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75.ユイちゃん。その噂、全部嘘だよ。

 花まつりというだけあって、城下町は色とりどりの生花で飾られとても賑わっていた。

 花の香りがふんわりと漂っている。

 出店がたくさん並び、人々は皆楽しそうに歩いていた。


「すごいね!こんなに人がたくさん来るんだね!」


「これ、お昼頃からもっと来るよ。みんなシャロン様が見たいから!」


「へぇ!すごいね!!」


 あのシャロン様が一体どんな風に人前に出てくるんだろう?

 私は推し活バージョンと、満月お仕事バージョンしか見たことがない。



 出店はお花屋さん、食べ物屋さんだけでなく、おもちゃ屋さん、くじ引き屋さんなど色々ある。

 また、あちこちにパフォーマーがいてお祭りを盛り上げていた。


「お花屋さんたくさん出てるね!花束だけじゃなくて、花冠も売ってる!」


 よく見ると、あちこちのお花屋さんで花冠がたくさん売られていた。

 そういえば、すれ違う女の子たちは花冠つけたり、髪にお花を挿してる子が多いなぁ。


「花まつりだからね~。この花冠ね、あとでシャロン様も身に着けてセレモニーに登場するんだけど、彼女が使ったのが爆売れするんだよ!シャロンモデル、とか呼ばれちゃうの」


「そうなんだぁ!今年はどれ使うんだろうね?」


「去年はすごくカラフルなカワイイ花冠だったよ。あの後、街を歩く女の子たちみんな同じの頭に載せてた」


「すごいねー!でも、私はちょっと恥ずかしいかも。シャロン様と同じのは荷が重いというか、素材が違うだろってツッコまれそう」


「あはは!気持ちはわかる!クレアちゃん、そんな私達みたいな女子はこっちを買うんだよ」


 彼女はそう言って、私の服の袖をちょいちょいと引っ張ると、お店に並ぶ花を指さした。


「こういう花を頭にちょんってつけるの。可愛いでしょ?」


「え、これって普通のお花でしょ?」


「それが特殊な加工がしてあってね、ずーっとしおれないんだよ。お祭りでこうやって頭にさすでしょ?帰ったらおうちに飾っておけるの」


 黄色い花を頭にさして見せるユイちゃん。


「へぇ~いいね!ユイちゃん、それすごく可愛い!」

「ありがと。クレアちゃん、あなたのヘアスタイルはお花をつけることで完成します。そうやって私が作りました」


 突然そんなことを言って、ユイちゃんは薄ピンクの花を一つ手に取ると、そっと私の髪のさす。


「ほらー!!もう絶対これだって決めてたの!!私の見立て通りだよー!!」


 ユイちゃんはお店の手鏡を私の前にぐっと差し出す。


「わ~すごい!一気に華やかになったね。っていうかユイちゃん、すごくない?メイドさんだからってこんなにも上手にできるものなの!?」


「メイドになれなかったら、美容師になろうと思ってたの」


「……すごすぎるよ」


 私たちは花飾りを買い、それを身に着けた。

 それだけで一気に気持ちが高まり、お祭りモードへ突入する。


「お花に関連して、変わったお店がいっぱい出るんだよ。ほら、種屋さんとか、植木屋さんもあるでしょ?お祭りに植木とかすごくない?」


「もしかして薬草屋さんとかもあるかなぁ?」


「クレアちゃん職業病~!でもあるかもね!これだけいろんなのがあるから。ほら、昆虫屋さんとかもあるよ!」


「えー、すごい。なにこの虫!寒くなると仮死状態になりますだって」


「リアディスはそこまで寒くなることないけどねぇ」


 たわいもない話をしながら、出店を見て歩く私達。

 しばらく歩いていくと、美味しそうなアイス屋さんを見つけた。


「ねぇ、クレアちゃん。アイス食べようよー!」

「食べる食べる!」


 ベンチに座った私たちは、アイスをつつきながら人通りを眺める。


 なんか平和だなぁ。

 少し前まで命がけであれこれしてたのが嘘みたい。


 こんな日常があったなんて、忘れてた気がする。

 青い空を見上げながら、幸せを噛みしめていたけれど、ふと気づいた。


 呪いのない私ですらこう思うんだから、呪いを背負ったルカの心労はきっと想像を絶するものがあるんだろう。


 早く日常に戻らせてあげたいな。

 そんなことを考えていたら、ユイちゃんが言った。


「ねークレアちゃん。私ちょっと聞きたいことがあるんだよねぇ」

「え、なに?」


 何の気なしに答えたけれど、ユイちゃんのワクワクした瞳を見た瞬間「あ、これたぶんなんか面倒なやつだ」と直感した。


「オーウェン様を誘って、二人でどこかへ消えたって噂。あれホント?」


 やっぱりかーーー。


 メイド界隈に身を置くユイちゃんが、これを確認しないわけがない。


「ほんとではないよ。ただ仕事の話をしてただけなんだけど……」


「そうなの?でも一緒にどこかへ出てったんでしょ?」


「うーん、そうなんだけど、でも別に全然そういうのじゃなくてね」


 首をかしげるユイちゃんに、上手く説明ができない。

 ルカの呪いのことなんて言えるわけないし。


「オーウェン様は、私のことを『夏休みの観察日記を付ける感覚』でしか見てないし」


「……なにそれ」


「昆虫とか朝顔とか、そんな風に思われてるんだと思う」


「……クレアちゃんの例えってけっこう独特だねぇ」


 そう言って笑うユイちゃん。

「バラとカバ」という例えを出した自分の母を思い出す。

 私、母に似たのかもしれない。



「でもね、もう一つオーウェン様との最新噂話を掴んでるんだけど」


「最新噂話?」


「うん、薬局でクレアちゃんに突然襲い掛かったオーウェン様を、ルカ様がやっつけた、みたいな話」


「何がどうなってそうなるの!?」


 真面目に言うユイちゃんに、私は大声で突っ込んだ。


「ありえないでしょ!そんなの」

「えー、でもなんか見た子がいるって……」

「たぶんものすごい見間違いじゃない?」


 ……耳打ちはされたけど、あれって襲われるという見方になるわけ?

 しかもルカがやっつけるってどういう話???


「ルカ様ファンが歓喜してた。オーウェン様に立ち向かえるなんてすごいって」

「……そうなんだ」


 オーウェン様には、割とルカが噛みついてるイメージがなぜかあるんだけど……。


「あと、オーウェン様ファンが泣いてたんだよね」


「申し訳ない。全部嘘なので安心してください。オーウェン様はそんなに悪い人ではないよ」


「いや、そうじゃなくて、『私も襲われたい』って言ってた」


「……それはもう、何と言っていいのか……でもオーウェン様はそんなことしないと思うよ」


 有名人も大変だなぁ。

 だからこそ、噂話なんて気にしないのかもしれない。

 確かにこれだけ尾ひれのついた噂話に、振り回されてるのも時間の無駄だわ。


 溶けかけたアイスを食べながら、私はのんびりとそんなことを思っていた。


 この噂話に登場する人たちが、この後私達の目の前に登場することなど思いもせずに。

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