表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/88

37.新月翌日。気まずさMAXの二人。

 いよいよ個人的に大問題かつ逃げ出したい、ルカの特別調剤の時間がやってきた。

 薬局の事務所で準備をしていた私は鞄の中身を確認し、専用の白衣を手に取る。


 ……これ、着るべき?


 青みがかった白衣を手に立ち尽くす。


 ルカの治療にあたるときは、必ず着るってきまってるんだよね。

 呪いに耐性があるみたいだし、着ないといけないよね?

 そう思って白衣を広げたけれど……


『他の男のものを着るのやめてほしい』


 昨日の夜、緑色の瞳で見つめられたことを思い出す。


 いやいやいや!だってこれ絶対着ないといけないやつだもんね!?

 私だって好きで着てるわけじゃないし、薬局長だって仕方なく貸してくれてるんだし……。


『それ脱いでね?』


 にこりと綺麗な笑顔でそう言った金髪のルカが、ボンッと思い浮かんだ。

 うっ……ちょっと無理。無理だ。


 ……脱いでおこう。また変なことになっても困るし。

 なんだかものすごく恥ずかしくなった私は、薬局長の白衣を畳むと鞄にしまった。



 *********



 医務室に入った私は、一人でぐるぐると部屋の中を歩き回っていた。

 座ってられない。落ち着かない。


「はぁ、ほんとどうしよう。どんな顔して会えばいいの?」


 昨日のあれは呪いの反動で、一時的に距離感がおかしくなっただけなのかも?


 素直になってくれたのは嬉しいけど、さすがに近すぎだもんね?

 きっと人と触れ合うということが久しぶりで、距離感がつかめなかったんだ。


 うん。きっとそうだ。

 そもそも黒髪のルカは『新月の日のことは記憶に残ってない』とか、そういうあるあるなやつかもしれない。

 だとしたら、私も知らぬふりをしておいた方がいいよね。


「よし!そういうことにしよう」


 そう決めて椅子に座ったときだった。

 ドアがノックされる。どきっと飛び上がる私。

 き、来た!どうしよう。あー、もうやだやだ。


「はい」


 声が裏返りそうになり、口元を抑える。

 ドキドキと扉が開くのを待っていたが、ドアはなかなか開かない。


「……?」


 不思議に思って見ていると、そーっと扉がひらいた。


「……よろしくおねがいします」


 見るからに気まずそ~うな黒髪のルカがゆっくりと入ってきた。

 うつむいてこちらを見ようともせず、耳はほんのり赤い。


 あー、これ全部覚えてるやつだ……。

 彼の様子を見て、逆に冷静になる私だった。





「あの、じゃあここに座ってくれる?」


 目の前の椅子を指し示すと、彼は素直にこちらへやってきた。


「……」

「……」


 しんと静まり返る部屋。

 椅子に座った彼は、ずーっと床を見ている。

 これはちょっと本気で気まずいのね、ルカ。

 どうしよう。気にしないでって言えばいいのかな?


 悩みまくっていた時だった。

 静まり返った部屋の扉が突然バァン!!と開いた。


「失礼いたしますわね!!!」


 そんな声とともに入ってきたのは、なんとあの『リアディスの麗しき巫女』シャロン・メイリーだった。


「「え」」


 私とルカの声が重なったのは、気のせいじゃないと思う。

 驚く私達を気にも留めず、彼女はつかつかと私の元へとやってきた。


「おひさしぶり、クレアさん。確認したいことがあってまいりましたわ! あら、ルカ様ごきげんよう」


 ルカへにこやかに挨拶をした彼女は、くるりと私に向きなおりぐいっと迫ってきた。


「聞きましたわよ!あなた、フランツ様の白衣を借りているそうね!?

 信じられないわ!早く脱いでくださらないかしら!?」


 そう言って私の白衣をぐいぐいと引っ張り出す。


「え、あのっ……ちょっと!!!」


 びっくりして白衣をぐっと掴むと、シャロン・メイリーはじっと白衣を見つめた。


「あら?これ、普通の白衣じゃない。フランツ様のはどこ!?

 まさか持って帰って夜な夜な眺めていたりとかしないでしょうね!?」


「し、しませんよそんなこと!鞄に入ってます!」


 私が大声で鞄を指さすと、彼女は鞄に駆け寄った。

 そして遠慮も何もなく、がさがさと中身を漁りだす。


「これね!?」


 彼女は鞄の中身をみて声を上げた。


「ちょっと!!こんな雑にフランツ様の白衣を入れるなんて信じられませんわ!!すぐに取り出していただける!?」


「え、別に出していいですけど」


「尊くて無理すぎる!!!」


「え。ええぇぇ~……?」


「はやく!!」


 かみつかれそうな勢いの彼女におされ、私は鞄から薬局長の白衣を取り出した。


「どうぞ」

「え」


 差し出すと、彼女は一気に顔が真っ赤になる。


「さ、さわるなんて、無理……死ぬ……!!」

「……必要なんじゃないんですか?」

「必要っていうか、その……あなたがフランツ様の白衣を着ているって聞いて、いてもたってもいられなかったのよ!」


 彼女はそう言って、ふと気づいたかのように言った。


「そういえばあなた、なんでこの白衣を着ていないの?それ普通の白衣でしょ?」


 その言葉に、私とルカがぴきっと固まった。


『ほかの男のものを着るのやめてほしい』

『ものすごーく嫌だから、それ脱いでね?』


 金髪のルカの笑顔と昨夜の出来事が、ぶわっと頭の中を駆け巡った。

 その瞬間、黒髪のルカと視線がばちりと合う。

 光の速さでお互いにさっと目をそらしたけれど……無理。

 恥ずかしすぎて死にそう……!!耳まで熱い!


 私達が気まずさと恥ずかしさで悶えていることなど、シャロン様は全く気づく様子がない。


「ルカ様の治療の際には着るようにって、フランツ様から指導を受けているんじゃなくて?ちゃんと言うことを聞かないなんてありえませんわよ!?」


「着ても着なくても文句は言うんですね」


「あなたのはこっちよ!急いで作らせたから私がもってきましたわ!!」


 そう言って、彼女は紙袋をぽんと私に押し付けた。


「これであなたがフランツ様の白衣を着る理由はなくなりましたわ!いいですわね!?」


「あ、ありがとうございます。助かります」


「助かります!?どういうことですか?フランツ様の白衣をお借りしていたのに助かるって……」


「いえ、あの持ってきてくださったことに対してですよ?その白衣ちょっと大きくて動きにくかったし……色々と問題が……」


 私の言葉にシャロン様は「大きめ……白衣……」とつぶやいてがくりと崩れ落ちた。

 な、なに?急にどうしたの!?


「あぁ、もうほんっとに……萌えしかない……許されるならば私が袖を通したかったけど、たぶんそれは無理。死ぬ……ほんと許せない……」


「……なんかすみません。ほんとに」


 彼女のガチ推しっぷりに、謝ることしかできなかった。

 そして、そんな私たちをルカが遠い目で見ていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ