と同じ笑い方じゃない。


 昼間に見る金髪ルカは、前回の新月の夜とはだいぶ印象が違う。


 あの頃の可愛い小さなルカが、大人になって目の前にやってきた、という感じがものすごくしてしまい、なんだか急に緊張してきた。


 前の新月に会った金髪ルカは、本当に久しぶりだったし、夜だったし、しかも二人きりだったから、変な距離感になったのかもしれない。(きっとそうだ)


 どうしよう、何を話せばいいの?

 そわそわする私を見て、ルカは首を傾げた。


「どうしたの?」

「う、ううん。別に」


 そう答えた私は、薬局がざわついていることに気づいた。


 めちゃくちゃ目立ってる……!!

 どうしよう、また変な噂とか立てられちゃうかも。


 ちらりと見ると、メイド服を着た女性が数名いることに気づいた。


 メイド界隈……!!黙ってるわけがない!




「え、えーとあの……」


 どうしようかと思っていると、薬局長が私の隣にやってきた。


「ルカ君? あなたその姿……どういうことですか?」


「わかりません。起きたらこうでした。あ、ちなみに今日は休みです。抜け出したりしてませんよ。ところで、どうしてオーウェン様がここにいるんです? 入り浸ってるって噂は本当だったんですね?」


 そう言ってにこりと微笑むルカだったけれど、その綺麗な笑顔がなぜか怖い。


「否定はしねぇけど、そんなことよりお前だよ。新月はまだだろ?だいぶフライングしてねぇか?」


「そうなんですよね。なんでだろう?体は楽だから全然いいんですけど」


「薬が効きすぎた結果、ですかねぇ?」


 首をひねる三人。

 とても珍しい状況だわ。

 

 するとパッとルカが嬉しそうな顔をする。


「この姿なら、別に近づいてもいいですよね?」


「右手、まだうっすら黒いけどな」


 ルカの右手をちらりと見たオーウェン様。

 しかし、ルカは全く気にする様子がない。


「問題ないですよ。全然抑えられるんで。手袋も二重だし」


「触る気満々じゃねーか」


「え、触りませんよ?なるべくね」


 穏やかに微笑むルカに薬局長は苦笑し、オーウェン様は心底呆れた顔をする。


 すごく堂々と話してるけど、これ私のこと言ってるんじゃない?

 だとしたら気まずくないの?

 私は気まずいんですけど。


 目を泳がせる私に気づいたらしく、ルカがにこりと微笑んだ。


「突然ごめんね?」


「え、あ、うん、突然すぎてびっくりしてるんだけど……」


 そう言った私に、すぐ隣にいた効率第一の先輩が言った。


「クレアさん……どちら様?」


 眉をひそめる彼女は、仕事が滞ってしまうと思っているのかもしれない。

 どう説明しようかと考えたけれど、この会話を薬局内の全員が聞いているっぽいぞ?

 そう思って、慌てすぎた私が言った言葉はこうだった。


「え、あ。あの。その……弟?みたいなもので……」


 その瞬間、目の前のルカがカチリと固まった。

 ……なんかまずかったかしら……。


「おー……地雷踏んだな、クレアちゃん」

「踏み抜きましたね……」


 苦笑する大人二人がちらりと見えた。

 その言葉に不安を覚えた瞬間、ルカがまっすぐに私を見た。

 緑色の瞳は『心底傷つきました』という感情を隠しもしていない。 


「クレア。……『弟』ってなに?」


「え、あ。えーと……」


 静まり返った薬局に、ルカの少し低くて、どこまでもまっすぐな声が響き渡る。

 

「俺、ずっとクレアに会いたくて、力が弱まって、やっと普通の距離で話ができると思ってここに来たのに……。俺、弟以上にはしてもらえないの?」


 ちょ、ちょっと待って!ほんとに!!

 それを今この大混雑している薬局のカウンターで言う!?


 しかもそんな大真面目な顔で!

 そんな綺麗な顔で、深く傷ついたように言うの!?


 周りのお客さん達(特にメイドさん)が「え、なに?」「弟?」「血の繋がってるやつ?」「腹違い?萌える~!!」と、こそこそ言っているのが思いっきり聞こえてくる。


 あぁ、もうこのままはどう考えてもまずい。

 これ以上変な噂の中心人物でいたくないし、何よりも目の前のルカは何を言いだすかわからない。

 真面目過ぎる上に、まったく周りを気にせずにストレートに感情をぶつけてくるのだ。


 「あの!ちょっとこっち来て!!」


 恥ずかしさと焦りでどうにかなりそうだった私は、ずかずかとルカの前に出ると、彼の左腕をがしりとひっつかみ、そのまま調剤室へとひっぱっていく。


 背後で「お姉さんも大変だなぁ」と肩を揺らして笑っているオーウェン様に気づいた。

 

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう?


 今現在の私の行動も、注目されまくっていることに気づくのは、後になってからである。

いつもありがとうございます。

ここからの更新は二日に一度の隔日更新となります。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ