表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/86

44.小さな王子様VS英雄(←4歳相手に大人げない)

 気づいてしまったらもうダメだった。

 ルカの一挙手一投足に、自分の全てがぐらぐらと揺れ動くのがわかる。


 トーマ王子と話をしているルカは、いつもよりも穏やかな表情をしていた。

 あの頃のように、柔らかい瞳でまっすぐにトーマ王子を見つめ、彼の話に優しくうなずいている。


 そうなんだよね。ルカ、昔から優しいんだもの。

 いつだって私の話を聞いてくれていたし、困ったときは助けてくれていた。


 いくら呪いがあるとはいえ、ルカの根っこの部分は絶対に変わらないはずだ。


 そう思いながら、ルカを見ていた時だった。


「クレアちゃん!なんでそんなにうしろにいるの!?」


 突然名前を呼ばれ、はっとした。

 トーマ王子が口を尖らせて私を見ている。


「こっちに来て!いっしょにお礼を言おうねっていったでしょ!」


 トーマ王子がトコトコとやってきて、私の右手をがしっと掴む。

 彼に引っ張られるようにして、私はルカの前へと引きずり出されてしまった。

 ばちりとルカと目が合い、ボンっと耳まで熱くなった気がする。

 気まずすぎてすぐに視線を落としてしまった。


 トーマ王子は、にこにことルカに話しかけた。


「ね、英雄さん。クレアちゃんだよ。僕にお薬を作ってくれているの」

「……存じ上げております」

「あのね、クレアちゃんのお薬はすっごく甘いの。騎士団の人飲んだんだよね?英雄さんも飲んだ?」


 ルカはちらりと私を見る。

 そして、視線を落としトーマ王子につながれている私の手を見た。

 ……手?


「はい。私を含め、騎士団員が彼女に助けていただきました」


 うつむいてそう答えるルカ。


「そっかぁ!英雄さんだけじゃなくてみんなも助けたなんて、やっぱりクレアちゃんはすごいんだね!」


 トーマ王子はそう言って私を見上げると、つないだ手をぶんぶん振った。

 どう答えるべきかわからずに、へらりと笑っているとルカが言った。


「その節は、我らを助けていただきありがとうございました」


「あ、いえ……お役に立てて何よりです……」


 突然のルカの言葉に、私はあわあわと返事をする。


 これは完全に騎士モードだ。

 一般庶民には刺激が強すぎる。


 ルカはじっとこちらを見つめていたが、やがて視線をトーマ王子にうつす。


「殿下をお助けできたのも、彼女が身を挺してあなたをお守りしたからです。彼女がいなければ、私は間に合わなかったかもしれません」


 その言葉にトーマ王子が私を見た。


「そっか。そうだね。あの時クレアちゃんも、僕を守ってくれたもんね」


 トーマ王子は私の手を離すと、私とルカの前に立つ。


「英雄さん、クレアちゃん。助けてくれてどうもありがとう」


 右手を胸にあて、小さく頭を下げるトーマ様。


 それを見た瞬間、ルカと目が合った。

 たぶんお互い同じ気持ちだったと思う。


 ((可愛すぎる!!))


 小さな王子様にメロメロになる私と、口元を左手で抑えるルカに、トーマ様がちょこんと首をかしげる。


「なに?どうしたの?」

「な、なんでもないです!」

「ありがたきお言葉です」


 私とルカの言葉に、トーマ王子は「ふぅん?」と不思議そうな顔をしていた。


「あのね、僕ね、大きくなったら英雄さんみたいになりたいの。強くなってかっこよく戦いたいんだぁ」


 戦ってほしくはないですね、と後ろの方で執事さんがツッコむのが聞こえる。

 そうですよね、一国の王となる人ですもんね、と心の中で同意をしていた私。


「それでね、クレアちゃんにお嫁さんに来てもらうの」


 響き渡るトーマ王子の声と、「おぉ~っ!」という騎士団員からのどよめき。

 ダンディ騎士もにこにことしている。


 4歳児の言うことなので、真に受けるつもりなんてまるでない。


 けれど……この場で言うことではありませんよ、王子!


「あ、あの、トーマ王子。それはちょっとどうかと……」

「え?でもさっき言ったでしょ?クレアちゃん予定ないって。だから僕がその予定もらおうかなって」

「トーマ様、プライバシーというものがありますので……」


 突然暴露されたショックで何も言えなくなる私を気遣い、執事さんがトーマ王子に耳打ちをする。

 ふとルカを見ると、片膝をついて、うつむいたままずっと固まっていた。


 あぁ、これはクールモードですね?と思っていたら、すっと顔を上げる。


「殿下に見初められるとは、彼女も幸せですね」

「クレアちゃんのこと大好きだから。優しいし、お薬作るの上手だし」


 褒めてくれるトーマ王子の気持ちはとてもうれしい。

 けれど、ちょっと……ルカの表情が気になる。


「でも、早く大きくならないと、誰かに取られてしまうかもしれませんよ?」


 ルカはそう言って、トーマ王子をまっすぐに見る。


「え!そうなの!?」

「こういうのは早い者勝ちですから」


 4歳児に向かって容赦ないな、と大人ならみんな思うはずだ。

 でも次の言葉で一気に風向きが変わる。


「だから、好き嫌いしないで何でも食べてくださいね」


 そう言ってにこりと笑うルカに、トーマ王子は力強くうなずいた。


「わかった!!今日からがんばってお野菜も食べる!!」


 後ろで執事さんが「ありがとうございます!さすが英雄!!」と小さく拍手していた。


「それから……」


 そう言ってルカが立ち上がる。


「ライバルがたくさんいるので、お互いがんばりましょうね」


 その言葉とともにちらりと後ろを振り返るルカ。

 騎士団員がわぁっと歓声を上げた。


「王子様がライバルとは手ごわいよなー」

「癒しの女神争奪戦だ」

「俺も参加しよっかなぁ」


 口々に何かを言っている。

 賑やかさの中、ルカは小さく頭を下げて王子から離れる。

 そして私を見た。


「……みんなノリがいいんだね」


 なにか話さなきゃ!と思って出た言葉がこれだった。

 ルカはうなずいてから、小さな声で言った。


「俺だけスタートラインにすら立てないんだけどね」

「なに?」


 私が首をかしげると、じっとこちらを見る。

 ……何か言いたげだわ。


「クレア、予定ないの?」

「うっ……」


 そこを掘り返されるとは思ってなかった……。


「……ない、です」


 なんでこんなことを言わされるのか。

 恥ずかしさでうつむいてしまう。


「……よかった」


 そんなルカのつぶやきに、私は顔を上げる。


「あるって言われたら、相手を灰にするところだった」

「え」


 それってどういう……


「特にオーウェン様だと思ったら、ね」


 なんでオーウェン様?

 思わず顔をしかめてしまう。


「俺には予定をもらう資格なんてないんだけど……」


 そう言いながら、刺繍入り手袋をした右手を見る。


「考えるだけですっごい腹が立つ」


 ギリギリと右手を握り締めるルカに驚いて、ドキドキしながら見つめることしかできない私。

 ルカは私に視線を移すと、静かに言った。


「この手じゃなければ、もらうのにな」


 え。

 思わずルカを見る。

 黒い瞳が探るように私を見つめていた。

 3秒くらい見つめあってから、ルカははっと我に返ったように目をそらす。

 

 くるりと私に背を向けて歩き出した。

 気まずそうに片手で口元を覆い、だいぶ速足で去っていく後姿を見て、私もじわじわと顔が熱くなってくる。


「クレアちゃん。どうしたの?」


 トーマ王子が私の顔を覗き込んできた。


「なんでもないです」


 両手で顔を抑えながらそう言いつつも、ドキドキしすぎて息が吸いづらくなっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ