49.クリームケースの行方
「特別調剤行ってきます」
するとその時、薬局長が私を呼び止めた。
「あ、クレアさん」
「はい?」
呼び止められて振り返る。
眼鏡の奥の瞳が、珍しく揺らいで見える。
「……いえ。なんでもありません」
「??」
目を伏せる薬局長に首を傾げつつ、私は事務所を出た。
「あぁ……もう見てられないです」
「お前、だいぶ私情をもちこんでねぇか?」
「プロ失格ですよね……でも娘みたいなものなので」
「まぁ、気持ちはわかる」
「なんでもいいから、早く何とかしてあげたいですね」
「そうだな」
大人二人がそんなことを話しているなんて、私は思いもしなかった。
ルカがクリームケースを持っている。
しかも演習で使っていた。
たぶん、私のものだってわかっているはずだ。
きっとあの森で渡してから、ずっと持ってくれていたのだろう。
……返す気がないのか、返しそびれているのか……たぶんあのルカのことだ。
返しそびれているのだろう。
そんなことを考えながらノックをして医務室に入ると、なんとすでにルカがいた。
彼はいつもの椅子に座って、静かに右手を見つめていた。
「あれ、ルカ!今日は早いね!」
驚いてそう言うと、彼は小さくうなずいた。
「いつも私の方が早いのに。ごめんね、待たせちゃって」
調剤鞄を机に置くと、椅子に座る。
「じゃあ、始めようか」
私がそういうと、ルカは珍しく私をまっすぐに見て言った。
「よろしくお願いします」
この時の私は、いつもと違う様子のルカに、違和感をまだ持っていなかった。
彼が私に言おうとしている言葉も、予想すらしていなかった。




