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35.新月の翌朝は一人反省会をしています

「はぁ……」


 ほとんど眠れずに朝を迎えた。

 身支度を整えるために鏡へ向かう。


 映っているのは黒髪・黒目の見慣れた自分。

 じっと鏡の中の自分を見つめてみるが、金髪・緑目の男などどこにもいなかった。


 ふっと彼女の顔が思い浮かび、頭を抱えてしゃがみこむ。


「……最悪だ。消えたい……」


 昨晩の出来事がただただキツイ。


 かなり恥ずかしいことを言ってしまった。

 そして、彼女が拒まないのをいいことにあれこれ要求してしまった気がする……。

 ペラペラとだいぶ余計なことも喋ってしまった。


 文句を言いたいところだが、相手は目の前にいない。

 なにせ相手は自分自身なのだ。


 抱きしめた感覚もしっかりと覚えている。

 思った以上に小さくて、柔らかくてびっくりした。

 可愛いと口走ってしまった昨日の自分を本当に殴りたい。

 でも「よくやった」とも思う自分がいる。(正直それが一番だったりする)


 クレアも金髪の俺に驚いていたけれど、どこか安堵したような優しい目でこちらを見ていた。今の俺にはあんな目を向けたことなどない気がする。


 触りたくても触れなかった彼女に、たった一日で距離を縮めてしまった昨日の自分。我ながら引く。どれだけ強引に迫ってしまったのだろう……。


 しゃがみこんだまま右手を見る。


 右手に呪いの力がしっかりと戻っていた。

 昨日とは全然違って、いくら抑えようとしても無理だと感覚でわかる。

 重苦しい、熱い感覚が右手にねっとりと絡みついているのだ。



 これがあるから、俺はクレアに触れない。

 その想いの反動で、きっと新月の俺はおかしくなってしまうのだろう。


 ……昨日の調剤終了後に「帰したくない」とか言った気もするんだよな……。

 言ってないと思いたいけど、たぶん言った。

 クレアは困ってたというか、呆れてたのかもしれない。


「どんな顔して会えばいいんだよ……」


 逃げ回ったとしても、夕方にはまた医務室に行かなければいけない。

 覚悟が決まらないまま、のろのろと身支度を始めるのだった。






「クレアさん、ポーションまだ!?」

「す、すみません!もうできます!!」


 先輩にせかされ、私は慌てて調剤室から返事をする。

 今日はカプセルに魔力を注入するところで3回も失敗している。

 こんなのは学生の時以来で、いかに集中できていないかが自分でもわかってしまう。


 なんとか仕上がったポーションを運ぶと、それを受け取りながら先輩が言った。


「5分休憩したら?今ならお客さんも少ないから」

「……すみません」


 効率第一の先輩に頭を下げると、私は事務所に入った。



「はーーーーーー」


 ふかーいため息が漏れてしまう。

 だめだほんとに。今日は無理です。

 自分の机に突っ伏して目を閉じる。


 昨晩の出来事がぶわっと思い出された。

 金髪で緑色の瞳、柔らかな笑顔、抱きしめられた感覚……。


 極めつけは帰り際だ。

 なかなか部屋から出してもらえなかった……。

 いつもはさっさと先に帰っていくのに。


「うぅうぅ~~~無理無理!!」


 机におでこをこすりつける勢いでうずくまる。

 ドキドキしてどうしようもない。


 これ、夕方の調剤どうするの?

 今日全然うまくできないのに、ルカの目の前で調剤なんて絶対失敗しちゃう。


「もう帰りたい……」


 そうつぶやいた時だった。


「大丈夫ですか?クレアさん」


 その言葉に顔を上げると、薬局長が私を見ていた。


「す、すみません。大丈夫です。薬局に戻りますね」

「あぁ、いいんですよ。少し休んでくださいね」


 彼はそう言って立ち上がりかけた私を座らせると、隣の席に座った。


「……」

「……」


 え、なんですか?私、怒られる?(調剤3回も失敗したのバレてた?)


「……あの?」


 おそるおそる口を開く。

 すると、目を閉じうつむいていた薬局長が静かに言った。


「昨日どうでした?」


 その言葉に私はぼんっと顔が赤くなるのがわかった。


「あー、いい反応。期待どおりでしたね」

「……なんで教えてくれなかったんですか?」

「クレアさん驚くかなぁと思って」


 軽い感じでそう言って、にこにこ笑う彼に脱力した時だった。


「期待を上回った感じだよなー」


 後ろからそんな声が聞こえた。

 まさかと思い振り返ると、ニヤニヤ笑う天才魔術師。

 こちらにやってきたかと思うと、私を挟んで薬局長の反対隣りに座った。

 ……すごい両側からの圧が……。


「なにをそんなに赤くなったんだろうなぁ?」

「そりゃあ久しぶりに会ったんですから、盛り上がりもしますよね。いつもより遅く帰ってきましたし」

「へぇ~。っていっても結局触れないわけだし、けっこう拷問だよなー」

「純愛と言ってくださいよそこは」

「あの、さっきから何の話です?」


 やだもう、この二人が一緒にいるといいことない。


「なんでオーウェン様がここにいるんですか」

「そりゃあ面白そうだからに決まってるだろ」


 な?と薬局長を見るオーウェン様。薬局長も全く否定する様子がない。


「仕事してくださいよ、2人とも」


 いい大人がなにしてるのか、もう意味がわからなかった。



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