1.年下の天使な幼馴染
平和な学生時代編です。6話くらいまで続きます。
ずっと隣にいると思っていた。当たり前のように。
それが奇跡のようなことだったなんて、この時の私は全然知らなかった。
さかのぼること5年前。
私達がまだ学生だったころのこと――――
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5年前 学生時代
「クレアー!朝よーおきなさい」
部屋の扉をどんどんと激しくノックする母に、私は布団をかぶって抗議する。
「むりー。10分後におこしてー」
「何言ってんの。さっきもそう言ってたじゃない。なんだかんだ30分経ったわよ!今日からまたルカちゃんと一緒に学校行くんでしょ」
その言葉に私はがばっと体を起こした。
そうだ、今日からまたルカと学校に行くんだった。
「あんた、ルカちゃんがいないとほんと遅刻ギリギリなんだから。2つ年上とは思えないわね。しっかりしなさいよー!!」
「もう!起きたから大丈夫よ!」
母の小言に反論すると、私はベッドを降りる。
「2つ年上とか関係なくない?朝眠いのは人類皆同じだと思いますけど」
文句を言いながらクローゼットをあけると、制服を取り出してささっと着替える。
肩まである茶色い髪の毛は少し癖があるので、サイドを緩く編み込む。
そして小さなリボンのバレッタをとめる。
制服のリボンを結びなおし、鞄の中身を確認すると部屋を出てた。
リビングに入ると、そこでは母と一緒にコーヒーを飲んでいる幼馴染がいた。
「おはようクレア。やっと起きてきたね」
私に気づくと、制服姿のルカが爽やかな笑顔でそう言った。
窓から差し込む光で、彼の金色の髪の毛が柔らかく光る。
「え、な、なんでルカがいるの?」
「あんたがなかなか起きないから、うちに来てもらったのよ。ずっと外で待たせちゃ可哀そうでしょ」
「好きで庭にいるから大丈夫だっていったんだけどね」
私に対して口を尖らせる母と、穏やかに弁解するルカ。
「久しぶりだからいいじゃないの。可愛い息子と一緒にお茶を飲みたかったのよ」
「息子にしてもらえて嬉しいです」
「ルカちゃんならうちはいつでもいいわよ~。ねぇクレア?」
「末永くよろしくね、クレア」
「……末永く……?」
娘の幼馴染を息子呼ばわりする母と、それを受け入れる幼馴染にため息をつく。
「……お母さん、ルカはお隣さんなんだよ?わざわざ朝お茶に誘う必要なくない?」
そう言いながらルカの隣に座る。
「あんたね、お隣りさんだからと言って待たせていいことにはならないでしょ。いくら幼馴染でもルカちゃんの優しさに甘えてたら、そのうち愛想つかされるわよ」
母はそう言いながら私にコーヒーを差し出す。
「いいんです、こうして虐げられるのも年下の役目ですから」
「ちょっと!私は別にルカのこと虐げたりなんてしてないでしょ!」
わざとらしく言うルカに私は口を尖らせる。
「ルカちゃんは昔っからしっかりしてるからねぇ。クレアの方が2つも年上とは思えないわよ。
あんた、お姉さん風吹かせてちゃだめよ?気を使ってくれてるのよ、ルカちゃんは」
「ねぇ、私どれだけダメダメ認定なの?」
もういいや、たぶん今朝は私の方が分が悪い。(いつもそうだけど)
「クレアは全然ダメじゃないよ。昔から変わらず優しいし、クレアの作るポーションは甘くておいしいし」
「……私をほめているのか、甘党であることを主張してるのかどっちなのよ、それ」
「もちろん褒めてるんだよ。クレアのポーションって他の人のと全然違って美味しいからさ」
「よかったわね、唯一の取柄をほめてもらえて。ルカちゃんはほんと優しい~」
なんだかんだルカをほめている母に呆れつつ、私は立ち上がる。
「そろそろ学校行かないと」
「そうだね。少し急がないと遅れるかもね。誰かさんがなかなか起きてこないから」
「……寝坊した上にコーヒー飲んですみませんね」
私達のやりとりに母が笑う。
「ほら、学生たち!しっかり学んできなさいよ!」
「いってきまーす」
「いってきます」
追い立てられるように家を出た私とルカは、少し速足で歩きだす。
「クレアのお母さん、むかしっから変わらず明るくて楽しいよね」
「そうだねぇ、いいのか悪いのか」
「すごくいいと思う。あんなお母さんだったら毎日楽しそうだよね」
「喧嘩とかも大人げなくするけどねぇ」
「いいんじゃない?そういうのも……」
彼はそう言って遠くを見つめる。
ルカ・エヴァンス。私の幼馴染だ。
ルカには両親がいない。彼が2歳の時に死別したらしい。
唯一の肉親である祖母に引き取られて暮らしていた。
その隣に家族で住んでいたのが私、クレア・ベネットだ。
私がルカと出会ったのは4歳の時で、まだ2歳になったばかりの小さなルカを一目見るなり「おとなりに天使がきたね」と母親に言ったそうだ。
柔らかな金色の髪の毛と緑色の綺麗な瞳を持つルカは、本当に天使のように可愛らしかった。
ルカを不憫に思った両親も彼を本当の息子のように思い、ことあるごとにルカとおばあさまを誘って食事やらお出かけをした。
一人っ子だった私と両親を亡くしたルカは姉弟のようにして日々を過ごしてきた幼馴染だった。
出会ってから12年が過ぎたけれど、私達の関係は変わらずに続いていた。
「こうやってクレアと学校行くのがすごく久しぶりな気がする」
隣を歩くルカが機嫌よさそうに言った。
「騎士科の実習だったもんね。えーと、1週間くらい?だったっけ?」
「10日だよ。まぁそんなに変わらないかもしれないけどね」
口を尖らせながらルカは言う。
「俺は久しぶりだからけっこうドキドキしてたんだけど」
「え?」
小さな声だったので聞き返すと、ルカはじっとこちらを見てからにこりと笑った。
あまりにまっすぐこちらを見るので、「何かすごいことを言ったのかな?」と聞く体制に入る。
しかしルカはすっと視線を外し「なんでもないよ」と穏やかな笑顔を残したまま首を振った。
「え?いいの?」と不思議に思いつつも、私はその話をそのまま流した。
ルカが隣にいると、いつもよりもしゃきっと歩ける気がする。
背はまだ私の方がほんの少しだけ高いけれど、姿勢のいい彼につられて私もささっと歩けるのかもしれない。
いや、本当は私も気づいている。
彼の身長がどんどんと私に迫っていることや、ふとした時に見える手の形やがっしりした肩幅の感じが私とは違ってきているということを。
このままでいたい。
性差を意識したくない私は、ルカとの違いを認めたくなくて、彼の隣で必死に背筋を伸ばそうとしているのだ。
「騎士科の実習はどうだった?ルカは王立騎士団に行ったんだっけ?
すごいねー。成績上位者じゃないといけないところなんでしょ?」
「そうだね。でもそこでの現地実習、地獄過ぎて死ぬかと思ったよ。10日間がほんとにきつかった」
「体力お化けのルカをもってしても地獄だなんて、恐ろしいね」
「お化けだなんて失礼な」
「やだ、自覚なかったのね?」
からかうような私の言葉に、ルカが肩をトンと小突いてきた。
彼は穏やかな雰囲気や美しい容姿に反してとても体力がある。
見た目天使の子ども時代から体力お化けの上、運動神経もよかったので私はついていくのが大変だったのだ。
今思えば、騎士科の成績上位者としてのポテンシャルがその頃からあったのだから、普通すぎる私がついていくのは無理に決まっている。
しかし幼かった私は「見えない羽があるのかもなぁ」と思っていた。我ながら可愛い。
今のルカは、天使……ではないな。ただのイケメンだな。
横を歩くルカをちらりと見てひとりうなずく私。
その視線に気づいたらしいルカは不思議そうに首をかしげていた。
学園モノ風にはじめてみました。




