42.ルカに会いに行こう!(王子様の付き添いです)
昨日オーウェン様から借りた鏡型の魔道具。
上手くいく様子がまるでない。
あれから仕事の合間にも試してみた。
帰ってからも1時間くらいやってみたし、今朝も早起きして挑戦した。
そして、今。
休憩中のデスクで鏡とにらめっこしている私。
「全然だめだ」
昨日と全く同じで、青から紫へと変わりかける所で私の限界が来る。
青→紫→赤→オレンジ→黄色→光る
という流れだけれど、紫にすらならない私が、あと二週間で赤にすることなんてできるのだろうか?
集中力はもちろん、魔力の流れをしっかりととらえることが、こんなに大変なことだとは思いもしなかった。
でも、とにかくやるしかない。
薬のレベルを上げれば、きっとルカを助けることができるんだから。
その日から私は空いた時間のすべてを、その魔道具に向き合うようにした。
その日の午後は、トーマ様に特別調剤をする日だった。
仕事の合間はひたすら鏡で特訓していた私にとって、この小さな王子様とのひと時は癒し以外の何ものでもない。
薬を飲んだトーマ様としばらくお話をしていると、彼が急に言った。
「ねぇ、クレアちゃん。まだお嫁さんにならないよね?」
「……はい?」
突然の小さな王子の質問に、私は文字通り固まった。
「ど、どうしたんですか?急に」
「あのね、クレア姉さまが結婚して遠くへ行っちゃったでしょ?
クレアちゃんまで結婚してお嫁さんになっちゃったら、会えなくなっちゃうんじゃないかなぁって心配で……」
眉毛をへの字にして、私を見てくるトーマ王子。
……か、カワイイ!!
「大丈夫です。結婚しません!」
「ほんと?」
「ほんとです。今のところ全く予定はないですし、相手もいないので!」
自信満々に答える私を、周囲の大人たちが乾いた笑みを浮かべる。
同情の色が瞳に浮かんでいるように見えるけれど、気にしない。
するとトーマ様が真面目に言った。
「クレアちゃん。大人なのにまだ予定がないの?」
思わぬ言葉に、目が点になった。
「え……」
「僕はそのうち結婚しないといけないんだって。早く予定を決めないといけないの」
「た、大変ですね王子様は」
気まずさを隠しつつ、なんとか相槌を打つ。
……大人よりも子どもの方が容赦ないのね……。
ちょっと悲しい気持ちになっていたら、トーマ様がにこにこと私を見た。
「僕、結婚するならクレアちゃんがいいなぁ。お薬甘くて美味しいんだもん」
「あ、ありがとうございます。もったいないお言葉です」
「ほんとだよー。大きくなってかっこよくなったら結婚してくれる??」
キラキラした瞳でトーマ様が言った。
……人生初プロポーズが王子様(4歳)ってすごくない?
結婚したい理由が『薬が甘いから』っていうのが、いかにも子どもらしい。
あまりの可愛さに微笑ましい気持ちでいたら、トーマ様はさらに爆弾を落とす。
「この間助けてくれた英雄みたいに、ピンチの時は助けてあげるからね!」
この間助けてくれた英雄って……あの時のルカの背中を思い出し、ついでに今までのルカの姿を思いだし、急にドキドキとしてきてしまった。
「あ、ありがとうございます」
彼の中でルカは、本当にカッコいい存在になっているようだった。
「そうだ!クレアちゃん、今からあの騎士にお礼しにいかない!?」
「え?」
「僕ありがとうって言えてないんだ。あの人に会いたいなぁ!」
「えー、えっと……どうなんでしょう……?」
私がちらりと周囲を見ると、執事さんやメイドさん、護衛騎士の皆さんがざわつき始めていた。
「どうしましょう?」
「突然すぎません?」
「この時間だと演習場かと……」
「しかし、危険では?」
「陛下にも許可をいただいた方がいいのでは??」
うん、そうだよね。
会いたいから今すぐ会うっていうのはちょっと無理でしょう。
あなた王子様ですし。
「急すぎてちょっと無理じゃないですかねぇ?」
やんわりと言ってみたけれど、トーマ様は首を振る。
「えー!でも自分でちゃんとお礼を言いたいよ。助けてもらったのに何も言えてないのってダメでしょう?」
4歳児のド正論に大人達がドキリとする。
「トーマ様、お相手の都合もございますし、また日を改めたほうがよろしいかと」
「クレアちゃんと一緒にお礼を言いたいんだもん。次クレアちゃんが来るのって、まだまだ先でしょう? 英雄さんはもうすぐ討伐に出ちゃうかもしれないし、そうしたら今日のがいいよ!」
一応筋の通っている王子の言い分に感心していると、執事さんがため息をついた。
「……こうなったら譲らないのがトーマ王子なんですよね」
ほわほわ癒し系の見た目と違って、意外と頑固で行動派、そして論破する力があるトーマ王子の一面に驚く私だった。
なんだかんだで各方面に都合をつけ、私たちは今演習場に向かっている。
トーマ王子と護衛騎士、執事さんと私の4人だ。
「練習してるところを見てみたい!」という王子の無茶ぶりに、大人たちは頭を悩ませたけれど、騎士団側は「どうぞどうぞ。皆の士気も高まります」という軽い感じで即OKだったらしい。あまりのフランクさにびっくりする。
そして、私が演習場へ行くことに関しても、執事さんは一応薬局に確認してくれたらしい。
「あ、全然かまいませんよー」ということだそうだ。
まぁそうだよね。
薬局長のにこにこ(にやにや?)笑顔が思い浮かぶ。
演習場が見えてきたところで、トーマ様が両手で胸を押さえながら言った。
「なんだかドキドキするね!僕、練習してるところ初めて見るんだ」
「私もです」
ワクワクが止まらない!という表情の王子と、なんだかものすごくドキドキしている私。
入口に近づくにつれ、なにかがぶつかり合う音や、怒号が大きくなってきた。
私の全く知らない世界に、また足を踏み入れることになりそうだわ。
そう思っていると、演習場の入り口に一人の騎士が立っているのが見えた。
あの時のダンディ騎士が私達を待ち構えていたのだ。
彼は私達に気づくと、胸に手を当て礼の姿勢をとる。
「トーマ王子。わざわざご足労頂きありがとうございます」
「無理を言ってしまい申し訳ございません」
執事さんが平謝りしているのを見て、トーマ王子は「そんなに悪いことなの?お礼を言うのって」ときょとんとしている。
そんなトーマ王子に、目線を合わせるように屈むダンディ騎士。
「大丈夫ですよ。王子のお心遣い感謝いたします」
相変わらずの良い人っぷりになんだかホッとする。
すると、彼は私を見てにこりと笑う。
「ベネット嬢もご一緒とは感激です。皆、喜びます」
「え!いえいえ!とんでもないです」
あくまでもメインはトーマ様なので、私のことは無視していただきたい。
「さぁ、どうぞお入りください」
ダンディ騎士はそう言うと、演習場の扉を開けた。




