67. 満月の夜の救護室
夜も更け、静まり返る薬局内。
私は一人調剤室で、もくもくとポーションを作っていた。
オーウェン様から借りた魔道具で、魔力の扱いを特訓してきたけれど、作っている私本人としては、効果が出ているのか全然わからない。
それでも満月の力を借り、私にできる最高の薬を作っていると信じて、丁寧に取り組むしかなかった。
10箱分(100本)のポーションが出来上がったところで、私は一度大きく伸びをした。
「あーーー。疲れた!」
魔力というよりも、集中力の問題かもしれない。
ふと窓の外に明るい満月が浮かんでいるのが見えた。
ルカ、大丈夫だよね?
白く明るく輝く満月が、私には頼もしく見えたのだけれど、それと同時に不安にもなる。
ルカにとっては脅威でしかないのだ。
「……ダメだ。私がここで悩んでいても仕方ないもん」
ルカを信じるしかない。
私はおくすりラムネを一つ口に入れると、作業台へ向かった。
その時だった。
騎士団付きの看護師さんが、調剤室に飛び込んできた。
「すみません、今作ったポーション持ってきてもらえますか!?」
案内された医務室へ駆け込むと、そこは思ったよりも静かだった。
「ポーション、とりあえず一箱持ってきました……!」
息を切らせて箱を見せると、薬局長が驚いたように私を見た。
「ありがとうございます。……手で持ってきたんですか?重かったでしょう」
薬局長は私から箱をひょいと持っていくと、すぐそばの机に置いた。
「なんか慌てすぎちゃって……ルカは大丈夫ですか?」
ベッドの方へ視線を向けると、そこにはシャロン様と騎士団付きの医師、そしてオーウェン様もいた。
「えぇ、無事ですよ。ちゃんとオーウェン様が連れ帰ってきてくれました。少々強引な方法だったので、一喝したところです」
「え」
「いや、だって仕方ねぇだろ。あのままここに運ぶなんて不可能だったんだからさ。お前ら、戦場を見てないからそんなこと言えるんだぜ?」
「あなたの判断は信じてますけどね、暴走気味の呪いを内側に無理やり閉じ込めて連れ帰るなんて、誰も思わないじゃないですか!」
「だから、危なくない範囲を見極めてるっての」
彼らのやりとりをよそに、私はベッドに近づく。
聖水の空き瓶を片づけていたシャロン様が私を見た。
「用意しておいたポーションを飲ませて、聖水の処置もしました。
少しは落ち着いたみたいですわね」
ベッドに横たわるルカを見る。
目を閉じて静かに眠っているようだった。
相変わらずまつ毛が長い、とか思ってしまうのは不謹慎かもしれないけど……。
右腕の肘から下は完全に布(おそらくシャロン様の力のこもったもの)でぐるぐる巻きにされていた。
火傷や切り傷などはあちこちにあったけれど、大きなけがはないようだった。
「骨折もないし、軽いやけどと切り傷くらいですよ。とんでもない大物相手にさすが英雄ですなぁ。呪い以外は全く問題ないです」
戦場のデータをすでに受け取っていたらしい医師がそう言うと、「他の隊員をみてきますね」と部屋から出て行った。
ルカは昔から体力お化けだったけど、もしかしたら頑丈さもお化け並みだったのかしら?
「……よかった」
自然と出た言葉に、自分がどれだけ彼を気にかけていたのかに気づかされる。
生きて帰ってきたことに、ただただ安堵する。
本当なら彼に触れたいけれど、そこはぐっと我慢だ。
「でも、呪いの魔力数値が今までにないほど高いの。まだ体の中の魔力がおさまりきっていないようですわね。この部屋は今私が浄化しています。ここを出たらたぶんまた暴走するかもしれません」
「え……」
真面目なトーンのシャロン様にドキリとする。
オーウェン様がベッドの近くの椅子に座った。
「こいつ、満月なのに呪いの力をコントロールしきったんだよ。その反動で、今までにない暴走を引き起こしたんだろうな」
オーウェン様はそう言って私を見た。
「あんたが発破かけたんだろ?」
「発破かけた?ってそんなことしてないと思いますけど……ただ、自分の身は自分で守るとか、前を向けとか、嫌いだって言ってみようとか、あ。ここでちょっとケンカになりましたけど……」
ルカとのやり取りを思い出しながら言う。
ぶはっ!と笑い出すオーウェン様と、ひっそりと後ろで笑う薬局長。
「嫌いって……地雷じゃん」
「ルカ君が不憫すぎますね」
「だから反省してますってば!人に嫌いなんて言っちゃダメだって子どもだって知ってますもんね」
「それとはちょっと違う気もしますけど……」
「やっぱりあんたおもしろいよなー!だいたい呪いに嘘なんてつき通せないって言ったじゃんか」
「でも、一応心構えだけでもそうしておけばいいかなって」
「……なんかあんたを通してみると、この呪いも可愛く見えてくるな」
くつくつ笑う大人二人に、私はなんだかきまりが悪くなる。
ものすごく幼稚だなって思われてるんじゃない?
「その話はもういいですから!これからどうすればいいんですか?」
口を尖らせる私に、はーっと一息ついてから薬局長が言った。
「夜が明ければ、落ち着くはずです。今は、とにかくこの満月が出ている間に呪いを押さえ続けること。この空間で、クレアさんが今作ったポーションを飲めば大丈夫だと思うのですが……」
「……でも、本当に効果が上がっているのか、私にはわからないんですけど……自分の魔力が上がってる感じもしないですし」
するとオーウェン様が言った。
「ちゃんと上がってるよ。いつもより魔力の色が濃い」
「ほんとですか?……ってなんかオーウェン様いつもと違いません?いつも以上に偉そうっていうか……威圧感が……」
思わず一歩下がると、薬局長がくすくす笑った。
「満月で魔力がとんでもなく上がるのは、この人も同じなので……偉そうって……さすがクレアさん」
「偉そうじゃなくて、偉いんだけどな」
気にした様子もなく笑うオーウェン様に、つい私も笑ってしまう。
その時だった。
「ルカ様っ!?」
シャロン様の慌てた声に、全員がルカを見た。




