10. ルカとの再会
とりあえず薬を作らなきゃ!
バックに常備しているラムネを取り出すと、いつものようにぱくりと口にする。
私はストックしておいた魔力カプセルをとりだした。
虹色の光を放つこのカプセルには私の魔力が込められている。
これを特製の精製水にいれればポーションができあがるのだが、今回は精製水がないので、飲み水を少し変える必要がある。
「えぇと、飲み水を変えるには……」
調剤バックから1本のスティックを取り出した。
先端が丸く膨らんでおり、持ち手には小さな青い石がついている。
膨らんだ方を飲料水につけ、小さな青い石を指先でつまむ。
「普段あまり使わない道具なのよね」
うまくいくのだろうか。
深呼吸をすると、青い石に触れた指先に全神経を集中させる。
青い石が光はじめ、スティックの先の膨らんだ部分が虹色に輝きだした。
うまく魔力が流れているようだ。
やがてポンっと飲料水の中で虹色の大きな気泡がはじけた。
魔力水が出来上がった合図だ。
このボトルにそっと魔力カプセルを入れると、しゅわしゅわと金色の泡がはじけて消えた。これで即席ポーションの出来上がりだ。
*********
「ふぅ……これで間に合ったかな?」
できる限りの調剤を終えた私は辺りを見回した。
動けなかった人が歩けるようになり、意識のなかった人が目を覚ましている。
よかった。なんとか助けられたみたいだ。
「ありがとうございます!!」
振り向くと数名の騎士団員がいた。
「あなたがいなかったら、隊の三分の一を失っていたかもしれません」
「お役に立ててよかったです。でも、本当に急いできちんと手当を受けて下さい。材料も間に合わせなので……」
これで大丈夫だと安心されても困る。
完全な効果が出たとは限らないのだ。
「わかりました。しかし、信じられないくらい効きましたよ。すごく美味しかったし」
「ほんと、こんな飲みやすい薬初めてです」
「薬作ってるところもなんか神々しかったです」
「あの魔力?光ってるやつ綺麗だったしな」
「傷薬もいい匂いしたし……」
若い騎士達が口々にそんなことを言い始めた。
傷薬は自分用の好きな香りの物しか調合できなかっただけなので、なんとなく気まずい。
「本当に驚きました。あなたの薬はすばらしい。あなたは私達の命の恩人。癒しの女神です」
「いえ、それはちょっと大袈裟では……」
「女神様ー!!」
ダンディ騎士の発言に戸惑う私と、盛り上がる騎士団の方々。
アドレナリンが出ていたであろう彼らを止める術はなく、私は苦笑するのみだった。とりあえず片づけて今日はもう帰ろう。
私は調剤の道具の片づけを始めようとしてふと、黒髪の彼のことを思い出した。
振り返ると、先ほどいた場所で同じように木にもたれて座っていた。
ポーションの空き瓶があるのでちゃんと飲めたようだった。
しかし、頭をがくりと下げ、うつむいたままピクリとも動かない。
この人、生きてるよね?心配……。
作ったそばから騎士の人が持って行ったので、ちゃんと全員に薬がいきわたったかどうか確認できてもいない。
とにかく作ることで精いっぱいだったのだ。
そっと歩み寄って声をかけてみる。
「……あの、大丈夫ですか?」
すると黒髪の人は、閉じていた瞳をゆっくりと開いて顔を上げた。
うわ、ほんとになにこの人。
ただこの動作だけでどうしてこんなに色気があるのかしら。
「どこか痛みますか?」
「……いや、大丈夫です」
彼は少しだるそうではあったけれど、先ほどよりも生気を感じる。
そして瀕死状態から抜け出した彼を見て気づいた。
この人が異様に整った顔立ちをしているということに。
ボロボロの今それがわかるんだから、普段どれだけ綺麗な人なんだろう。
お母さん、どうやら黒髪の英雄はイケメンだったようです。
筋骨隆々の大男と予想した自分よりも、ロマンあふれる母の方が正解だったとは驚きだ。
色々なことに私が感心していると、彼がゆっくりとこちらを見る。
「……ポーション効きました。ありがとうございます」
「お役に立てたならよかったです。必要ならまだありますけど……」
そう言いかけて言葉が詰まった。
黒髪の彼が伺うようにこちらを見ているのだ。
見つめられてドキドキする、とかではなくてどこかで見たことのある瞳のような気がする。
じっと見つめ返しながら記憶の中で同じ瞳を探す。
わかりそうでわからない。黒い瞳の知り合いなんていたかなぁ。
必死に考えている間も、何か訴えるような、探るような彼の瞳がこちらを見つめている。
どうしよう。騎士になるような知り合いなんてルカくらいしか……
「……え?」
そこに思いあたった瞬間、彼の黒い瞳と幼馴染の緑の瞳が重なった。
まさかと思い彼を見る。
「……ルカ?」
カラカラになった喉の奥からなんとか声を出すと、目の前の彼は小さくため息をついたのだった。
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