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39.恋バナとお城のイケメン事情(メイドさん情報です)

 衝撃の新月の調剤から5日ほどが過ぎた昼時。

 従業員の食堂でユイちゃんにばったり会った。


「わ!クレアちゃん!ここで会うの初めてじゃない!?」

「ユイちゃん!一緒に食べようよ」


 ランチメニューを見ながら何を食べようかと二人でわいわい話していたら、ふいにユイちゃんが誰かに手を振った。

 視線の先を振り返ると、トレーを手に持った男の人が手を振っていた。

 あの格好は多分お城の庭師の人だ。

 彼らはたまに毒消しや傷薬、日焼け止めなどを買いに来る。


「知り合い?」


 何気なく聞くと「うん。実は彼氏なの」と恥ずかしそうに笑うユイちゃん。


「え!そうなんだぁ!!」


 私はもう一度彼を振り返ってみる。

 日焼けしていて、がっしりしているその人は、恐らく同世代くらい。

 遠目からでも明るい雰囲気を感じる素敵な人だった。


「へぇ~いいじゃない!お似合い!!」

「えー、ありがと」


 照れまくるユイちゃんに、私までなんとなくドキドキしてしまう。






「彼、宮廷庭師なんだぁ。たまたま仕事で知り合って、もう2年くらいかなぁ」


 パンをちぎりながらユイちゃんが話を始める。


「今は年に一度の花まつりの準備で忙しいらしいんだよね」

「花まつり?」

「うん。リアディスで年に一度開かれてるお祭りだよ。お城の庭園も一部一般開放されるの。まだ先の話だけどさ、その時一緒に見に行こうよ!」

「行きたい行きたい!」


 ユイちゃんの彼氏の話や、お祭りの話を聞きながら、楽しくお昼休みを過ごす。

 食後にコーヒーを飲んでいた時だった。


「クレアちゃんは彼氏いないの?」


 ユイちゃんがワクワクした目でそう言った。


「え!い、いないです……」

「えーほんとに?遠距離とかじゃなくて?前の職場に置いてきたとかそんなことない~?」

「いや、ほんとに。そういうの全然縁がなくて……」


 言ってて恥ずかしくなる。

 ほんとにね、全然なんですよ私。


 人生唯一のモテ期は、学生時代の後半。

 ルカがいなくなってからだった。

 そのころは魔薬師になるために勉強第一で過ごしていたので、まったく興味を持てなかったのだ。


「そうなんだぁ。絶対いると思ってた。将来を誓い合った彼に見送られてここに来た、とかそんな妄想までしてたよ私」

「……ユイちゃん、想像力が豊かだねぇ」


 ポロリと出た感想にユイちゃんが笑う。


「それじゃあ良いなって思う人はいないの?」

「えっ……」

「わ、固まった!もしかしているんだぁ!えー、誰々!?こっちに来てからの話?それとも、実は前から好きだった人が故郷にいるとか!?」


 盛り上がるユイちゃんに私は困ってしまった。


 私の頭の中でぼんっと思い浮かんだのは、黒髪のルカだったからだ。

 うーん……好き?というか家族?みたいな??

 うーん……放っておけないっていうか……なんだろう?

 ルカは私の中で一体何なのだろうか。


「あ、当てるからまって!」


 自信満々のユイちゃんに、なんだか思いっきり焦ってしまう。


「ズバリあの薬局長さん!!」

「……え?」


 人差し指を立てて私を見るユイちゃんに、変な声が出た。


「ほら、あの眼鏡の男の人。薬局長さんだよね?あの人じゃない?

 優しそうだし、穏やかだし、物腰柔らかくてけっこう好きなのー」

「えーと、ユイちゃんが?」

「うん。けっこう推してる」


 ……そっか。ユイちゃんニッチな趣味だったんだ……。

 でもさっきの庭師の彼とは全然違う気がするけど。

 っていうか、もしかして薬局長ってニッチて言うか普通にモテるタイプだったりするのかしら?(まさか!?)


「いつも助けてくれるいい上司だけど、それ以上ではないかなぁ」


 考えながらそう言うと、ユイちゃんはにこにこ笑った。


「そっかぁ。絶対良い人だと思うけどねぇ。でもよかった!あの人じゃなくて!

 もしそうだったらやめなって言おうと思ってたのー」

「え、なんで?」


 わりといい評価をつけてたのに?


「だってほら、あの人結婚してるもんね。お子さんいるし」


 明るく笑うユイちゃんの発言に、私は目が丸くなった。


「え!?お子さん……?」

「うん。ほら、たまにお子さん連れてくるでしょー?」

「えぇっ!?知らない!!……薬局長、結婚してたんだ?しかもパパ……」


 驚きすぎて打ち震える私に、ユイちゃんがうなずく。


「驚くよねぇ。あの若さで子持ち」

「私の今年一番の驚きかも」

「いやいや、クレアちゃん。自分が引き抜かれたことを思い出して!そっちのがすごいからね?」


 大笑いするユイちゃん。

 確かにそれはそうなんだけど。


「薬局長から全然生活感を感じない……」

「へぇ、職場でもそうなんだ?」

「うん。知れば知るほど謎」

「深いわね……落ちたら抜けられないわね」


 ひそひそ話す私達。

 確かに落ちまくってどうにもならない巫女さんがいるわ……。

 シャロン様、既婚の事実を知っているのかなぁ?

 もし知らなかったらと思うと怖すぎる。


「彼のお子さん、確かトーマ王子と同い年くらいの女の子だった気がするよ」

「わ、絶妙すぎる年齢!!ほんとの家族なの?それ?」


 預かってる親戚の子、とかそういう感じだったりしそうだけど。


「あんまり懐いてもらえなくて悲しんでいるっていう話を聞いたことがあるけど、たぶん実子だよ」

「……なんかリアルだなぁ」

「メイドネットワークをもってしても、ここまでしか知らないや」

「いや、充分すごいと思う」


 ……おそるべしメイドさん。

 メイドさんの情報網に戦慄する私をよそに、ユイちゃんがにこにこと言った。


「薬局長さんじゃないなら、オーウェン様とか?最近薬局によくいるって噂になってるよ」

「確かにしょっちゅう来てはエーテル買っていくかも」


 薬局長ともよく話(喧嘩?)をしてるし……。


「オーウェン様はまぁ鉄板だよね。メイド界隈でも常に『イケメンランキング』やら『抱かれたい男ランキング』の上位にランクインされてるよ。あの自由奔放さと俺様感がとてもウケてます。あと普通に顔がカッコいい」


「……私の知らないランキングがいくつかありそうだね」


「休憩時間はそんなことばっかり言ってる~」


 楽しそうに笑うユイちゃんに、メイドさん達の仲の良さと平和さが伝わってきた。そんなランキング付けされてることを知ったら、オーウェン様どんな顔するんだろ? (おもしろそう)


「まぁ、クレアちゃんはオーウェン様じゃなさそうだなぁ。もっと真面目路線で考えてみる」


 腕組みをして真剣に考え始めるユイちゃんを見ながら、私はコーヒーをすする。

 こういう話ってあんまりしたことなかったなぁ。


「最近厨房に入ってきた見習いシェフの人?照れた顔がカワイイって評判だけど」

「ごめん、ちょっと知らないかも」

「えー?じゃあ執事の誰かかなぁ」

「トーマ様の執事さんしか知らないよ」

「あ、じゃあ違うね。うーん……じゃあトーマ様の家庭教師さん?超ダンディ」

「……見たことない」

「魔術師団の新人くんかな?中性的な顔立ちの子」

「知らないです」


 どんどん出てくる男の人情報に私は圧倒された。

 まぁ、これだけたくさんの人が働いていれば、素敵な人もいっぱいいるよねぇ。

 それにしたってユイちゃん(というかメイドさん達)の情報網ってほんとにすごい。

 感心しっぱなしだ。


「じゃあやっぱり騎士団かなぁ」


 その言葉にびくりとする私。

 ユイちゃんがニヤニヤっと笑った。


「クレアちゃん素直すぎる!よーし当てちゃうぞ。クレアちゃんは第一騎士団確定だと思うから、やっぱり英雄のルカ様かな?」


 あー、ほら来た!絶対名前上がると思ってたのよね。

 予想していたのに、ドキドキしている自分がいるけれど。


「クレアちゃん、ルカ様を助けたんだよね?それでここに引き抜かれたんだもんね?どうだった?間近で見るとやっぱ違った?」


 私は当時の状況を思い浮かべる。

 あの地獄のような状況を、今の話題に入れていいのかちょっと悩んでしまうけれど。


「うーん、なんかもう死にかけ?っていうかボロボロだったから……」


「えっ!そうなの!?ほんとにけっこうギリギリだったんだね。

 クレアちゃんほんとに命の恩人じゃない!さすが癒しの女神!!」


 ワクワクと興奮気味なユイちゃん。

 今の姿を見ると、仕事中の彼女が本当に嘘のようだ。オンオフが激しすぎる。


「第一騎士団って、けっこうイケメンぞろいってメイド間でも人気なんだけどね、その中でもやっぱりルカ様は段違いだよねって評判がすごいんだよ!」

「そ、そうなんだぁ……」


 まぁ、確かに昔っからそういう感じだったかも。ルカに対する周囲の評価は。


「たまーに見かけるけど、すんごい綺麗な顔立ちしてるよね。英雄っていう肩書もすごいけど、クールビューティーすぎて近寄れない感じ」

「そ、そう、かな?」

「人から距離を置こうとする感じがまたいいってみんな言ってるよ」


 そんな話をしながら紅茶を飲むユイちゃんは、世間話でもする感覚なのだろう。

 でも、私はというとドッキドッキと心臓がおかしくなりそうなくらい大きな音を立てていた。

 ルカは、そういう風に世間から見られてるんだ。


 そんなこと知っていたはずなのに、なぜだか今ものすごく落ち着かない。

 幼馴染だよってことも言い出せなかった。


「でもルカ様だとちょっとクールすぎるかなぁ。クレアちゃんの雰囲気から考えると違うかも」


 クール?……ルカが……?

 頭を抱える姿や、口元を隠して気まずそうにしている彼を思い出して、ハテナが浮かぶ。


「もう一人メイド全員が推してる人がいるんだよね。もしかして知ってるかな?金髪の人なんだけど……」


 持っていたカップを落としそうになる。

 ……金髪って……まさかね?


「でも存在自体が怪しいって言ってるんだよね」

「……どういうこと?」

「金髪に緑目のものすっごいイケメンなんだけどね。もうオーラが違う。

 やばいのよ。こうなんていうのかな、はかなげ?でも優しさあふれる瞳をしていてね、あれはたぶんなにか神様からの贈り物的な人だと思う」


 記憶をたどるように宙を見つめるユイちゃん。


 あー……うん。

 その人、たぶんこないだ会った人だと思います……。

 心の中でそう報告する私に気づく様子もなく、ユイちゃんは続けた。


「月に一回くらいしかみかけないんだよね、しかも夜だけなの。

 幽霊なんじゃないかって噂まであるんだけど、私も一回だけみたことあるからたぶん人間だと思うんだよね。クレアちゃんはみたことある?」

「……たぶんあるような……」

「ほんと!?その人とかじゃない?ルカ様もいいけど、あっちの金髪の人の方がクレアちゃんには合ってそう!」


 ……ごめん、ユイちゃん。それ同一人物……。

 説明のしようもなく、私はただ黙るのみだった。


私だけが楽しい回でした(笑)

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