17.人生最大のスカウト!判断基準は幼馴染の英雄です
王宮生活4日目。
もういいよ、というほどに濃密な3日間を過ごした私。
さすがに今日はおつかれさまでしたー、って感じで放っておいてもらえるのではないだろうか?
なんて、そんなことはやはりなかった。
4日目にして、なんと国王陛下からの呼び出しを受けたのである。
「……もうほんとに無理なんです……風邪ひいたってことにしていただけませんか?」
「薬を飲めって言われちゃいますから無理ですよ」
泣きついたメイドさんにそう返され、本当に泣きそうになる。
彼女とは4日間の付き合いになるけれど、けっこう波長が合うようで、だいぶフレンドリーになってしまった。
「怒られる訳じゃないのでどーんと構えて行ってきてください。
むしろ感謝される側なんですよ。ご褒美をたくさんもらえると思って!」
メイドさんは、そう言いながら恐るべき手際の良さで、私を国王陛下にお会いする仕様に変身させた。
「完璧です!では行ってらっしゃいませ」
そう言って私を送り出した。
国王陛下は新聞で見るよりも優しい表情をしていたけれど、ものすごいオーラがあった。
4日目にしてラスボスに出会った私だったけれど、これまでの出来事で免疫ができたのか、感覚麻痺してきたのか、だいぶ落ち着いて挨拶ができた。(といっても声がうわずってしまったけれど)
通されたのは、昨日王妃様とお会いしたティールームだった。
一度来た場所なのは、落ち着いてお話できるようにという王妃様の配慮らしい。
こんな庶民に気を使ってくださるとは、なんて素敵な方なんでしょう!
これまでのお城での出来事(騎士団とのやり取りや、トーマ様のお薬の話など)を和やかな雰囲気で話した。
特にトーマ様が、私の薬を気に入ったことを王妃様はとても喜んでいた。
そして、今私は人生を揺るがす、とてつもない判断を迫られている。
「ベネット嬢、ぜひ我が城の魔薬師になってくれないか」
一応疑問形ではある。
「騎士団を助け、その部隊にいた国の英雄を助けたことは、つまりこの国を救ったことになるのだよ。その力を今後も貸してほしい」
「トーマもあなたの薬で元気になれるはずです。国の未来を担うあの子のためにもぜひお願いしたいですわ」
「身に余る光栄ですが、私はすでに街の薬局で働いております」
ドキドキしながらそう答えると、陛下は小さくうなずいた。
「うむ。ルネの街の薬屋だったな。そこのオーナーからは許可をいただいているぞ。
ベネット嬢の力が国の力になるなら、と言ってくださった」
「え!?」
……なんかもうこれは、はじめから私を引き抜く気満々だったかんじよね?
だってわたしがここにきたのって一昨日の夕方……。
「でも、私なんかがお城の魔薬師が務まるか不安ですし」
「薬局長からはお墨付きをもらっている。むしろ早くベネット嬢を迎えたい、ということだ。今人手が足りていないらしいのだ」
あの丸眼鏡……!!
確かにそんなことを言っていたけど、でもまさかこんな急に?
「どうだろう?ベネット嬢。あなたの力を我が国のために使ってもらえないだろうか」
「わたくしからもお願いいたしますわ」
「とはいえ、今すぐ答えを出すのは難しいであろう。明日の昼に返事を聞きこうか」
「そうですわね。クレアさん、よく考えてくださいね」
穏やかだけれど、目力のすごい国王陛下とにこりと微笑む王妃。
「いい返事を期待しているよ」
最後にそう付け加えられた私は、引きつる顔を何とか笑顔にしようとするのだった。
その晩、私はぼんやりと空を見上げていた。
部屋のバルコニーから見える半月が浮かぶ空は、なんとなく薄暗い。
星もあまり見えない。
「……まさかこんなことになるなんて……」
あの町の古い薬局で調剤していたのが、ほんの数日前だなんて思えない。
色々ありすぎて訳が分からない。
どう考えたって、私はもうあの薬局には戻れない。
だって、国王陛下たってのお願いだよ?
それに私の薬をとても評価してくれて、トーマ王子も喜んでくれて……。
「ここで薬を作れば、ルカに私の薬が届く……」
そうなのだ。
そういうことだ。
彼がどんなに私を拒否し、彼と直接会わなかったとしても、私の薬はここならば確実に届く。
彼が望まなかったとしても。
「……こわっ。自分で言ってて怖いわね、この発想」
でも、きっと呪いを解く手段を探すのだって、あののんびりした町よりもここの方がやりやすいだろう。
そもそも、ルカにかかっている呪いそのものを知ることも大事だし……。
ただ、町の人々を置いていってしまうというのが、自分の中で引っかかる。
おばあちゃんたちのお孫さん話に、おじいちゃんの過去の武勇伝、失恋ばかりしていた友人に、優しいオーナー……。
途中で投げ出した感じがして申し訳ない。
正直に言うと、心は決まっている。
……でもどうしよう。どう考えたらいいかなぁ。
決断しきれずにいた時だった。
ふと、外を歩く人影が見える。
数名分の黒い影が、中庭を横切っていく。
「……昨日のあの地獄の魔術演習からの夜勤て鬼だよなー」
「ほんと。俺あの後からずっと光るものに反応しちゃうもん」
「わかる!あれ、絶対演習向きの呪文じゃないって!」
そんな声が聞こえてきた。
騎士団員かも、と思った時だった。
「ルカなんてだいぶ狙われてたよなー」
思わず立ち上がった私は、バルコニーの手すりに駆け寄る。
「ほんとほんと。笑えるほどに狙われてた。俺そのすきにめっちゃポーション飲んでたもん。普通味だったけど」
「お前あの副団長になにしたの?」
2人の騎士にそう問われ、右端で少し距離をとって歩いている騎士が答える。
「何もしてない」
「ほんとに?たまたま狙われてただけ?英雄だから?」
「……知らない」
「それは災難だったなー」
そう言いながら歩いている彼をじっと見る。
……やっぱりルカだ。右端にいる黒髪。
こっちに気づくかなぁ?
じぃっと見つめてみるけれど、彼らの背中がどんどん小さくなっていく。
その後、彼らはそれぞれの持ち場へつくようにばらばらになった。
気づいてもらえなかったな。
まぁ、気づかれたとしても、今のルカは絶対手を振ってくれたりはしなそうだけど。
「……やっぱりルカといたいな」
昔みたいに何も気を遣わず普通に話をして、笑いあったり、喧嘩をして怒ったりしたい。
当たり前のことを、当たり前にしてすごしたい。
ルカにもそうして欲しい。彼の方が制限のかかった日々を苦しみながら生きているのだ。
そのためにもやっぱりルカの呪いを解かなければ。
私にどこまでできるかわからないけれど、とにかくやれるだけのことはやってみよう。
半分の月をみながらそう思った。
クレアちゃん、決意しましたね。
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