3.普通な私と幼馴染の独占欲(人のものを食べないでください!)
教室に入ると友人が声をかけてきた。
「おはよー、クレア。今日もイケメン幼馴染君と一緒だったねぇ」
「うん、家が隣だからねぇ。小さい時から一緒だからもう弟とかそんな感じだよ」
「ふぅん。恋愛にはならないの?あんなにかっこいいのに~」
「ならないならない。大体ルカはかっこいいっていうか可愛い寄りじゃない?」
「クレア、それたぶん姉目線」
彼女の言葉に首をひねる。
「ルカだって私のことをただの幼馴染だと思ってるんだから普通じゃない?」
「そうなの?」
「うん。そうだよ。最近ちょっと私を年上と思っていなそうな所があるけど……」
私の言葉に、彼女は考え込むようにあごに触れる。
「……漫画なら絶対あるのになぁ。モテモテのイケメン幼馴染とあれこれあっていい感じになるやつ」
「それは漫画の読みすぎだよー!そもそも幼馴染からそれ以上の関係になるって現実にあるのか疑問だよ」
「え~そんなもんなのかなぁ」
「相手が美人ならわからないけどね。普通はありえないでしょ」
夢が壊れた~と頭を抱える友人を見て、私は思わず笑ってしまった。
実は今までにも何度かこの手の質問をされている私。
だいぶ慣れてきたけれど、昔はドキリとしたものだった。
あれは私が8歳くらいの時だろうか。
私とルカが学校に通い始めた頃、クラスのあまり話したことのない女の子にいわれたことがある。
「ルカくんはクレアちゃんのこと好きじゃないと思うよ」
突然そんなことを言われた無垢な私はびっくりした。
「……でもルカと仲良しだよ?」
そう言った私を彼女が一瞬ものすごい目でにらみつけてきた。
そしてすぐに作ったような悲壮感たっぷりの顔になる。
「ただの幼馴染だから仕方なく一緒にいるだけだよ」
今ならそれがひがみだとわかるけれど、あの頃はその言葉がまっすぐに入ってきた。
彼女はさらにこう続ける。
「クレアちゃんは普通だから、たぶんルカ君はクレアちゃんのこと好きじゃないと思う。あ、でも可愛くないわけじゃないよ?可愛くないっていうか普通だから」
「普通ってなに?普通の何が悪いの?」と子どもの私が言えるわけがない。
たぶん、あの子はルカのことが好きだったのだろう。
彼女はとりまきみたいな子に「クレアちゃんより可愛いからきっとルカ君が好きになってくれるよ」みたいなことを言われながら去っていったのだった。
とても嫌な気持ちがしたけれど、それ以来「ルカとは幼馴染」ということを強く意識するようになった。
よくわからない言いがかりをつけられたくなかった。
それに、「普通な私」がルカと一緒にいると笑われる、という意識をなぜか持つようになってしまったのだった。
今でも心の奥底でその思いが小さく残っている。
午前中の授業を終えると、私はそのまま学食へと向かった。
なんだかとてもおなかがすいていたのだ。
他のクラスメイト達は調剤の実習で作ったポーションを握りしめ「騎士科に持っていこう!」「あの人に試してもらいたいなぁ」「今日こそ声をかける!!」と訓練場へ走っていったのだけれど。
中には「ルカくんに渡したいよねー」と言っている子もいた。
ルカめ、なんて罪な男なんだ。学生時代を謳歌するがいい。
そんな思いでAランチごはん大盛りを一人で食べていた時だった。
目の前のいすをガタリと引いて生徒が一人座るのが見えた。
こんなに空いてるのにわざわざ相席するの?と思い顔を上げると
「クレア。なんでご飯食べてるの?」
と不機嫌そうに頬杖をつくルカがいた。
「なんでってお昼だから」
突然の質問に驚きつつもそう答えると、ルカは口を尖らせる。
「薬もらえると思って待ってたのにクレア全然こないんだもん」
「えー、だってどうせたくさんもらったんでしょ?」
「もらってないよ。クレアのがほしかったんだから。他の人の美味しくないんだもん」
そう言ってつまらなそうな顔をするルカ。
薬が苦手な子どものようだ。
「帰ったら渡せるでしょ?それに私すっごいおなかすいてたの」
今日のAランチはチキンステーキにサラダ、ご飯、スープだ。
Bランチと迷ったけれど、副菜にポテトサラダがついているAランチに決めたのだ。
「美味しそう。いいな」
「うん、美味しいよ。でもBランチはルカの好きなハンバーグだったよ」
「ほんと?じゃあBにしようかなぁ」
「副菜はマッシュポテトだったけどね」
そう言って残り一口のチキンステーキをフォークで刺して食べようとした時だった。
「ちょっとちょうだい」
そういうが早いかルカは私の手首を掴み、チキンステーキをぱくりと食べた。
「え」
固まる私ともぐもぐするルカ。
一瞬周りがざわついたのを感じて身が縮む。
「うん、美味しいね。これもいいなぁ。でもやっぱりBランチにしようかな」
ステーキのなくなったフォークを手に、私はカッと顔が熱くなるのを感じる。耳まで熱い。手首もルカに掴まれた部分だけが熱を持っている気がした。
周りのざわめきが全て自分に向いているようで消えてしまいたくなった。
のん気にもぐもぐしているルカをにらみつける。
「なにしてくれてんの?」
「え、ごめん。嫌だった?昔はよくこうしてたでしょ?」
「何年前の話してんのよ!」
つい口調が強くなる私にルカはいつも通りの笑顔を見せる。
「ハンバーグ一口あげるから許してよ」
「けっこうです!!」
ふんっと顔をそむけると、ルカがくすくす笑った。
「ごめんね。じゃあお詫びにプリン買ってくるから待ってて」
「……いらない。もう教室に戻るから」
「そうなの?一緒に食べようと思ったのに」
無理に決まってるじゃない。この子、周囲の視線に気づいてないわけ?
もしかしてチクチクと痛すぎる視線は私だけに向けられているのだろうか?
「どうぞごゆっくり!」
私はトレーを持つと、逃げるようにその場を離れた。耳は熱いし、顔が上げられない。
今までにない幼馴染の行動が理解できず、落ち着かない気持ちで私は学食を出た。
********
「はぁ~。断られてばっかりだなぁ」
ため息をつくルカの肩をぽんと叩いたのは同じ騎士科の生徒だった。
「ルカ。お前、なにやってんの。公衆の面前でいい度胸してるな」
呆れた目を向けてくる彼にルカはにこりと笑う。
「だからだよ。周りの男を牽制しておかないとね」
「ふぅん。お前でもそんなことするんだ? でも相手の人が可哀そうだし、なんか振られてる感あったぞ」
「うん、振られてばっかり。ここまでが一連の流れって感じ」
「ははっ、ざまーみろ。お前みたいに常時モテてる奴が振られてるところみるとスカっとするぜ」
彼はそう言ってニシシと笑う。
「ひどいこというなぁ。俺、一回も好かれたことなんてないんだけど」
「あんまりふざけたこと言うとマジではったおすぞ?」
「いやいや、ほんとだって。全然幼馴染から昇格させてもらえない」
「幼馴染ってあの薬学科の人?へぇ~そうなんだ。確かにあの人可愛いタイプだもんな。確かめちゃくちゃ美味いポーション作ってくれるんだろ?」
「……クレアのこと見ないでくれる?穢れるから」
「お前、そんなキャラだったの?」
彼の言葉にニヤリと笑うルカだった。
この3日後、彼はクレアの前からいなくなるのだった。
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