76.恋心をばらすハンドサイン
お城の前に設けられた半円の特別ステージ。
それを取り囲むように多くの人々が押し寄せていた。
「すごい人だね!」
「みんな、シャロン様を見たいもの!それに、花まつりの開会式ってすごく綺麗なんだよ!最後に花びらがバーって降ってくるの!!」
ユイちゃんが教えてくれた。
彼女のおかげで、ステージにだいぶ近い場所を確保できたけれど、正直ここまで人が多いとは思っていなかった。
そのためか、警備もすごく多い。
あちこちに騎士団員が配置されていた。
「去年、このステージに登ろうとした人がいたの。シャロン様に近づこうとしたらしいんだけど、すぐに取り押さえられたよー。たぶん、そのせいで今年は警備が厚いんだろうね」
「そうなんだ……」
ユイちゃんの説明を聞きつつも、私はルカがいるんじゃないかとドキドキ(ヒヤヒヤ?)していた。
けれど、彼の姿はないようで残念な反面、なぜかほっとしてしまう。
するとその時、正午の鐘の音が響き渡る。
お城の屋根にいた鳥が一斉に羽ばたき、人々が歓声を上げた。
そして、白いドレスに身を包んだシャロン様が姿を現した。
その瞬間、ざわついていた会場が一気に静寂に包まれた。
美しい銀髪に白と青の花冠を乗せ、ひらりとドレスのすそを風に揺らして歩くシャロン様は、まるで花の妖精のようだった。
周りの人々のため息にも似た感嘆の声が聞こえてくる。
「……麗しすぎる……」
ユイちゃんのつぶやきに力いっぱい頷いた。
神聖というか神々しいというか、本当に圧倒される美しさだった。
彼女は普段からもちろん美しいのだけれど、この場にいるシャロン様はなにか次元が違うように思う。
尊すぎて薬局長の白衣に触れないとか、推しを奉れ、とかそんなことを言っていた人だとは、とても思えない。
「今年の花冠はシンプルですごく素敵!シャロン様の美貌が引き立つね~」
色味かぶらなくてよかったね、と笑うユイちゃんに私はうんうん頷いた。
シャロン様から目が離せずにいると、ユイちゃんが「うわっ!」と声を上げた。
「ねぇクレアちゃん!やばいよ!シャロン様のすぐ隣にいる人、ルカ様だ!!」
「えっ!?」
びくっと心臓が飛び跳ねた。
見ると、確かに彼女の横には騎士団員がいた。
ステージの端に控えているのは、まぎれもなく黒髪のルカだった。
「警備してるんだね。去年の事件があったとはいえ、英雄をあそこに立たせるのって相当だよね!」
キリっとした表情で微動だにしない彼。
視線だけは動いているので、どうやら不審者がいないか見ているらしい。
「シャロン様とルカ様が並ぶなんてすごくない!?美形二人が並ぶとありがたみが倍になるよー!」
目の保養過ぎる~!とワクワクするユイちゃん。
彼女につられて「確かになんだかありがたみがあるなぁ」と思っていたら、
ユイちゃんはすぐに次の爆弾を落とした。
「っていうかあれ見て!!ステージの後ろ!!お城の渡り廊下!!
あれ、オーウェン様じゃない!?」
見ると、ステージと観衆全てを見渡せる場所に、オーウェン様が立っていた。
「すごー!!警備が手厚すぎるね!今年は当たり年だよクレアちゃん!」
私の肩をぽんぽん叩いて大興奮のユイちゃんに、私は「そうだね」と頷く。
人目を惹く人たちであることは間違いない。
開会のセレモニーそっちのけなのは、私達だけではなかったようで、あちこちで「シャロン様……!」とか「左のあの黒髪の人、やばくない!?」などのひそひそ声が聞こえてくる。
いつもと確かに違う知人たちの様子に、私もドキドキしながら彼らを見守っていた。
普段の様子を知っているだけに、『みんなプロなのね!』と今さらながら当たり前のことを思ってしまう。
……ルカ、何日かぶりに見たけど元気そうだな。
無理やり現場に戻された割には、シャロン様の護衛だなんてだいぶ重要な任務なんじゃないかしら?
そんなことを思いつつルカを見ていた時だった。
ばちっと黒い瞳と目が合った。
お互いに五秒くらい固まる。
わ!?これ、目が合ってるよね?私って気づいてる、のかな?
どうしよう、手を振ってもいいのかな?
一瞬でそんな思いが頭をよぎる。
すると、次の瞬間ぱっとルカが顔を背けた。
え。
そこまで思いっきり背ける?
仕事中知り合いに会ってしまったという状況が、気まずすぎる気持ちはわかるけど。
ちょっとショックを受けていると、護衛中にもかかわらず口元を手で覆っているルカの姿が目に入る。
……あ。照れてます?
まさかそんな、と思いつつ数日前のおかしなルカを思い出し、充分あり得るなぁとこちらまで恥ずかしくなってしまった。
それと同時に、なんだか強い視線のような、居心地の悪いものを感じ、思わず顔を上げた。
すると、ステージの後ろにいるオーウェン様がふっと視界に入った。
彼は私をじっと見つめて、なにかを訴えようとしていた。
「?」
首をかしげる私に、オーウェン様はすっと右手をあげて、左手でそれを指さした。
「右手?」
なんですか?
右手の近くで、左手をひらひらとさせるオーウェン様。
「??」
わかりません。
次にあごで、ステージの端にいる、耳が赤いルカを指し示した。
「ルカ?右手?ひらひら?」
全く分からない私。
オーウェン様は、最後に私を指さすとニヤリと笑う。
その顔を見た瞬間、彼の言わんとしていることがわかってしまった。
『お前を見た瞬間、右手の魔力爆上がり』
意地悪そうに笑うオーウェン様に、私は思わず両手で顔を覆う。
「そんなのいちいち教えないでくださいよ……!」
思わずつぶやいた私。
「クレアちゃん?どうかした?」
ユイちゃんが不思議そうに私の顔を覗き込むのだった。




