39.5 黒ルカが語る金ルカ
ユイちゃんと恋バナしたその日の特別調剤。
測定器をルカの腕に巻きつけながら、私は気になっていたことを聞いてみた。
「ルカ、新月に外へ出ることってあったの?」
私の言葉にルカはバッとこちらを見る。
「なんで?」
「今日ねぇ、メイドのお友達から聞いたんだよ。金髪のルカが噂になってるって」
「……噂?」
顔をしかめるルカ。
「なんかね、月に一度しか見かけないから幽霊に思われてるみたいよ?」
思わず笑ってしまった私に、ルカはふいっとそっぽを向く。
「……だからか」
「え?」
「遠くからすごく視線を感じてたから。振り向くと見ないふりされるし、でもひそひそ話す声もするし……おかしいと思ってた」
幽霊扱いされてたのか、と納得しているルカ。
いや、たぶんちょっと違うよ?
どちらかというと好意的な目で見られてるみたいなんだけど。
そう言ってあげようかなと思ったら、ルカがこう言った。
「新月の夜は結構出歩いてる」
「え!?」
思わず大きな声が出た。
「まさかここぞとばかりに街に出て遊び倒してるんじゃ……?」
「なんでそうなるの」
呆れたような顔をするルカ。
「新月は体が楽になるし、右手もほぼ無力化するから、普通の人間みたいに人ごみの中を歩いてみるんだ。そうしないと、自分が人間であることを忘れちゃうから」
「……そうなの?」
「うん。でもそれよりも、少し遠くへ行って草とか花に触ってみるっていうのが一番の理由かな」
ルカは測定器を見つめながら静かな声で言う。
感情を乗せないような喋り方に、私の心はきゅっと縮んだ。
『集中するとね、少しだけ灰化を遅らせることができるんだ』
そう言って花に触れる金髪のルカを思いだす。
あまり触れてはいけない話だったのかもしれない。
なんとなく申し訳なくなるけれど、ここで終わらせるのはもっといけない気がした。
「……いつもそうやって力の研究をしていたの?」
「そう。で、気づいたら朝」
華やかな見た目の裏で、とてつもなく重いものを背負っている彼。
ユイちゃんが知ったら、メイド界隈がざわつくことは間違いない。
絶対に言えないけどね。
「……ごめん、変なこと聞いて」
興味本位で聞くことじゃなかったな、と反省する。
そこで測定器がピピっと終了の合図を鳴らした。
「薬を飲んだからやっぱり少し下がっているね」
数値を紙に書きつけると、彼の腕から測定器を取り外す。
その間ずっと黙っていたルカは、捲り上げていた袖を戻しながら私を見た。
「ねぇ。クレアはそんなに新月の俺のこと知りたいの?」
「知りたいっていうか、話題になってたから……」
「ふぅん」
不満?
新月ばかりみんなに注目されるから?
「でも今のルカもちゃんと話題になってたよ」
「……あまり聞きたくない。今も新月も人の話題になりたいわけじゃない」
「でも、ちゃんと黒髪のルカもカッコいいって言われてるみたいで……」
私の言葉に、気まずそうな顔をしながらルカが言う。
「……なんでそんな話になるの?」
「え」
なんでって……
『クレアちゃん、好きな人いないの!?』
ユイちゃんのわくわくした顔が思い浮かぶ。
同時に顔がばっと熱くなった。
反射的に視線を思いっきり外して、顔を見られないように横を向いてしまった。
「な、なんでかなぁ~?」
「……変なの」
声が裏返る私に、ルカが首をかしげるのだった。




