61.魔薬師なのに魔術師団?
シャロンが帰ってから、場所を移したフランツとオーウェン。
「気になってたこと、お伺いしましょうか」
「あぁ。あいつの呪いの数値の話」
その部屋は執務室としてフランツが使っており、彼が受け持っている患者のデータ、調剤道具、調剤に使うらしい謎の材料やら、薬に関する本などが4つほどの棚に綺麗に収まっている。
「クレアが特別調剤を降りてから、ずっと落ち着いてただろ? 俺の目から見てもそれはわかった。右手の魔力がおとなしかったんだ」
「そうですね。数値上も低めで安定してました」
部屋の中央で座りもせず、立ち話をする二人。
「でもさ、ずっと嫌な感じはしてたんだ。抑え込んではいるけど、くすぶってるっていうか、何かのきっかけで暴走しそうな感じがずっとあった」
「魔力が目に見えるあなたが言うなら、きっとそれは正しいのだと思います」
フランツは真面目な表情で頷いた。
「僕も今回感じました。ずっと落ち着いていた数値が、噂話という些細なきっかけでとんでもなく跳ね上がった。ルカ君から彼女を完全に遠ざけたのは失敗だったかなと……彼を抑制させすぎた結果かもしれませんから」
「かもしれないな。きっと反動が来る。今回の暴走もその一つだろうな」
「もうすぐ満月です。今の時点でもだいぶまずい状況でした」
穴あき白衣を見て、顔をしかめるフランツ。
オーウェンも宙を見つめながら考え込む。
「……あいつ、満月の夜に討伐でるもんなぁ」
「オーウェン様は出ないんですか?」
「俺は昼間に別件があるんだけど……行った方が良さそうだな。もし何かあったら、あいつを止めないとまずいだろうし」
「そうです。行ってください」
間髪入れずに言うフランツに、オーウェンがじろりと彼を見てため息をつく。
「……簡単に言ってくれるよな、お前」
昼夜働けっていうわけ?と文句を言うオーウェンに、あっさりと頷くフランツ。
「天才なんて言われてるんですから、少しくらいは頑張ってくださいよ」
「はぁ……わかったよ。なんとかするから、お前なんかあったらちゃんと面倒みてやれよ?」
「もちろんです」
「あの台風娘と、クレアちゃんのポーションがあればなんとかなるだろ?」
「そうですね」
「だったら、あいつが戦場で死なないように面倒見るのが俺の役目だな」
「一番重要ですよ? くれぐれもルカ君を煽らないように」
「了解。……あんたには逆らえないよな」
やれやれ、と肩をすくめて見せるオーウェンに、フランツは笑顔のまま言い返す。
「あなた、従いもしてくれないですけどね」
お互いに目を合わせてニヤリと笑った時だった。
「できたーー!!」
事務所から聞こえてくる声に、ふっと部屋の空気が和らいだ。
「おやおや、もしかするかもしれませんね。これ」
目を細めるフランツに、いつもの不敵な笑みを浮かべるオーウェン。
「確かにセンスはあるみたいだな。さすが癒しの女神」
「その言い方、本人は嫌みたいですよ?」
そう言いつつ、彼らは事務所へ向かうのだった。
**************
背もたれに体を預け、「はーー」っと大きく息をつく。
頭がぼんやりして、体中の力も抜けてヘロヘロだったけれど、達成感はすごかった。
「……できた。20秒維持!!」
机の上の丸い鏡を見る。
今はもう天井を移しているだけだけれど、紫色に光り輝いていたのだ。
「薬局長、すごい……」
彼のアドバイスを意識したとたん、魔力を扱いやすくなった。
もう一度やってみようかな、と思った時だった。
薬局長の執務室から、薬局長とオーウェン様が出てきた。
「できましたか?」
「できました!ありがとうございます!!」
穏やかにほほ笑む薬局長にお礼を言う。
「20秒維持だけでもヘトヘトですけど……」
「20秒ってすごいことですよ」
褒めてくれる薬局長に嬉しくなる。
「でも、赤にするのはちょっと間に合わなそうです。満月まであと4日ですもんね」
「赤?」
薬局長がオーウェン様を見る。
「赤にさせようと思っていたんですか?」
「行けたらいいなって」
「……本気ですか?」
「わりと」
その言葉に、薬局長は信じられないというような目をした。
「え、なんですか?赤だと困るんですか?」
2人のやり取りに私が口をはさむと、薬局長が言った。
「クレアさん、その鏡を赤くできたら、相当なものですよ。ここの魔術師団に入団できるレベルです」
「……え?」
「入団の最低ラインが赤なんだけどな」
固まる私に、オーウェン様がニヤリと笑う。
「魔薬師に王立魔術師団のレベルを求めないでください」
「あんただってそれくらいはできそうじゃん」
「できませんよ、そんなこと」
「光らせ方をアドバイスできる奴のセリフじゃねぇな」
知らんぷりする薬局長と呆れ顔のオーウェン様。
ほんと仲良しよね、この人達。
「あの……、赤まで行けたら薬って変わりますか?」
「そうですねぇ。魔力の扱い方が格段に上がっているはずなので、これまでよりもカプセルに魔力を流す工程がやりやすくなると思います。なので、失敗がほぼなくなるんじゃないですかね」
薬局長が私を見て、さらに続ける。
「ただ、前もお話しましたけれど、調剤道具のシステム上、魔力が上がっても薬そのものは変わらないです。まぁ魔力が増えた分、大量に作れるようにはなりますけど」
「……魔力の質は変わらないですか?」
大量に作れるのはまぁ嬉しいけど、やっぱり中身も大事よね。
「どうなんでしょうね?もしかしたら扱いが丁寧になれば、質にも影響がでるかもしれませんよね。さっき、ルカ君に飲ませた薬、違いがあったみたいですし」
「そうなんですか!?」
「えぇ。いつもより濃いって言ってましたよ」
「そっかぁ!」
ルカに伝わっていた。
喜びと達成感が胸いっぱいに広がる。
色々試しながらやってみてよかった。
そう言えば味見とか全然してなかったけど、してみたほうがいいのかな?
「じゃあやっぱり赤になるくらいまで頑張ってみます!」
「満月補正で赤にはなるかもな。その日だけなら」
「補正なしで頑張りたいです!」
「おーがんばれよ」
「本職を忘れない程度にお願いしますね」
私の意気込みは、適当にあしらわれたけれど気にしない。
満月まであと4日。
やれることをやっておいて損はないはずだ。
色の変わる鏡の話覚えてます?
なんだっけ?という方は、41話へ!




