32.悪い大人たち
ルカの特別調剤を始めてから4日ほどが経った。
どちらかというと気まずい雰囲気で(たぶん初回でころんだ私が、変に意識しすぎてるのかもしれないけど)、この4日間調剤をしている。
……効き目、あるのかなぁ。
ちゃんとした効果が出てないと「いったん特別調剤はやめましょう」って言われそうで怖い。
一応数値は下がるんだけど、次の日には戻っているんだよね……。
「はぁ~~どうしよう」
思わずため息をついてしまう。
借り物の大きめ白衣をベルトで丈調節し、袖をまくる。
もう絶対に転ばないために、とりあえずあちこちの長さを整えた。
見栄えがいいのかはかなり謎だけど、この際仕方ない。
私は準備を済ませて事務所をでる。
カウンターには薬局長と話し込むお客様がいた。
「あぁ、クレアさん。お疲れ様です」にこりと笑う薬局長と
「なんだその服。幼稚園児か?」と面白そうに私を見るオーウェン様。
「うわ、いらしてたんですか」
「そんな嫌そうな顔すんなよ。客だぞ」
そう言って、彼はエーテルの入った袋をこちらに見せる。
薬局の昼休みに突然現れたあの日以来、オーウェン様はこの薬局にちょくちょく現れるようになった。
普通、階級の高い人はここには来ない。
はじめのころは、他のお客様も先輩魔薬師達も戸惑っていた。
そんな周りの視線などどこ吹く風で、彼はカウンターのスツールに堂々と座っている。
「なぁ、クレアちゃんからも言ってやってくれよ。この人、俺にエーテル売ってくれねぇの」
「売りましたよ。ただ指名制度は取ってませんので」
「別に指名してないじゃん。そっちの瓶にしてって言っただけだろ?」
「あなたの場合、それは指名になるでしょう?」
何言ってるのかわからない。
二人は知り合いだったのかなぁ。
会話に入る隙もなく、私はぼんやりと彼らを眺める。
「はーあ。まったく冷たいよなぁ。わざわざ買いに来てるのにさ。なぁ、クレアちゃん、あんたほんとに俺の専属魔薬師になってくれない?」
え、なにかまた言い出してると思ったら、薬局長がいつもの調子でバッサリ答えた。
「だめですよ。クレアさんは大切な王宮内薬局の人間ですからね。ジュース代わりにエーテルを飲むような人のために調剤はさせません」
「せっかく頑張って働いてるっていうのに、好きなものも飲ませてもらえないわけね」
オーウェン様が頑張って働いている姿というものを、まるで想像できないのはなぜだろう?
「副作用がないとはいえ薬ですしね。どれを飲んでも効果は同じですよ」
「同じなら美味いやつを飲みたいだろ」
気持ちはわかるなぁ。昔ルカも同じようなこと言ってたし。
「オーウェン様に僕の薬がお気に召してもらえなくて悲しいです」
「だって、あんたの薬わざと味落としてる感じするんだよな」
「そんなことないですよー。一生懸命作ってるんですからね」
「嘘くせぇなぁ。絶対手ぇ抜いてるだろ」
「そんなことないですって。変態の次は手抜き呼ばわりですか。悲しいです」
「あんた、全部嘘っぽいよなぁ。変態、手抜き、嘘つき」
「さすがに傷つきますよ、その3つ」
わいわいし始めた二人。
……私この場を去ってもいいかしら?
そう思った時だった。
「まぁ、オーウェン様はおいといて、クレアさんこれから行くんですよね?ルカくんの特別調剤」
薬局長がいつもの笑顔で私を見る。
「はい、そろそろ行こうと思います」
「へぇ~これから行くんだ?……今日は新月だな」
「新月?」
首をかしげると、薬局長が言った。
「新月の今日は、貴重なデータが取れると思っていますのでよろしくお願いしますね」
「貴重なデータ?」
「薬の服用前と後、なにがあっても忘れずに二つ取ってください」
「俺も楽しみ。数値化されるのは見てみたい」
「新月だとなにかあるんですか?」
目の前の二人の様子が気になる。
「期待させてもいけませんから、とりあえず自分の目で確認してきてください」
「???」
変なの。
不思議に思いながら私は薬局を出た。
「驚くよなー、あれ」
「驚きますよねぇ。前情報なしだと」
「……」
「……」
「あんた性格悪いな。なんで教えてやんねぇの?」
「一番言われたくない人に言われましたねぇ。あなたこそなんで教えなかったんですか?」
「そりゃあおもしろそうだからな」
「同感ですね」
悪い大人たちは笑いあうが、すぐに真面目な顔をする。
「まぁ、冗談はおいといて、今日のデータ俺にもちゃんと見せてくれよ?」
「わかってます。あなたの意見を参考にしたいですから」
次回はいよいよ新月です……!!




