36.頼れる大人たちとの作戦会議
「新月のデータ見ましたよ。クレアさんのポーションの効果が本当に期待以上で驚きました。薬を飲んだ後の数値、普段の4分の1くらいでしたね」
薬局長は真面目なトーンで話を始めた。
「新月で呪いの力が思いっきり弱まっている所に、クレアの魔力が入ったからか」
「おそらくそうでしょうね。もし、あの数値が続いているのであれば、今日もまだ金髪だったりするかもしれませんね」
「え!?」
それはちょっと……身が持たないというか、精神的にやられます私。
「さっき見かけたぜ。黒かった。いつも以上に死んだ目してたけど」
「そ、そうですか……(死んだ目って……?)」
「なんでほっとしてんの?」
「え、いや別にっ……」
じろりとこちらを見るオーウェン様と、にこにこっと楽し気な視線を寄越す薬局長。
なんとなく気まずい。
「さっきの続きだけど、満月の夜に作った薬を、新月に飲ませればいいんじゃねぇの?」
「ですよねぇ。ただ、そこには一つ問題があるんです」
「問題ってどういう?」
オーウェン様が薬局長をじっと見つめる。
「あ、あの、どういうことでしょうか?」
会話についていけずに質問をしてみると、薬局長がちらりとこちらを見た。
「クレアさん、薬のいい所ってなんだと思いますか?」
突然そんなことを言ってきた。
「え?」
薬のいい所?
「体の痛みを治すこと」
「そうですね。でもそれは魔術師でもできます。『薬だからこそできること』ってなんだと思います?」
薬だからこそできること……。
「えーと、誰でも使える?」
「そうそう、あとは?」
「あとは……持ち運べる、とか?」
「そうですね。あとは思い浮かびませんか?」
薬局長が首を傾けながら私を見る。
うーん、なんだろう?
一生懸命考えていると、はたで見ていたオーウェン様がしびれを切らしたらしい。
「魔法と違って薬のいい所はさ、魔力のない人間でも飲めば効果を発揮するところ。持ち運べるってこと。あともう一つは……俺たち魔術師じゃどうしてもかなわない部分」
紫の瞳がぐっと私を見つめる。
「それは、魔力を保存しておけるってことだ」
「……魔力を保存?」
「そう。魔力が最高潮である満月の日に作った薬は、新月の日に作った薬よりも効果が高い。普通は新月で魔力が落ちるから、薬だけが最大の能力を発揮するんだ」
「魔術師団の実力者が認めてくれているんですから、これはかなりすごいことだと思いませんか?」
薬局長がにこにこと笑う。
彼らの言葉にぱぁっと視界が開けた気がした。
そうか!
私の魔力が高い日に作った薬は、私の魔力がそのまま保存される……つまり……。
「満月の日に調剤すればいいんですね!」
「理論上はそうなりますね」
薬局長に笑顔で肯定され、急に希望が湧いてきた。
「まぁ、あんたの魔力が大したことなければ、満月だろうと新月だろうと関係ないけど」
「……なんでそういう嫌なこというんですか!」
意地悪な笑みを浮かべるオーウェン様に、私は口を尖らせる。
「まぁ、落ち着いてください。魔力の保存の話なんですが、一つ問題があるんですよ」
私とオーウェン様はぴたりと喧嘩をやめて、薬局長を見る。
「魔力を保存できるのが薬ではありますが、無制限に魔力を込められるわけじゃないんです」
「え、そうなの?」
「はい。魔力を元に作る薬、つまりポーションやエーテルですね。これらを作る時に使う魔道具側が、魔薬師の魔力量を自動調整するんです」
首をかしげる私と、「はー。じゃあダメだな」と理解したらしいオーウェン様。
なんでこの人今の説明だけでわかっちゃうの?
ちらりとオーウェン様を見ると、彼は「なんだよ?」と首をかしげる。
「一定の品質を作るための性能として、調剤用の魔道具が魔力を管理します。規定以上の魔力が入り込むと、魔道具が勝手にその魔力を排除してしまうんです。なので、魔力の高いオーウェン様が作っても、僕らのような普通の魔力量の人間が作っても、同じ品質を作れるということです」
なるほど。つまりカプセルに流し込む魔力を、道具そのものが管理しているというわけね。
「あれ?でも、カプセルが割れたりするのって、魔力を流しすぎちゃったりするからじゃないんですか?失敗するということは、魔道具が調整してくれてないっていうことなんじゃ……?」
現に今日は3回も調剤に失敗している。
「あぁ、それは単純に魔力の流し方の問題です。魔道具は一定量の魔力を入れたらストップします。でも、魔力を入れる際にドバっといれるとカプセルが割れる。そういうことです」
「つまり、魔薬師っていうのは『魔力の注ぎ方』のプロってことだな」
「そうですね。まぁ、失敗もありますよね。クレアさん」
「……すみません」
それなら、どんな注ぎ方をしても割れないくらいまで調整してくれればいいのに。
ちょっと集中力が切れるとパリパリ割れちゃうのよね。
「とはいえ、今の魔道具ってすごいですからね。満月になるとちゃんと魔力量を上げて調剤できるシステムになってます。人々のスタイルに合わせて魔道具も進化しているんですよ」
「ということは、やっぱり満月の日に作った薬は、いつもより効果は高め、ということですよね?」
期待を込めて薬局長を見ると、彼は小さくうなずいた。
「まぁ気休め程度かもしれませんけどね。僕ら魔薬師の魔力量は微々たるものなので。とはいえ、新月にはありがみを感じてもらえるものであることは間違いないですけど」
「そうなんだよなー。薬持っていくから、新月は魔術師出てくんなって言われる言われる」
心底嫌そうな顔をするオーウェン様に、私はびっくりする。
「え、オーウェン様でもいわれるんですか?」
「いや、俺は言われないけど……逆にしんどいんだよ。新月の仕事は全部俺に回されるから」
天才も大変なのねと思っていたら、薬局長が「そういう時くらいしっかり働けばいいじゃないですか~」と笑う。……強いな、薬局長。
「魔薬師に必要であるという点では、『魔力量』というよりも『魔力の質』の方が大きいかもしれませんねぇ。クレアさんがいい例です」
薬局長はそう言って私を見る。
「ふぅん。魔力の質っていうのは、魔術師にはない発想だな。おもしろ」
オーウェン様も私を見る。
2人にじろじろと見られて、なんとも居心地が悪い。
「……えーと、つまりもっと質を上げればいいということですか?」
「質を上げる……どうやってやるんでしょうね?」
「考えたこともなかったな」
そこでやっと彼らは私から視線を外す。
「質を上げるというよりも、とりあえず魔力の扱い方をもう少し自在にできるようになってみたら?」
「そうですねぇ。扱い方はお上手ですが、今は無意識みたいですし」
「コツをつかめば、もうちょっとマシになるかもな」
「クレアさんも普通味のポーションをつくれるようになるかもしれませんね」
「……それは困る。っていうかお前はやっぱり絶対味落としてつくってるよな?」
「言いがかりですってば」
すごく簡単な話をしてるみたいに聞こえるけど、とんでもないこと言ってるわね、この二人。
「私は、調剤をもう少し研究した方がいいってことですよね?」
「そうですねぇ。魔力を込める時に、色々と試してみるといいかもしれません」
簡単に言ってくれるけど、それってどういう風に??
「感覚派のクレアちゃんには説明するよりも、慣れてもらうほうがいいんじゃねぇの?」
顔をしかめる私に、オーウェン様がぐいっと近づく。
「もっと簡単に、魔力が扱えるようになる方法がある。ついでに魔力も上がる」
「本当ですか!?」
「ほんと。魔術師団の基礎を教えてやるよ」
ニヤリと笑うオーウェン様に頼もしさを初めて感じた。
その時、お店から先輩の声が飛んでくる。
「クレアさーん!そろそろ戻ってきて!!」
「あ」
そうだ。私5分休憩を仕方なく許された身だった!
「すみません、戻ります!」
「はいはい。お願いしますね」
「じゃあまた今度な」
ひらひらと手を振る彼らに頭を下げると、私はお店に戻るのだった。
……っていうかオーウェン様も仕事に戻ったら?
説明、長くてすみません……。




