表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/87

41.「俺のこと褒めるの初めてだよな」

 混雑してきた食堂で、向かい合って座るオーウェン様と私。


「気合でなんとかなるなら頑張ります」


 私の言葉にオーウェン様は「いい返事」と笑う。


「魔術師団のやつらは常にこれを持ち歩いてて、暇なときに訓練してる」


 っていっても真面目にやってるやつあんまりいないんだけどな、とため息交じりに言うオーウェン様。

 手にした魔道具を弄びながら不満を言う彼が、いかにも副団長っぽく見えた。


「やり方は簡単。こう手に乗せて、魔力をこの魔道具に流すイメージをする」


 彼はそう言って、手鏡のような魔道具を手のひらにのせる。

 それだけで、鏡の面が黄色に光った。


「わー、きれい!」

「あ、これは俺の魔力が高いからすでに光ってるってだけ。たぶんあんたは光らないと思う。んで、ここから流す」


 オーウェン様はそう言って、鏡をじっと見つめる。

 紫の瞳が鋭くなり、ふわりと彼の髪の毛が揺れた。


「!」


 黄色く光っていた鏡が、一気にぐわっと眩しい光を放つ。

 食堂は雷が落ちたかのように、辺り一面が真っ白になった。あまりの眩しさに私は目を細める。

 食堂の人々がざわついてこちらを見ているのが分かった。


「お、オーウェン様!わかりました!ありがとうございます!!」


 私がそういうと、ふっと輝きがなくなり元の黄色い鏡に戻る。


「まぁ、こんな感じ。やってみる?」


 彼はそう言って鏡を差し出す。

 私はそれを恐る恐る受け取った。


 私は裏表を確認し、自分の顔を試しに覗いてみる。


「ただの鏡みたいですね」

「鏡代わりに使ってるやつ多いからな」


 オーウェン様はそう言って笑う。


「えぇと、まずこれを手にのせる……」


 鏡は私の手から少しはみ出すくらいの大きさだった。

 鏡の面は冷たく天井を映している。


「あれ?ほんとだ。私が手にのせるだけじゃ黄色くなりませんね」

「乗せるだけで黄色くなったら、あんたは魔薬師じゃなくて魔術師団に入るべきだ」


 オーウェン様が呆れたように言う。


「そっか……とりあえずやってみます。えぇと、手のひらから魔力を流す……」


 じっと鏡を見つめながら、私は魔力の流れを意識する。

 鏡を乗せた手のひらがほんのり温かくなる。

 これはいけるかも?

 そう思った時だった。


「集中」


 オーウェン様が一言そう言った。

 はっとして、もういちど丁寧に魔力を流すイメージを持つ。


 するとしばらくして、鏡の色が変化し始めた。

 うっすら青くなってくる。


「か、変わりました!」

「もうちょっといけるだろ?」


 喜ぶ私に、オーウェン様が冷静に言う。

 私はもう一度魔力の流れを意識する。


『鏡に魔力を移すように』というのは、いつもポーションを作るときにしているのと同じ要領のようだった。


 青からうっすらと紫色に変わりかけた所で、私の限界が来た。


「あー、ちょっと……ダメでした」


 はぁ~っと脱力する。


「ん~、色が変わったってことで初回にしちゃまぁまぁかな。魔術師団に入団はできないけど」

「え」

「これさ、段階的に色が変わっていくんだ。青、紫、赤、オレンジ、黄色の順。で最終的に光る」

「……ってことは私はまだ第一段階ってことですね?」

「だな」


 ん?ちょっと待って。


「オーウェン様、手に乗せただけで黄色かったですよね?」

「すごいだろ?」

「……すごすぎます。さすが副団長ですね!」


 素直に褒めると、オーウェン様はちらりと私を見る。


「あんた、俺のこと褒めるの初めてだよな」

「え、そうでしたっけ?」

「いっつも呆れられてる気がしてるんだけど」

「……まぁ、そうかもしれません」


 だっていつも薬局長と小学生みたいな言い合いしてるし……。

 いざという時は頼れる人なんだろうなとは思ってるけど、まぁそこまでは言わなくてもいいか。


 そんなことを思いながら、手鏡型の魔道具を見つめる。


「これ、私が借りてもいいんですか?」

「あぁ。俺使ってないし。あ、でも壊したら弁償だから大事にしろよ?」

「ありがとうございます。特訓します」


 ぎゅっと鏡を抱きしめる。

 大事に使わせてもらおう。

 これが、ルカを助けるための一歩になるならやるしかない。


「とりあえず次の満月までに赤くらいまで行くといいかな」

「次の満月って……」

「あと2週間くらいだな」

「……できますかね?」

「だから気合とセンスがあれば。才能があればもっといけるけど、期待はしない」


 しれっというオーウェン様。

 まぁそうだろう。私は魔術師ではなくて魔薬師だ。

 とりあえず気合でなんとか赤までもっていくしかない。


 真面目にそう考えていたら、私のデザート皿へ手が伸びてきた。


「これもらう」


 言うが早いか、コーヒーゼリーの生クリームに刺さっていた、細いくるくるのチョコレートを取って食べてしまった。


「あー!」

「いいじゃねぇかよ。これくらい。あんたそっち食うんだろ?」

「でもそれ好きだったのに~」


 口を尖らせる私にオーウェン様はニヤリと笑う。


「へぇ、そうなんだ?じゃあ今度また食わしてやるよ」

「……嫌です。オーウェン様といるとやっぱり周りの視線が落ち着かないです」

「視覚の魔法かけてやろうか?周りの人間が見えにくくなるようなやつ」

「こわっ」


 私が顔をしかめるとオーウェン様は楽しそうに笑った。


 その瞬間、私はふっと学生時代、同じような状況になったことを思い出した。


『ちょっとちょうだい』

『うん、美味しいね。これもいいなぁ。でもやっぱりBランチにしようかな』


 あの時ルカは私の手首をつかみ、フォークに刺さったチキンステーキを食べていた。


 思い出した途端、ぼんっと顔が熱くなる。

 私はそのままゴンっと机に顔を伏せる。


「……こわ。なにしてんの?」


 オーウェン様の声が聞こえてきた。


 ルカはあの時、どういうつもりだったんだろう?

 オーウェン様はどう考えたって意地悪なだけだけど。


「さて。それじゃあ話も終わったし俺はそろそろ行くわ」


 彼はそう言って立ち上がる。

 もしかして、はじめから魔力の話をするために?



「それじゃあな、クレアちゃん」

「あ、はい。ごちそうさまでした。ありがとうございます」


 私が立ち上がると、オーウェン様はちいさく笑う。


「あ、ちなみにあんたの後ろの方にあいついるから。俺ずーっと睨まれてる」

「へ?」

「あんたからちゃんと理由説明しとけよ。俺が言ってもたぶん無駄」


「まぁ、ちょっと煽っちゃったんだけどさ」と笑いながら行ってしまったオーウェン様。


 彼が指さした方向を、怖くて振り向くことができない私だった。



オーウェン様、沼。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ