40.オーウェン様とランチします(もちろん奢りです)
午前中は調剤室でひたすらポーションを作っていた。
薬局長があまりにも普通に「あ、クレアさん。ポーション300本お願いします」とか言ってくるので、本当は鬼なんじゃないかと思った。
先輩たちも「わ、可哀そう」「今回試練を受けるのはあの子かぁ」って顔で私を見ていたから、たぶん日によってターゲットを変えていると思う。
「あーーーーーーー。終わったーーーーーーー!」
何とか午前中に300本を作り切った私。
『魔力の質と扱い方』の話題を思い出し、魔力の入れ方を色々試しながら作ってみたので、余計に時間もかかったし、ものすごーく疲れた。
「……さすがにしんどい」
箱詰めのポーションを見つめながら、疲労感と不思議な達成感に浸りつつ、おくすりラムネを1粒口に入れて、もそもそと噛み砕く。
甘酸っぱさが口の中に広がり、体にしみこんでゆく。
なんとなく楽になった気がして調剤室を出ると、カウンターでまたもや薬局長とオーウェン様が話し込んでいた。
見慣れ過ぎた光景に、もはやツッコむ気力もない。
「クレアさん、お疲れ様です。終わりましたか?」
「なんとか」
「わぁ、クレアさんすごいですね。午後までかかると思ってました。お昼、長めに行ってきていいですよ。ゆっくりどうぞ」
午後までかかると思いつつ、あの量を笑顔で押し付けてきたのねこの人……。
言いたいことは色々あるけれど、長めのお昼はありがたい。
完全に『飴と鞭』だわ……。薬局長、恐ろしい人。
「……ありがとうございます。行ってきます」
とりあえずご飯食べたい。おなかすいた。
がんばったからデザート付きランチにしちゃおうかなぁ。
そんなことを考えながらカウンターをでると、「じゃ俺も」とオーウェン様が立ち上がる。
「え、なんで?」
思わず敬語をつけ忘れる私。
「だって俺まだ昼飯食ってないもん」
「そうですか。それじゃあどうぞごゆっくり」
そう言って出ようとする私の後をついてくるオーウェン様。
「たまには一緒にどうだ?」
「えー、嫌ですよ。オーウェン様目立ちそうですもん」
「おごってやるのに」
「……なんでも?」
「たかが従業員食堂だろ。俺、そんなケチに見える?」
「見えませんね」
「じゃ決まりだ」
オーウェン様に押される形で私は薬局を出る。
「クレアさん、思いっきり贅沢してきてくださいねー」
のんびりした様子で薬局長が手を振っていた。
やはりオーウェン様はとても有名人で食堂に入った瞬間、周りの視線を集めまくっていた。
はじめのうちは「隣にいる人誰?」みたいな視線を感じて居心地が悪かったけれど、だんだんどうでも良くなってきた。
おなかもすいたし疲れ果てていたので、私は遠慮せずにデザート付きのランチセットをしっかりとごちそうになった。
「お前、けっこう食うな」
あっという間に食事を終えた彼は、パクパク食べる私を見る。
見るというか、観察って感じの視線。
前から感じていたけど、この人は私を動物とか昆虫とかの観察対象だと思っていそうだ。よくてペットみたいな。
「いけませんか?すごくおなかすいてたんです」
「いや、いいんじゃねぇの。見ていて気持ちいいし、奢った甲斐がある」
わりと正直なトーンでそう言いながら、彼はコーヒーを飲む。
「ただ、俺の前だとあんまり食べない女の方が多かったからさ。珍しい」
「そうですか。皆さん緊張なさってたんじゃないですかね」
「そうかもな」
「だってオーウェン様怖いから」
わざとそう付け足した私にオーウェン様は「はははっ。そーかもな」と笑った。
「今日は疲れ切ったんです。さっきポーションをたくさん作ったんで魔力もだいぶ消費したし……」
「確かにあんたの魔力だいぶ弱ってるみたいだな。色が薄くなってる」
「へぇ、そうなんですね。使うと色が薄くなるんだぁ」
ブロッコリーを食べながらそう言った時だった。
……待って。使うと色が薄くなる。魔力が弱まる……?
「オーウェン様、魔力がなくなると色って見えなくなるんですか?」
「あー、どうだろうな?すっからかんになってる奴って見たことないからわかんねぇけど……ほぼ使えないくらいで、うっすら見えるって感じかもな」
「……ということは、ルカの呪いも力を使いすぎると、色が薄くなるってことですか?」
私の言葉に、オーウェン様の目がギラリと光る。
「そうかもしれない。ただ、見たことはない」
「どうしてですか?」
「あいつが呪いの力を使いすぎると、魔力がなくなる前に、あいつの命がなくなるんじゃないかな」
「!」
そっか。そうかもしれない。
右手をつかうと、それだけでかなり負担があるみたいだから。
魔力をなくしてから、薬を飲んでもらう。
いい考えだと思ったんだけどな。
私の考えを見抜いているらしい。
オーウェン様が頬杖を突きながら言った。
「クレアちゃんさ、呪いには基本的にルールってもんがあるわけ。
で、基本中の基本は、前にも言ったけど巫女の聖なる力でないと解呪できない」
「でも私はその力と似た魔力なんですよね?」
「似てるけど、同じではないだろ?」
「でも、私の薬がルカに効いているみたいなんです」
「そこなんだよなぁ」
そう言ってオーウェン様はため息をついた。
「さっき眼鏡とも話してたんだけど、どう考えてもあんたの薬が効いてるんだよ。やっぱり内側からあんたの魔力をぶつけるってのが正解なのかもな」
薬局にこの人がいたのは、薬局長とこの話をするためだったことに私は気づいた。
ふらふらしているようで、意外と真面目に仕事をしているらしい。
「もしかしたら、巫女になる人生もあったのかもな、あんた」
「今からなれますかねぇ?」
「無理だろ。あれは確か見込みのある奴が、12歳くらいまでに洗礼を受けなきゃなれないはずだ。そこから修行だからな」
「……遅すぎましたね」
「まぁ、あんたにできることをとりあえずやればいい」
彼は空の食器が乗ったトレーをよけると、胸ポケットに手をやった。
「これ。貸してやるよ」
彼はそう言って、懐から丸い鏡のようなものを取り出した。
手のひらサイズのそれは、オーウェン様の手にすっぽりとおさまっている。
「なんですか? 鏡?」
「魔術師団員が訓練に使う魔道具。こないだ話しただろ?」
手の中の魔道具を弄びながら、オーウェン様は私を見る。
「魔力の扱い方をコントロールできるようになる。ついでに魔力も上がるっていうクレアちゃんにぴったりの道具だ」
「プロの使う道具じゃないですか! 私ができますかね?」
「誰でもできる。でも効果の出方は本人次第」
意味が分からずに首をかしげると、彼はニヤリと笑った。
「大事なのは気合いだな。センスと才能もあれば最高」
「……気合だけならあります」
「なら充分だ」
紫色の瞳に見つめられ、なんだかとんでもないことになってきたぞと思った。




