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38. クレアだと思うから

 薬局長の白衣騒動から、なんとか落ち着きを取り戻した私達3人。(ほんとにカオスだった)


「せっかくだから、あなたの調剤をみせていただこうかしら」


 そう言ってシャロン様は、そのまますぐそばの椅子に座る。

 いろいろなまさかの展開に頭が追い付かないけれど、とりあえずルカと二人きりという気まずさからは逃げられたのかもしれない。


 そう思って、私は「わかりました」と答える。

 ルカがなんとも微妙な顔をしていたけれど、もう見ていないことにする。


 私はたった今もらった、サイズピッタリの白衣を着ると準備を始めた。

 その時だった。


「あら?なんだかちょっと……」


 そう言ったかと思うと、シャロン様がパッと立ち上がりルカの前で屈みこんだ。

 そして、ガバッとルカの顔を両手でホールドすると、じぃっと顔を近づける。


 あまりの近さにびっくりして、彼らを見つめる。

 ルカも突然のことに固まり、そのまま彼女を見つめていた。


「……いつもと瞳の色が少し違う気がしますわね」


 彼女はそう言ってルカの瞳を見つめる。

 3秒くらい見つめあっていた彼らだったが、ルカがぱっとシャロン様の手を振り払うように顔を背けた。


「やめてください」

「あら、ごめんなさい」


 抗議するルカに、シャロン様はまったく気にした様子もなくそう言った。

 私の視線に気づいたらしいルカがちらりとこちらを見たけれど、すぐにぱっと顔をそらす。

 気まずそうな顔で口元を手で覆っている。


 ……あー、美男美女の綺麗なシーンを目の前で見てしまったという思いと、あの近さで見つめあう二人に、なんだかとてもショックを受けてしまった。


「あ、えーと……始めますね」


 そう言いつつ、なんだか泣きそうになってしまう。

 あの距離の2人を見ただけで、なんでこんなに動揺しちゃってるの私。


「クレアさん、ルカ様の瞳の色確認してみてくださる?昨日が新月だったからかしら? でも、新月明けでもこんなことなかったような……黒がいつもより明るい色にみえるの」


 シャロン様がそう言った。

 そうだ、彼女は変な気持ちなど一切なくルカを見ているのだ。彼女にも失礼だ。


 私は気持ちを切り替えて、ルカをまっすぐに見つめた。

 髪の毛は黒、顔色も問題なし、瞳はというと変わらずに真っ黒だった。

 ……どこか違うのかな?

 私、毎日見てたはずなのに全然違いに気づけないの?

 でもどう見ても黒いよね?


 ルカの瞳は不安そうに私を見ていた。

 何か言いたそうなその瞳に、なんだか泣きそうになる。


「……ごめんなさい、私にはいつも通りの黒にしか見えなくて……」

「あら、そう?じゃあ私の勘違いかしら?でもなんだかちょっと違ったのよね……」


 彼女は首をひねっていたけれど、それ以上は何も言わなかった。



 それから測定器と調剤を終え、なんとか全てが終了した。


「クレアさんの調剤、なかなか興味深かったわ」


 彼女はそう言うと、測定値を書いた紙を手に取ってぱらぱらとめくる。

 綺麗な青い瞳が「何も見落とすまい」と鋭く光っているのを見て、思わず背筋が伸びる。


「……何か気になりますか?」


 思わずそう聞く私。

 シャロン様は小首をかしげるように私を見たけれど、にこりと微笑んだ。


「いいえ。大丈夫ですわ」


 とんでもない妖精スマイルに、どきっとしてしまう。

 中身がアレだと知っていても、つい照れてしまった。


「私はこれで失礼いたします。ルカ様もご自愛くださいね」


 そう言って彼女は部屋から出て行った。



「……」

「……」


 残された私達はなんとなく顔を見合わせてしまう。


「……すごいね、シャロン様」

「まぁいつもあんな感じだから。薬局長がいるときの方が静かでいいけど」


 ルカはそう言いながら私から視線を外す。

 一番初めの気まずさはもうない。


「あ、あのね、ルカ。昨日のことなんだけど、私全然気にしてなくて、その……えーとだからルカも気にしないでね?」


 私の言葉にルカはずぅんと前に落ち、頭を抱えてしまった。

 まずい、地雷踏んだかな!?


「……あ、え、ごめん。その、なんていうかな、ほら、あれよね。呪いの魔力が弱まったら、なんか反動で人とのかかわりを求めちゃうっていうか、その……」


 何を言っているのかわからなくなってきた。

 すると、ルカが「はぁ~」っと大きなため息をつく。

 そしてうつむいたまま、ぼそりとつぶやいた。


「……クレアだから、だと思うから」

「え?」


 思わず聞き返すと、先ほどまで頭を抱えていたとは思えないくらい、まっすぐな目で私を見た。


「他の人じゃあんなふうにならない。ごめん。嫌な思いさせて」


 ルカはそう言って下を向いてしまった。


「……嫌な思いなんてしてないよ。ルカとちゃんと話せたの久しぶりで嬉しかった」

「あんまり思い出させないで……」


 私の言葉に、ルカが口元に手を当てる。耳が真っ赤だ。

 変わらない。むかしっからわかりやすくて、思わず笑ってしまう。


「……頼むからほんと、忘れて」


「昨日のルカとの約束は忘れないよ?ちゃんと話を聞くから。

 今のルカもそう。話したいことがあったら遠慮なく言ってね」


「じゃあ……全部忘れて」


「それは無理」



 この日から少しだけ、特別調剤の時間だけはルカの雰囲気が変わった気がする。

 あまり喋ることはないけれど、あからさまに避けられてる感じもしない。

 私にとってはそれがすごく嬉しかった。


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