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54.オーウェン様の研究室

 シャロン様のところから薬局へ戻って来ると、私はまず薬局長を探した。

 神出鬼没なオーウェン様を捕まえるよりも、彼に聞いた方が早いと思ったのだ。


「あれ~?どこかな?在庫管理?」


 調剤室にもカウンターにもいない。

 事務所にもいない。

 うろうろしていたら、効率第一の先輩に声をかけられた。


「薬局長ならさっき帰られたわよ」


「え!?」


「お子さんが熱を出したらしくて迎えに行ったわ」


「薬局長って、ほんとにお子さんがいらっしゃるんですね?」


「えぇ。知らなかったっけ?若いパパよねぇ」


「……知れば知るほど不思議な人だなぁ」


「たぶん人生3回目くらいだと思うけどね」


 彼女の言葉に納得する私。

 するとカウンターの方から声がかかる。


「クレアさん、ご指名入りました!」


 事務所に顔を出した先輩は「早くこっち着ておねがい」とばかりに困った顔をしていた。

 指名制度なんてないはずですけど、と思いつつ私はカウンターに出る。


「よー、クレアちゃん」

「わぁ!オーウェン様!!」


 いつものように、スツールに座るオーウェン様がいた。

 ナイスタイミング過ぎて、思わず『会えてうれしいです感』が出てしまう。

 先輩は「よろしくね」と言って、違うお客様の接客を始める。


「眼鏡、いないの?」


「薬局長なら帰られたみたいです。お子さんが発熱らしくて」


「へぇ~そっか」


 普通に返事をするオーウェン様。


「ご存じでしたか? 薬局長にお子さんがいらっしゃるの」


「いや、今初めて聞いた」


「そのわりには普通の反応でしたね」


「なんで?隠し子なの?」


「隠し子!? 違うと思いますけど……」


「じゃあ別に驚くことでもないな」


 あいつなら隠し子がいそうだけど、と笑いながら言うオーウェン様。

 どっしり構えてるというか、肝が据わっているというか、さすがに副団長レベルにもなると違うわね、と感心してしまう。


「あの、オーウェン様。この後って時間あります?」


 私の質問に彼は一瞬目を丸くした。

 そしてニヤリと笑う。


「なに?デートのお誘い?」


「違いますよ!! ちょっとお話したいことがあって……」


「ここじゃダメなの?今時間があるんだけど」


「あー、そうですよね。でもちょっとここだと……」


 周りをちらりと見て言う。

 お客様も先輩たちもいるので、呪いについてをここでは聞けないよね。


「それじゃあまた今度でいいです」


 私がそういうと、彼はしばらく頬杖をついていたけれど、ふっとこちらを見て言った。


「いいよ。今からで。場所を移すか」


「いいんですか!?」


「せっかくクレアちゃんが誘ってくれたんだからな。据え膳食わぬは男の恥ってやつだ」


 意味深に笑う彼に、恥ずかしくなった私は大慌てで否定する。


「そんなつもりで誘ったわけじゃないんです!」

「照れるな照れるな」

「違いますってば!!」

「ほら、行くぞ」


 そういうが早いか、オーウェン様は立ち上がると「こいつ、借りてくな」と先輩に声をかけ、さっさと薬局から出ていく。


「すみません、ちょっと抜けます!」


 そう言って頭を下げると、私は慌てて彼を追いかけた。




 ずんずん進んでいくオーウェン様。

 ちょっと歩くの早くない?


 私が小走りで何とかついていっているのに、なんであの人あんなに余裕で歩いてるの?

 全然こっちを気にかけてもくれないし。


 いくつか角を曲がり、階段を上り、廊下を突き当たったところで、やっとオーウェン様がちらりとこちらを振り返った。


「あ、悪ぃな。足長くて」

「……どうせ短いです」


 口を尖らせる私を面白そうに見ながら、オーウェン様が言った。


「ま、そんなに人目にはつかなかったろ」

「え?」

「すぐそこの部屋」


 何とか追いついた私に、彼は奥の部屋を指さす。


「何の部屋ですか?」

「なんか話したいんだろ?俺の個人的な研究部屋」

「え、いいんですか?」


 驚く私にオーウェン様が言う。


「魔術師団のとこだと、そう簡単に一般人は入れられねぇからな」


 彼はそう言って部屋のドアを開ける。


「って言っても、この部屋だってそう簡単に他人を入れたりしねぇけど」


 そう言って私を見るオーウェン様は「特別に許可な」と言ってニヤリと笑った。


「……お邪魔します」


 恐る恐る足を踏み入れた私。


 そこは思った以上に研究部屋だった。

 ものすごい量の分厚い本が、壁一面の本棚にぎっしりおさまっている。

 おさまりきれない本があちこちにうずたかく積まれており、付箋がたくさんはりついていた。


 中央の机には書類やらノートやらペンがおいてあり、私にはよくわからないけど、恐らく魔道具らしきものが置いてある。

 黒い革張りのソファと小さなテーブルにも読みかけの本や、書類が置いてあった。

 そして、薬局で買ったであろうエーテルの瓶も何本かのっている。


 ぐるーっと部屋を見回した私。


「……オーウェン様ってほんとに魔術師だったんですね」


「そうなんだよなー。ほんとに魔術師だったんだよ。知らなっただろ?」


「こんなに勉強してる方だとは思ってませんでした、すみません」


「おう、反省しろ。お前よりはるかに真面目にやってる」


「ほんとすみません」


 頭を下げる私を楽しそうに見ながら「いいから座れよ、そこ」とソファを指し示す。


「失礼します」


 なんだかものすごーく緊張してきたぞ?

 正直この展開はまるで想像してなかった。


 私、さっきまでシャロン様のところにいたのに……今日はいろんな人のところへお邪魔しているなぁ。


 そわそわと落ち着かない私の目の前に、トンとコーヒーが置かれる。


「え?」


 驚いて思わずオーウェン様を見ると、「ミルクも砂糖もないぞ」と言った。


「うわぁ、オーウェン様が!?淹れてくれたんですか!?うそ!」

「俺が飲みたかったからな。ついでだ」


 うっそ、実はすっごく優しいひとなの!?

 感動していると、彼が心底嫌そうな顔をする。


「……下らねぇこと考えてるだろ?さっさと本題に入ってくれよ」

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