表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/88

66.落ちる満月

「……意味わかんないんですけど」


 ぽつりとつぶやく同僚の声が、夢の中のように響く。

 情報になかった2体目の魔物に、全員が一瞬フリーズする。


 しかし、相手は待ってくれるはずもない。

 ガバァっと大きな口をあけたかと思うと、鼓膜をつんざくような鳴き声を上げ、一気にこちらに駆け寄ってきた。


 ドラゴンというには醜く、丸いぼてっとしたシルエットだったが、とんでもない速さだった。


 それぞれが剣や盾を構えたけれど、あっという間に弾かれ、体ごと吹き飛ばされる。



 地面にたたきつけられ、俺もすぐに立ち上がることができなかった。

 手にしていた剣もいつの間にか折れ、柄だけになっている。

 その時、黒い影が落ちる。

 目の前には恐ろしい牙をむき出しにした魔物。


 手袋を外す暇なんて、ない。

 ……まずい。


 剣の柄を握り締めた俺の目に、右手が映る。

 先ほど火の粉で焦げ、指先に小さな穴がいくつかあいている手袋。


 それを見た瞬間、勝手に体が動き出していた。

 上手くいくかなんて考えてもいない。

 振り返ってみれば、それは生への執着だったのだろう。


 俺は、右手の魔力を手袋の焦げた小さな穴から、剣の柄、そして折れた刃先へと一気に流す。

 集中しすぎて、自分の右手しか見えていなかった。


 すると、目の前で大口を開けた魔物がぴたりと止まった。

 そして瞬間、一気に灰になってさらさらと崩れていった。


「……できた」


 思わぬ出来事に自分でも驚いて、右手を見る。

 握っていた柄は形を保っている。


 どうやら、直接触れることなく魔物を灰にしたようだった。

 穴の開いた手袋に助けられるとは思いもしなかった。


 ほっとして、柄を手放した時だった。


 心臓はドキドキと早鐘のようになっているけれど、それとはまた別の感じが右手を襲う。


 ドクドクどころじゃない。

 じりじりと燃えるように熱く、赤黒い光が右手を覆っていた。


 ……まずい。

 これはちょっと……とんでもないことになりそうだ……。


 左手でぐっと右手を押さえつけるけれど、右手は勝手にあちこちに掴みかかろうとしている。


「……っ!」


 コントロールし、押さえつけていた反動なのか、満月のせいなのか……どうにもならないほどの力が右手に渦巻いている。

 このままにしたら、全員灰にしてしまいそうだ。そして、俺の命もなくなる。


 血が滲みそうなほどの力で右手を押さえつけるが、止まりそうもない。


「どうすればっ……!」


 一瞬の油断から、魔力が手袋を突き破り、勝手に右手が辺りの大木を灰に変える。


「おいルカ!!」

「どうした!!?」


「来るな!!」


 心配して駆け寄ろうとする同僚たちに悲鳴のような声を上げる。

 一気に力を使おうとする右手に、意識がもうろうとしてくる。

 その時だった。

 ずんっと右手が一気に重くなり、体ごと鎮められた。


「悪い、遅くなった」


 見ると、オーウェン様が俺を見下ろしていた。





「ごめんな。2体でかいのを討伐した今日のMVPなのに、この扱い」


 彼はそう言いながら、しゃがみこむ。


「いえ……助かりました」

「お前、右手ほんとに使いこなしたんだな。なにあれ、直接触れてなかっただろ?」

「……色々あって……」


 意識を手放しそうになりつつもそう答える。


「へぇ?まぁ、それは後でゆっくり聞くとして……」


「これ、今お前に結界貼ったんだけど、ここから出たらたぶんまた暴れだすぞ。その右腕。感覚わかる?」


「わかります……ここにいてもズクズクうずいてるんで」


 俺の答えにオーウェン様が頷いた。


「本当に悪いんだけど、もう少し結界の濃度あげていい?」


「……はい?」


「大丈夫。死なない程度にするから」


 彼がそういった瞬間、さらに右手が重くなった。

 行き場のない魔力が、俺の中で暴れ始めているのがわかる。


「ごめんな、俺はお前の力を押さえつけることしかできない。外に出さないようにするのが精いっぱいなんだ。だから治療チームにあとは任せる」


「……おれの、気絶待ちってこと……ですね?」


「そういうこと」


「……怖すぎますけど」


「早く意識を手放した方が楽だと思うぜ」


「ほんと鬼……です、ね…」


 純粋な疲労と、俺の内側で暴れる魔力の嵐に、俺の限界はとうに超えていた。

 意識を手放す直前に見たのは、薄暗い夜の森を照らす、空にぽっかりと浮かんだ大きな満月だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ