22. イケメンムーブな小さい王子
翌日の午前中、私はトーマ王子の部屋へとやってきた。
風邪気味だ、という王子に調剤をするためだ。
「クレアちゃん!!まってたよ」
ぱぁぁっと笑顔で私の元へかけてくる王子のかわいらしさに、寝不足の頭がしゃきっとした。
なんて可愛いのでしょう!胸がきゅっとなる。
「トーマ様、こんにちは。お加減いかがですか?」
「うん、もうほとんど治ったの。でもね、クレアちゃんに会いたいし、甘いお薬も飲みたいから来てもらっちゃった」
王子はそう言ってにこっと笑った。
あぁ、癒される。
「そうなんですね!体調がいいならよかったです。私もトーマ王子にお会いできてうれしいですよ」
「ねぇねぇクレアちゃん、お薬飲んだらクレア姉さまにお手紙かこう?」
「いいですよ。書きましょう」
ということで、嘘みたいに穏やかで和やかなひと時がはじまった。
王宮内薬局に来てから半月が立つけれど、疲れがピークに達していた私にとって、王子とのひと時はご褒美だ。
薬を飲んだ王子はとっても機嫌がよく「お外で描きたいなー!ピクニックみたいにしようよ」と無邪気に笑った。
大人達はみんな彼にメロメロで、「じゃあ用意しましょうね」と急遽お城の庭園でのピクニックが開催となる。
パーゴラの下に美しくセッティングされたテーブルはもはやお茶会だった。
私がイメージした『シートを敷いてのピクニック♪』とはだいぶ違い、一瞬たじろいでしまった。
それに加え、いつもいるトーマ王子の護衛騎士だけでなく、少し先にも数名の騎士がいるのを見えたので「あ、そっか。この子、王子だった」
そんな当たり前のことを再認識させられた私だった。
それでも柔らかな光と静かな緑に囲まれ、とても居心地の良い時間が流れていく。
さて、手紙を書きましょう、というところでトーマ王子が言った。
「ねぇクレアちゃんの『おまじない』、僕にも一つくれる?」
「おまじない?」
「うん、お薬作る前にいつも食べるやつ。あれ、ラムネなんでしょ?うまくお手紙かけるようにっておまじないしたいの」
キラキラと目を輝かせる王子。
執事さんをちらりと見ると、彼はにこりとうなずいた。どうやらいいみたい。
「わかりました。はい、どうぞ」
私は、おくすりラムネを一つ取り出す。
「わぁ、ありがとうクレアちゃん」
トーマ様は大切そうにそれを受け取ると、かさかさと包みを開ける。
そして嬉しそうに口に頬張った。
「……あまーい!美味しい!」
彼はもぐもぐしながら、頬に手を当てる。
王子の金の髪が、日に透けてキラキラ輝く。
「クレアちゃんのラムネ、すごく効いた気がする!!これで上手に描けそう!」
にこっと微笑む彼に、胸がいっぱいになった。
幼い頃のルカを見ているような錯覚に陥ってしまったのだ。
だからだろう。
「よーし!がんばるぞー!」とテーブルに向かい、手紙を書き始めるトーマ王子の頭を思わずなでてしまった。
その瞬間、トーマ様が顔を上げ私を見る。
ぱちりと合う視線に私ははっとした。
「はっ!し、失礼しました!!」
私はぱっと手を放し慌てて謝る。
王子様に触れてしまうなんて、とんでもないことを……!
「ううん、お姉さまに会えたみたいで嬉しいよ」
トーマ王子はにこにこ~っと笑うと私の手に触れた。
「クレアちゃんなら全然いいよ」
……イケメンムーブすぎる。
私はこの幼い王子に、見事狙い撃ちされたのであった。
「できた!これ、クレア姉さまのお顔」
「え、うわ、なんて可愛らしい……!!」
見せていただいた絵が本当に可愛らしくて涙が出る。
4歳児の絵って、こんなにもピュアで可愛らしいの!?
私だったら家に飾って一生の宝ものにする。
「きっとお姉さまもお喜びになりますね」
「えへへ」
トーマ様は恥ずかしそうに笑うと、今度は別の紙を差し出した。
「?なんですか?」
「こっちはね、クレアちゃんにお手紙。昨日かいたんだよ」
そう言って、にこにこ笑うトーマ王子を抱きしめたい衝動を何とか抑えて、私は手紙を受け取った。
そっと開けてみると、そこには私と思われる人物が中央に描いてあり、周りは黄色やらピンクやらでなにかぴかぴかと光っている。
ポーションの瓶らしきものもある。
「これね、初めて会った時にお薬を作ってくれたクレアちゃんだよ」
彼はそう言って私をじっと見つめた。
感想を待っているようだった。
「すごくすごく嬉しいです!綺麗な色をたくさん使って塗ってくださったんですね!可愛い!!」
興奮気味に話すと、王子も興奮気味にうなずいた。
「うん、だってぴかぴかしてたからね!これ、クレアちゃんの髪の毛のリボンだよ」
私のバレッタまでちゃんと描いてくれていて、あの日あの部屋で調剤した短時間の間に、こんなに私のことをみていたんだなと感心した。
「トーマ様。ありがとうございます!これ、私の宝物にしますね!大事にします!!」
手紙を胸に当てながらそう言うと、トーマ様が嬉しそうに笑った。
その顔が本当に可愛らしくて、存在が天使過ぎて、私は本当に抱きしめたくなった。
ダメダメ!相手は王子様なんだから!幼児に対するセクハラになってしまいますから!!
そう自分を制して、なんとか我慢する。
「どうしたの?クレアちゃん」
首をかしげる王子に、「なんでもないです」と笑顔を見せつつ、なんとか自制できた自分をほめる私だった。
この穏やかな時間が、一瞬にして奪われることなど、この時の私は思ってもいなかった。




