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11.動き出す私たちの運命

 記憶の中の彼とは何もかもが違う。

 髪の色も瞳の色も、まるで違う。


 でも、なぜだろう。目の前の彼がルカであると思った。

 名前を呼びかけると、小さくため息をついて黙り込んでしまった彼。


 ……まずい、違ったかな?人違いすぎる?いくらなんでも違いすぎるもんね……口から心臓が飛び出そう。

 ドキドキしながら「すみません、人違いでした」と謝ろうかと思った時だった。



「……これ、まだ使ってたんだ……」


 彼は視線を落としたままそう言った。

 ―――手元には青い蓋のクリームケース。


「!」


 その言葉で体中の力が抜けてしまい、私はへなへなと座り込んでしまった。

 たぶん心臓が一度体から飛び出たんだと思う。それくらい一気に力が抜けた。


 そんな私を見て、黒いルカは泣きそうな顔で小さく笑った。


「……大丈夫?クレア」


 久しぶりに私を名を呼ぶ声は、あの頃よりも低かったけどとても温かく感じた。





 話したいことや聞きたいことがたくさんあったはずなのに、何も出てこない。

 頭が真っ白で視界もぐるぐる回っている。


 なんとか視線を上げてルカを見ると、彼は私の言葉を待っているようだった。


「……それ、大事に持ってたの。ルカの形見みたいなものだったし……」


「……俺、まだ生きてるから」


 ボロボロの体で小さく笑ってそう言った彼の黒い瞳は、あの頃と同じような優しさがにじみ出ていた。


「そう、だね……生きてた……よかった、本当に……」


 生きてる。

 その言葉で一気に感情が抑えきれなくなった。

 涙がじわじわと溢れてくる。


「……ごめん、クレア」


 苦しそうな声色に胸が苦しくなる。

 そして、ひさしぶり言われた言葉が「ごめん」であることが悲しくなる。

 涙がボロボロとどうしようもないくらい落ちてゆく。


 すると木に体を預けて座っていたルカが少し、体を起こす。

 手を伸ばしかけて、ぐっとそれを宙で止めて唇を嚙んだ。

 私と視線が合った瞬間、彼はふっと腕をおろして顔をそむけた。


 なんだか距離を感じてしまうその仕草に、ショックを受けた時だった。


「ルカ!救助隊が来たぞ。城へ戻ろう」


 ダンディ騎士と数名の隊員が私達の元へとやってきた。


「『あの力』を2回も使った後だし、お前は急いでいつもの処置を受けるんだ。

 巫女も準備できているらしい」

「……わかりました」


 あの力?巫女……?

 その言葉に私が引っ掛かりを覚えた時、ルカは他の騎士に支えられるようにして立ち上がる。


 これでもう会えなくなる。どうしよう、でもこの状況で何を言えばいいのか……


「クレア、今まで本当にありがとう」


 ルカが私を見てそう言った。

 そして支えられながら歩いていく。


 もう会えない。


 このままだと本当にもう会えない。

 直感だけれど、ルカはもう私に会うつもりはないのだとわかった。



『騎士団員ともなると、生死がどうなるかなんてわからない。だから、周りの人への感謝とか愛とかをちゃんと伝えておかないとその時がきたら後悔するって』

『……なるほど』




 学生のころ、ルカが話したことがばっと記憶の中によみがえる。

 その瞬間、私は叫んでいた。


「ルカ!早く良くなってね!!薬もっていくからね!」


 すると、ルカを支えていた隊員たちがぱっと私を振り返った。

 もうどうでもいい。とにかく聞いて!伝われ!そんな気持ちで続ける。


「ちゃんと治して!元気になってまた会おうね!」


 叫んだあと我に返って、思わずスカートをぎゅっと握りしめる。

 すると振り向かないまま、ルカはこくんとうなずいた。

 そしてそのまま歩き出す。

 ルカを支えている隊員たちが、ルカを覗き込んで楽しそうに喋りかけているのが見えた。


 そんな彼の後姿を見送っていると、ダンディ騎士が私を見た。


「……ルカとお知り合いでしたか?」


 あいまいにうなづく私に、彼は興奮気味に身を乗り出してきた。


「そうでしたか!それはすごい!まるで運命ですな」


 ……運命……?


「そういえば、あなたのお名前をお聞きしておりませんでしたな。改めて礼をさせていただきたい」


「いえ、別にそんなのいいです」


「いけません、我が騎士団と国の英雄を助けてくださった女神様ですからね。しかも、その当人が知り合い同士!今回の報告をしなければなりませんし、ぜひお礼をさせていただきたい」


 彼が名刺を差し出してきたので、仕方なく私は持っていた名刺を渡した。


「ありがとうございます。ではまた後日」


 そう言って一礼すると、彼もルカ達の後を追っていった。


 そして、魔法陣のような不思議な光に包まれてふっと消えていった。



 人の気配がまったくなくなったその場所で私は一人立ち尽くす。

 今体験したことがまるで嘘のようだった。




「……王立騎士団第一部隊 部隊長」


 ダンディ騎士の肩書を見て、ルカは王立騎士団員(しかも満月の英雄)だったのだと確認する。


 運命だというのなら、たったいまその運命が回りだしたのだと思った。


お読みいただき、ありがとうございます。

さて、ボロボロのルカ君と出会いすぐに別れました。

次回はルカ視点のお話と、騎士モードのルカ君が予定です。

明日更新予定ですのでよろしくお願いいたします。

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