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15  怖くて偉い(?)薬局長と、知らなかった私の才能

「薬局長って……偉い人ですよね?」

「偉い……というか城内の薬を全て管理している方です」

「えぇえぇ!?怖い……」


 思わず出てしまった言葉に、メイドさんがくすくす笑う。

 田舎者の薬だってダメだしされたりしないかしら??


 不安になる私に「大丈夫だと思いますよー。じゃあ明日お会いするということでお返事しますね」と半ば強引に決まってしまった。


 でもさ、城内の薬を全て管理だよ?

 ……もんのすごいボス感がある。きっと重厚感のあるヒゲのおじさまだわ……。

「あんたみたいな田舎の小娘が」みたいに言われたらどうしよう……。


 ここの就職試験、書類すら通らなかったしなぁ。

 キラッキラの慰労会で疲れているのに、その夜はほとんど眠れなかった。





 翌日、案内されて城内の薬局についた私は、そっと扉を開ける。

 清潔感溢れる白くて明るい店内には、数名のお客様がいた。


 そしてカウンターの奥で、白衣を着た男性2名が接客をしていた。

 丸眼鏡をかけた男性の接客がちょうど終わったらしい。

 ドキドキしながらその人に声をかけてみた。


「お仕事中申し訳ありません。クレア・ベネットと申しますが、薬局長さんは……」


「あ、はいはい。伺っておりますよ。その前に調剤おねがいしていいですか?

 ポーションの在庫が切れそうなんです。とりあえず30本!」


「え?えぇ?」


「人手がなくて困っていたんです。調剤室はこの奥なんでお願いしますね」


 あれよあれよという間に、私は調剤室へ押し込められてしまった。


「……どういう展開?」


 訳が分からぬまま、私は辺りを見回した。

 うちのゆるゆる薬局がまるまる2つは入ってしまいそうな調剤室。

 そもそも調剤室なんてなかったので、変に感動してしまう。


「……あぁ、なんか魔薬師っぽい。そして都会っぽい……」


 こんなところで働いたら、すごくできる人間って感じがするかも。

(まぁ、実際できる人がここで働いているんだろうけど)


 でも、これって許されるのかしら?

 だってお城だよ?

 お城の人に出すポーションを、ここの関係者じゃない私が作っていいのかしら?


 怒られたらあの丸眼鏡の人のせいにしよう。そうしよう。

 ということで言われた通り、30本のポーションを作った。


「あのぅ……できました」


 調剤室を出るとお客さんはいなくなっており、先ほどの丸眼鏡のお兄さんが1人カウンターにいた。


「あぁ、ありがとうございます。助かりました」

「あの、いいんですか?これ売っても?」


 心配になって聞く私に、彼はきょとんとした様子で答える。


「大丈夫ですよ?だってあなた魔薬師免許もってるでしょう?」


「持ってますけど……」


「じゃあ問題ないです。あ、調剤料ですよね!大丈夫です。

 ちゃんと30本分をお支払いしますから」


「え、あ、それはどうもありがとうございます……って違うんですよ!私は薬局長さんに会いにきたんです」


「はい。わざわざありがとうございます」


 私の言葉に彼はにこりと笑った。

 私はそのままかたまる。


「……薬局長さん?」

「はい」

「……」

「……何か問題でも?」


 小首をかしげてにこにこ笑う彼に、私は首を振る。


 いや、問題はないっていうか、思ってた感じと全然違いました。

 もっと重厚感のあるヒゲのおじさまとかそんなのかと。


 丸眼鏡で、にこにこ笑うこの彼が薬局長……?

 すらりとした体形で、銀色の短い後ろ髪をちょろりと結んでおり、なんともいえぬうさん臭さを醸し出していた。





「騎士団を救ったというクレアさんのポーション、飲んでみたかったんです」


 彼はそういうと私の作ったポーションを一つ手にとった。


 優し気な笑顔を張り付けたまま、眼鏡の奥の瞳をしゅっと細めて、じっと瓶の中の揺らしながら液体を見つめる。


 しばらくすると「うん……お見事」と小さな声でつぶやいた。


「『癒しの女神』の薬、いただきますね」


 薬局長は楽しそうにそう言ってポーションを一口飲む。


 えー、ちょっとまって。これはかなり怖い……。

 だってこの人、王宮内薬局のトップだよ?

 たぶんものすごい人だと思うんだけど……。


 ドキドキして感想を待つ私に彼はこういった。


「あぁ、やっぱり……このタイプの方なんですねぇ」

「このタイプ?」

「えぇ。甘くなるタイプ。ここまで甘くなるのってかなり珍しいですけど」


 ポーションが半分残っている瓶を見つめたまま、「肉体を酷使する騎士団にウケるのもわかります」とうなずいた。


「……なんだかすみません」


「なにがです?」


「私よくわからないけど、「癒しの女神」なんて言われてしまったんです。

 でも、やっていることは普通の魔薬師と同じなので、こんな待遇を受けるべきではないと思っているんです」


 正直にそう話すと、薬局長は首を傾げた。


「才能ですから謝ることないと思いますよ?」


「才能?」


 才能とはなんの?

 今度は私が首をかしげる番だ。

 すると、薬局長はおだやかに話を始める。


「薬が甘くなるのは魔薬師の魔法力の質が関係しているのはご存じですよね?

 でも、ここまで甘くなるのは魔法力の質だけではないんです。

 カプセルに力を注入するときに魔力を柔らかくする必要があります」


「魔力を柔らかく?」


 なにそれ、初めて聞いたんですけど。


「そう、実はですね、魔力を柔らかくすると少し甘い薬ができるんです。逆に尖らせるとすこし飲みづらい薬になる。

 ほとんどの人は、魔力の硬さをコントロールできないのであまり公表されてないんですけどね」


「……し、知らなかったです」


 驚く私に薬局長は微笑んだ。


「そうですよね。知らずにそれができていることが才能ですから、あなたは何も謝ることはないんです。素晴らしいことですよ」


「あ、ありがとうございます」


 褒められて素直に嬉しかった私。

 すると彼はずずいっと身を乗り出した。


「というわけでクレアさん、この薬局で働きませんか?」


「はい?」


 突然のスカウトに目が丸くなる。

 彼は世間話でもするかのように、にこにこと楽しそうに話を始めた。


「今人手が足りなくて困っていたところなんですよー。王宮内薬局って試験が難しいらしくて誰も入社してくれないんです。

 そこへいくと、あなたはもう試験なんていらないと思いますし、働いてもらえたらみんなが助かるんですけどねぇ」


「いやぁ、私もう就職してるんで」


 3年前のなら泣いて喜ぶであろうお誘いだったを、一言で断ってしまった。


「そうですか?残念です。あ、あと3日滞在されるって聞きましたから、暇なときはぜひお手伝いにきてくださいね。時給でお支払いしますから」


 にこにこと穏やかに微笑む彼に、私もつられて微笑んだけれど、彼のペースに飲まれてはいけないかもしれないと思う。


「クレアさん、試しにエーテルも飲んでみたいんですけどいいですか?30本」

「あ……はい……」


 ほらね。


 色々と驚くことがあったけれど、一番の驚きは私が「あと3日滞在する」ということだった。

 私は帰る気満々だったのになぁ。


薬局長やっと出ました〜。 

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