55. 呪いの真相1
「ルカの呪いのことなんです」
そう切り出した私。
予想していたのか驚く様子もなく、オーウェン様は私の話を聞いている。
「シャロン様から聞きました。
ルカの呪いが、以前よりも強まっているんじゃないかって。
私が特別調剤を始めてから、呪いの数値が以前よりも上がっているんです」
小さく頷くオーウェン様を見て、私は話を続ける。
「薬を飲めばいったん数値は下がります。でも翌日にはまた高くなっている……。
薬がちゃんと効いているのかもわからないし、そもそも数値を上げているのが、私の薬のせいなんじゃないかと思うと……ほんとに申し訳なくて……」
自分の手をじっと見つめながら、できるだけ冷静に話そうとする。
頭の中のこんがらがった糸を、少しずつほぐすようにゆっくりと。
「でも、薬局長からは何も言われていないんです。私は調剤係を降ろされたけれど、私の薬をこの先もルカが飲み続けることになっています」
何とかそこまで言い切ると、色々な不安や、もやもやが頭の中を覆い始める。
「シャロン様は新月明けのルカの目を見て、違和感を持ったみたいなんです。黒が薄くなったって……。でも、毎日視診していた私には全然わからなかった……。
こんなんだから、ルカに嫌がられて調剤係を降ろされたのも当然なんですけど……」
頭の中がぐるぐるして、何を言っていいのかわからなくなった。
どうしよう、オーウェン様困るよね。
ちらりと彼を見ると、彼は真面目な表情でまっすぐに私を見ている。
余計に緊張して、頭がまっしろになる。息も吸いづらい。
「私……ルカの呪いのこと何も知らないんです。呪った人が影響してるんじゃないかって教えられました。
ルカが誰かに呪われたなんて信じられなくて……。とにかくオーウェン様なら何か知ってるかなと思ったんです」
せっかく時間をもらったのに、どう伝えていいのかわからない。
オーウェン様の視線が痛い。
思わずうつむいてしまう私。
ぎゅっと白衣の上でこぶしを握りしめる。
淹れてもらったコーヒーの湯気が、ゆらゆらと立ち上っていく。
オーウェン様は何も言わなかった。
私をからかうようなことも、ニヤリと笑うようなこともせず、片手であごに触れたまま、じっと黙って一点を見つめていた。
カチカチと時計の音だけが静かに響く。
しばらくして私を見ると、静かにつぶやいた。
「……あんた無茶しそうなんだよな……」
その言葉に顔を上げる。
「あんたの疑問を全部説明すると、俺たぶんあいつにマジで嫌われそうなんだけど……」
「あいつ?」
「満月の英雄。ルカ・エヴァンス」
「どういう意味ですか?」
顔をしかめる私をオーウェン様はじっと見ていたけれど、やがて意を決したようにふっと息をついた。
「あいつの呪いの魔力が高まっていることも、呪われた経緯も、呪った人間の影響も……」
紫色の瞳がじっと私を見据える。
「ついでに言えば、あんたがあいつの目の違和感に気づけなかったことも、全部つながってる」
「……え?」
全部、つながっている?
「さらにいえば、数値の上昇に気づいていたあの眼鏡が、あんたにそれを言わなかった理由も、結局はつながってる」
「……よく、わかりません」
話が全く見えない。
「あの呪いは、あいつ本人を苦しめているのはもちろんだけど、回りまわってあんたのことにもなるんだよな、たぶん」
「……私、ですか?」
どうして私が出てくるの?
思わぬ展開にますます混乱する。
「あいつもあの眼鏡も、あんたを気遣って秘密にしてる。俺もあんたは無茶するタイプだと思うから、二人の気持ちはまぁわかる」
オーウェン様だけでなく、ルカも、薬局長もすべてを知っているってこと?
そのうえで、私のことを思って秘密にしていた?
ルカは呪いから遠ざけるためだけじゃなく、全部知っているからこそ、私のためを思って、あんな冷たい態度を……?
彼の思いに、胸がいっぱいになる。
「でもどう考えたって、あんたが解呪のカギなんだ。だから俺は全部お前に話す。あいつらには悪いけど、お前を思いっきり巻き込むからな。覚悟できてんだろ?」
彼の瞳は真剣そのものだった。
私はその強い瞳を見つめ返すと、「できてます」と頷く。
私の答えを予想していたらしいオーウェン様。
やっといつものようにニヤリと笑う。
「絶対に一人も死人を出さずに解呪しろよ」
その言葉が、なぜか私の胸に深く入り込んだ。
「解呪方法……あるんですよね?前に言ってましたもんね」
「一応ね」
彼は表情を変えずに答える。
「どうしてあの時に教えてくれなかったんですか?
それをすぐに試した方がいいんじゃないですか?」
身を乗り出す私。
するとオーウェン様が静かに言った。
「あんたの言う通りなんだけど、これには理由があるんだ。
まず、これまでその解呪方法を試しようがなかった。
そして、古い文献だから試しても本当に効くのかわからない。
最後は、その解呪方法を誰も望んでいない」
それってどういう意味……?
口を開く前に、オーウェン様は手のひらを私に見せながら言った。
「まぁ待て。順番に話すから」




