46. 恋にプリンは反則です
「クレアさん、庭師さんたちからの注文書ちゃんと見た!?」
「え」
「毒消しと日焼け止めがまるで入ってない!気付け薬はまだしも、なんで座薬が入ってるのよ!!?」
「す、すみません!!!」
先輩の悲鳴に、私は平謝りするしかなかった。
ひどいミスを先ほどから繰り返している。
「もういいわ。私が奥に入るから、あなたカウンターね!人としゃべったほうがよさそうよ!」
効率第一の先輩がぷりぷりとそう言って、カウンターを出て行ってしまった。
「……ごめんなさい」
本当にこれは社会人として失格だ。
しかもミスの原因もひどい。
……ルカのことで頭がいっぱいだから。
これはもう恥ずかしすぎて言い訳もできない。
「あぁぁぁああぁぁ!もうほんっとにごめんなさい。恥ずかしい!!」
思わずカウンターに突っ伏す私に、お客様(たぶん料理人さん)が「え、だ、大丈夫ですか?」と心配してくれたのだった。
なんとか午前中の営業を終え、私は一人食堂のテーブルで突っ伏していた。
「無理……無理です。なんなのこれ。ほんと生活全てが変わってしまった……」
この私が、ご飯ものどを通らないのだ。
食堂に来てみたものの、食べる気がしなくてコーヒーだけを手にしている。
理由は簡単だ。
もうこれまでの私じゃないから。
ルカのこと心配していたし、なんとかして呪いを解くって思っていた。
大事な年下の幼馴染。
小さいころからの思い出を振り返ると、いつだって優しく笑っている彼がいたのだ。
でも、それを思い返してこんなにも胸がいっぱいになるのは、初めてのことだった。
ルカを好きだと気づいてしまってから、私は生きるのが難しくなっている。
「どうしよう。仕事はミスばかりしちゃうし、ごはんも食べられないし、なんかぼんやりするし、かと思えば恥ずかしさで消えたくなるし……」
昨日のルカを思い出す。
訓練中の流れるような身のこなし、トーマ王子への美しい礼、口元を手で覆った恥ずかしそうな態度……。
そして、特別調剤で『今日くらい俺の言うこと聞いて』と言った時のまっすぐな瞳……。
すみません、これはちょっと……もう耐えられません。
「……ごめんなさい。もう無理です。死にそう」
思い出すだけで、もう、こうなんていうかな、ドキドキして胸がいっぱいでどうしようもないのだ。
誰にともなく、なぜか謝ってしまう自分。
意味が分からない。
しばらく目をつぶり、呼吸に集中してみる。
食堂に来たのは失敗だったかもしれない。
私はいちいち、黒髪の人に反応し、騎士団の制服に反応し、出入口を見ては「ルカが来るかも?」と反応しているのだ。
……これってさ、もっと少年少女がやるような反応だよね?
私、いい年してなにしてるんだろ?(21歳)
自分で自分にがっくりしつつ、目を開ける。
いつの間にか食堂は人で埋まっており、すぐ隣のテーブルにも5,6人の騎士団員がいた。
騎士団員というだけで、私の心臓がおかしくなる。
ここでルカと会ったことはない。
だからきっとルカじゃない。
そう思いつつも、「ルカだったらどうしよう」という思いでいっぱいになった。
結局見る勇気はなくて、私は一生懸命コーヒーを飲むことに意識を向けていた。
しばらくすると、隣の騎士団員たちは席を立つ。
すごい速さだ。
ほんの数分でご飯食べたんじゃないかしら?
そんなことを思っていると、彼らは私の後ろを通ってトレーを片付けに行く。
ほっとしたその時だった。
私の目の前にコトンとひとつ、プリンが置かれる。
「え」と思い顔をあげると、騎士団員たちの一番後ろに黒髪の人がいた。
見覚えのありすぎる後ろ姿に、心臓がドクンとはねる。
「……これ……?」
戸惑う私に、黒髪の人がちらりと振り返った。
「あげる」
そう言ったかと思うと、彼はそのまま行ってしまった。
「……ありがと」
どうしようもないくらいに胸が高鳴って、私はそのまま両手で顔を覆ってしまった。




