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20. 謎の男と幼馴染の冷たい視線

 昨日のあれは夢だったのだろうか?


 閉店間際にルカがやってきたこと。

 ……なんだか頭の中がぐちゃぐちゃで、まるで夢のようだった。


 触れられた頬をなぞってみると、ものすごくドキドキしてきてしまった。


「……だめだ!また失敗したら迷惑かけちゃう」


 頭をぶんぶん振ると気を取り直して、ガラガラと台車を押す。

 たくさん積んだ薬を演習場の倉庫にしまい、在庫確認をするのが今からする仕事だ。


 ……ルカ、いるかな?

 そんな想いで少し落ち着かないけれど、演習場に入るわけではないので会うこともないだろう。

 目的は倉庫なのだ。

 わかっていてもそわそわする。


 廊下を進んでいくと後ろから声がした。


「あ、もしかして癒しの女神?」


 その言葉に思わず振り返ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。

 騎士団ではない制服を着ている。

 っていうか着崩している。どこの制服だろう?


「……薬局のものです」

「あぁ、そっか。そうだったな」


 彼はあっさりとうなずくと、つかつかと歩いてそばまでやってきた。


「あのさ、エーテルある?」

「エーテル?」

「そうそう。あんたの作ったやつ。演習場においてあるやつは全部違うみたいなんだ」

「……わかるんですか?見た目はどれも変わらないはずですけど」


 私達本人にだって見た目じゃわからない。


「いや、わかるよ」


 そう言って彼は勝手に箱の中を覗き込む。

 え、あー、ここで探す感じですか?

 思わぬ行動に驚いていると、彼はごそごそと箱を探りながら言った。


「そういえばさぁあんた、こないだの慰労会大変そうだったな」

「え?」


 何のことかわからずに顔をしかめると、彼は楽しそうに笑った。


「騎士団に囲まれてビビりまくってただろ?

 あれ、狼の群れに子羊が迷い込んだ感じだったな」

「……いらっしゃったんですか?」

「ちょっと興味があったから、少し覗いてみただけだけどな」

「はぁ……」


 あれって興味があるからって覗けるものなの?

 緊張してたから全然覚えてないけど、そんなフランクなやつだったのかしら?


 必死に記憶をたどろうとする私とは対照的に、のんびりと次の箱を探し出す彼。

 一つにまとめた長い髪の毛が、肩からさらりと落ちたけれど、全く気にする様子がない。


「癒しの女神なんていうからどんな色っぽい女かと思ってさ、ちょっと見にいったわけ」

「……すいません、ご期待に沿えなくて」


 暇なのかしらこの人。

 癒しの女神という響きに色っぽさを感じたのは、あなただけだと思いますけど。(いや、でもわりとみんなそう思ってたらどうしよう)


「はははっ!いや、ちょうどいいんじゃねぇの?あんたみたいなのが美味い薬作ってるならさ、健全な気がするけど」

「……ちょっと意味がわからないんですよね」

「子どもから大人まで、安心して飲めそうだなと思ったわけ」


 あぁ、そういうことか。

 彼の言葉にトーマ様や、ゆるゆる薬局の常連さん達を思い出す。

 私が納得した時だった。


「あ、だめだ。ないや。あんたポーションばっかり作ってるんだな。騎士団専属ってわけじゃないんだろ?」


 そう言って、彼はつまらなそうに顔を上げた。


「エーテルも作っておいてくれよ。今度直接買いに行くからさ」

「わかりました」


 これ、注文という扱いになるのかしら?

 注文票をだしたほうがいいかなと考えていると彼がいう。


「あー、ほら。なんかすっごい睨まれてる。みんなの女神サマなのにな」


 彼の視線の先を見て、思わず声が出そうになる。

 演習場の入り口に立ち尽くすルカが、冷たい表情でこちらを見ていたのだ。


「オーウェン様、時間が過ぎています」

「あー、悪い悪い。今行くよ」


 低いトーンで淡々というルカに、オーウェン様と呼ばれた彼は軽い調子で手を上げる。


「これから合同演習。たぶんこのポーションなくなるから補充よろしくな」


 そう言って彼はさっさと歩いて行く。

 ルカも彼について演習場に入っていった。

 私のことを一度もみることなく。


 胸の奥がずきりと痛み、無意識に出たため息は少し震えていた。







 その日の夕方、薬局にて。


「これ、なにごとでしょう?」


 作ったそばからポーション、ハイポーションがごっそりと減っていく。

 いつもひょうひょうとしている薬局長も、さすがに苦笑していた。


「さっき在庫確認に行った時に、髪の毛の長い男の人が合同演習って言ってました」


 ポーションの補充よろしくとか言ってたけど、これは冗談ではなく在庫がなくなる。

 なにかを察したらしい薬局長が苦笑した。


「なるほど……死人が出ないといいですけどね。あちらも、僕らも」


 演習場に箱ごと運ばれていくポーションたち。

 残業確定となった私たちに、薬局長が特製気付け薬を配って回り始めたのであった。







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